遊楽部川水系砂蘭部川
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最上流部に林野庁の治山ダムが1基、その下流に北海道渡島総合振興局が設置した砂防ダム2基がある。それぞれのダムの下流で、河床が下がり、川岸が崩れ、山脚崩壊が起きている。特に最下流部の2号砂防ダムの下流では農地が崩れ、生活道路が崩れるなどの災害が多発している。道道「砂蘭部橋」の橋台の浸食が酷く、道路が陥没する可能性が高いことから、再三再四にわたり対策の申し入れをしたが、なかなか重い腰を上げない。数ヶ月経って、ようやく行った処置は、見せかけの実に不適切な施業だった。大きな被災を受けないと、国の補助金が引き出せない。補助金額が、大きくなるように被害を待っているとしか思えないこの姿勢には、住民の生命・安全を守ろうとするような理念は、微塵も感じられない。
これまで私たちは、砂蘭部川で頻繁に起きる災害の原因が、河床低下によるものだとして、上流ダムの撤去、もしくはスリット化での対策を何度も河川管理者の函館建設管理部治水課に申し入れをして来た。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/155/syuh/s155007.htm
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/155/touh/t155007.htm
しかし、管理者は、河床低下は発生していないと国へ虚偽の報告をし、国を欺き、災害申請を出して災害復旧工事を繰り返してきた。ところが、何故か2012年になって、突然に河床低下を認め、管理者主催で砂防ダムのスリット化を目指す「砂蘭部川河床低下対策検討委員会」を立ち上げた。だが、その実態は、スリット化の議論を先送りし、別の事業を差し込み、住民の意向を無視した不必要な工事を繰り返すばかりとなっている。スリット化を目指す検討会の筈が、予備事業を創出させてスリットを先送りし、災害の主因である河床低下の進行は止まらず、道路の護岸が崩れる度に、工事を行っている。
下の写真は、その道路の護岸。2015年3月31日にコンクリートブロックで補修したばかりだった。ところが、翌月には、雪解け増水で、あっという間に再被災した。補修前と全く同じ姿になった。(補修後、1年も経過していない被災を、”未満災”と言い、税金を使った事業だから、責任問題が発生する)…しかし、河川管理者は公共事業評価委員会へ虚偽の報告をしている。「雪解けの増水と地球温暖化で異常気象の大雨が原因」と言うのである。河床低下が原因で、繰り返し被災が起きるから、自ら「河床低下対策検討委員会」を設置したではないか。全く、呆れた組織である。函館建設管理部治水課の担当者は、川が壊れる原因を放置し住民の命と財産を引き換えにしてまで、何故、災害復旧の予算を獲得することの方が大事なのだろう?
「砂蘭部川河床低下対策検討委員会」 (魚類専門委員)帰山 雅秀:北海道大学大学院水産科学研究院 (砂防専門委員)柳井 清治:石川県立大学生物資源環境科学部環境科学科 (河川専門委員)渡邉 康玄:北見工業大学社会環境工学科
河床低下を認めざるを得なくなったこの場に及んでも、検討委員会を設置した既成事実を隠れ蓑に、こうして、新たな事業を創出する行政の手法には驚きである。
ここから、遊楽部川支流「砂蘭部川」(さらんべ川)の全容を3章に編成して紹介します。
このレポートは、川の悲鳴である。
第1章:ダムの影響
砂蘭部川には1基の治山ダムと2基の砂防ダムがある。
これら3つのダムは砂利で満杯である。
砂利を止めるとダムの下流では砂利が不足し、「河床低下」が進行する。
砂防、河川工学の学者たちは、「ダムは砂利で満杯になっても、やがて流れ出すから大丈夫だ」と言う。
しかし、その流れ出す砂利は、「小さな石、砂と泥」ばかりである。
これまであった巨石や大きな石は見なくなり、姿を消した。
巨石や大きな石は、ダムがあるから、もう流れて来ることはない。小さな石や泥しか流れて来ないから、ダムの下流では河床が下がっていく。
学者たちの説明は納得できない。
現場で起きる砂利流下の仕組みを、見誤るような学者に任せていたのでは、川は壊れる一方だ。
数字で川を制御しようとすればするほど、川は壊れていく。
【下の写真の解説】:治山ダムの上は、上流に向かって溜まり続けている砂利で、川底が上がり、水面が上昇している。右岸の山の斜面に水流が当たるようになり、山斜面が浸食され、山脚崩壊が進んでいる。【上の写真の解説】:治山ダムの下流では、小さな石ばかりになる。
ダムは、流れてくる砂利の大きさを選り分ける「ふるい」だ。
