活動をはじめるには

1. まず現場を知る

事業に疑問がある場合には、対象となる地域の環境をしっかりと把握しておくことが必要になります。
自らが調査しておけばベストですが、現地の人たちからの聞き取りや資料等も含めてデータなどを集めておくとよいでしょう。

過去にこんなことがありました。
あるリゾート開発計画に関して、地元の住民から「みんなで山菜採りや魚釣りをして楽しんでいる場所がスキー場やゴルフ場、ホテルなどに開発されてしまうので、見直しを求めたい。しかし、自分たちは自然のことは知らないので教えてください」との電話がありました。
そこで、自然保護団体にこのリゾート開発計画のアセス書を取り寄せていただき、調べてみました。魚類調査は一箇所につき10分程度で行っていたこと、また、この地にイトウが生息しているのですが、イトウのデータがありませんでした。この地を熟知した専門家でなければわからないことですが、イトウがいない僅かな時期を選んで調査を行っていたことも解りました。そこでアセス調査の不備を指摘したところ、再調査となり、その後この計画は頓挫しました。

これは現場の情報を知っておくことが、いかに大切かを示す例ですが、同時に