【下の写真の解説】:(左の円)河床は下がり、斜面が崩れ落ちている。(右の円)川岸は崩れ、右岸を浸食し後退した。【上の写真の解説】:噛み合っていた巨石の数は、どんどん減っている。(左の円)川岸が崩れて、川底にあった巨石が剥き出しになった。(右の円)川底が下がり、山斜面が崩れ落ちている。
【下の写真の解説】:山の斜面が崩れ落ちている。
ダムで流下する砂利を留めるので、填まっていた巨石は沈み込み、河床はどんどん下がって川岸が崩れ続ける。
アーマー化と表現されているが…川底の砂利が減少し、荒廃が進む深刻な状況だ。【上の写真の解説】:山深い渓谷に、出現した河原 。渓谷河川に有り得ない変貌である。治山ダム下流の砂防ダムでは、上流に向かって、砂利が溜まり続けている為、下流で、山が崩れ河岸が崩れる。その崩落土砂が、更に下にあるダムの手前で、どんどん溜まり続ける悪循環だ。
【下の写真の解説】:大量の土砂と流木が流され続けている。河原には根っこ付き流木が…
河岸崩壊、山脚崩壊の産物である。【上の写真の解説】:右岸の山の岩肌が剥き出しになっている。
この下流にある砂防ダムが、上流に向かって砂利を溜め続ける為、河床が上がり、水面が上昇する。その水流が、山の斜面を浸食し、崩落させている。
【下の写真の解説】:河原の石は、小さなものばかりだ。。
川沿いに植林地がある。渓谷河川に有り得ないことだ。この下の砂防ダムで留まった大量の砂利が谷を埋め、川底を押し上げた。川面は上がり、元は渓谷から離れていた植林地の際まで浸食したのだ。【上の写真の解説】:ここは、渓谷河川である。それなのに…大きな石は消失し、小さな石と砂や泥ばかりだ。学者たちの常套句は「ダムが満砂になれば、いづれダムを越えて砂利は流れ出す」…。では、何故その筈の砂利は、上流に貯まり続けるのか?
【下の写真の解説】:砂防ダムの上流に溜まった砂利が、河床を押し上げ、創出した河岸や山脚をも新たに浸食させている。かつての上流域の美しい渓谷は、荒廃した姿に変貌した。【上の写真の解説】:ダムの下流で岸が崩れ、山が崩れる。上流でも、岸が崩れ、山が崩れ…ダムを挟んで川は壊れるばかりである。
こんな大径流木…いったいどこから流れてきたの…?
【下の写真の解説】:砂防ダムから流れ出す石の大きさは…小さな石ばかりだ。
これに注目してほしい…!【上の写真の解説】:魚道は埋まって機能しないことが解っていながら、設置する「見せかけ」対策である。 填まりあって動かない巨石が、何故、流されるのか?…ダムで選り分けられた微細な砂が流れ出し、巨石の隙間に入り込む。細かい砂が巨石を動かすローラーの役割をする。砂に転がされる巨石は、いとも簡単に水流で押し流される。
ダムによって、下流では、アーマー化と巨石の転動が引き起こされる。
全てのダムで、極めて深刻な事態が静かに、しかし、確実に進行している。この砂蘭部川は、それを教えてくれている。
いよいよ、その砂蘭部川の全貌を見ていただきたい。
巨石が消え、恐ろしい変貌を。
第2章:巨石が消える
【上の写真の解説】:巨石は流され、岩盤が露出し、浸食した、まさかの光景である。 岩盤は、足で蹴飛ばせば崩れるほど、脆い砂岩である。更に流れてくる小石や砂が「ヤスリ」となって、砂岩を削る。
今もどんどん、どんどん浸食している。その影響が、下流域まで波及させている。
河川管理者が、「パンドラの箱の蓋」を開けてしまったのだ。
【上の写真の解説】:同じ場所である。砂利が不足すると、河床低下と砂岩浸食は加速して、こうなる。
【上の写真の解説】:2号砂防ダム下流の中央部が下がり続けているので、川岸からの砂利の供給まで絶たれる。
こうなると川底の砂利は急速に失われ、河床低下が加速する。
脆い砂岩質の岩盤はどんどん浸食され、まるでグランドキャニオンのようになる。
【下の写真の解説】:川岸には、まだ砂利があるが、河床低下で滑り落ちている。更に追い打ちをかけて上流にある2号砂防で、砂利の供給を絶っている為、岩盤が露出するのは免れない。【上の写真の解説】:川岸からの砂利の供給は限界に達した。軟弱な岩盤の浸食が急加速し、水面は下がっていく。
【上の写真の解説】:川岸から石が転げ出す。砂岩質の脆い岩壁は、基礎が削られて、剥がれ落ちる。
河畔立木は土台を失い、川に倒れ込み、流木となる。
崩れに崩れた川岸まで失うと、そこから出る砂利まで絶たれ、一層河床低下のスピードに拍車がかかる。
中下流域では、広大な牧草地が広がる。酪農は、ここ八雲町の地場産業の一つである。サケ、ホタテも主要な産業だ。
河川管理者や学者は「ダム」建設は、人命と財産を守るためだと言う。ここからはダムの影響が与えている実際に現場で起きている真実を見ていただきたい。
ダムが、そんなに有難いものなのかを。
第3章:人命と財産を守る?
【下の写真の解説】:2号砂防ダムの下流で、高台の農地が崩落した。落差は28 mもある。
畑はトラクターが近寄れなくなり、使用できなくなった。【上の写真の解説】:現在も、崩落は拡大している。
砂防ダムによって、農家は農地を失うことになった。
【下の写真の解説】:農地の崩落した上から川を見ると、細い川筋が堀り下がっていることがわかる。
元の川底や水面がどの位置だったのか?赤い破線をよく見ていただきたい。【上の写真の解説】:川岸の草木の生えている所には玉石が残っている。
これは、川岸の樹林帯が氾濫原だったことを物語っている。上流のダムで砂利が止まるので、ここまで砂利は流れて来ない。残っていた砂利は全て流され尽くし、砂岩質の川底が剥き出しになり、急速に浸食した。
グランドキャニオンのような浸食が、一体どこまで続くのだろうか…
川をこんな姿に変えてしまった河川管理者の責任は重大だ。
【下の写真の解説】:2号砂防ダムの下流。危なくて川岸に近づけない。2枚の写真の赤い円で囲んだ所に大きな玉石がある。
ここは氾濫原であり、元は水が流れる川底だった。
【上の写真の解説】:遊楽部川支流「砂蘭部川」(さらんべ川) 2号砂防ダムの下流で起きていること。
【上の写真の解説】:川岸は浸食されて崩落し、土砂が流れ出す。河畔立木は倒れ込み、流木となる。こうして川幅は広がっていく。
川幅が広がると…川底の砂利同士が、噛み合って動かない仕組みを失い、流れ出すようになる。川底は掘り下がり、河岸が崩れていく…河床低下と河岸崩壊の連鎖は、どうにも止まらない。
【下の写真の解説】:砂利が失われると…このような姿に変貌する…
改めて川底の砂利の大切さを教えられる。
砂蘭部川は、河川管理のずさんさを、語っているように思う。(遊楽部川支流「砂蘭部川」(さらんべ川) 2号砂防ダム下流)
【下の写真の解説】:この上に農地がある。斜面が崩れ落ちるのは時間の問題だ。河岸崩壊、山の斜面の崩壊…災害の連鎖は続いていく。(遊楽部川支流「砂蘭部川」(さらんべ川) 2号砂防ダムの下流)【上の写真の解説】:右岸にある農地へ、崩壊が進んでいる。
倒れ込んだ流木は、沿岸のホタテ養殖施設を破壊する。
流出した泥水は、養殖ホタテの幼貝~成貝を死滅させ、ホタテの種苗のラーバ(幼生)も失う。
ダムは人命・財産を守るために建設されるというが…現場は守るどころか、危険性を高めている。
人間の生活の糧となる、自然の再生産の力も消失させている。
【上の写真の解説】:河岸が崩れて川幅が広がり、農地が崩れた為、災害復旧工事で護岸を固めた。しかし、河床低下防止の「床固工」は、既に水面から露出し、壊れ始めている。どんなに力尽くで押さえ込んでも、制御は出来ない。川は生きているからだ。
「ダム」とは、莫大な税金を使いたい管理者と、実験好きの学者たちによる悪戯に度の過ぎた川遊びが生み出した「愚の骨頂」である。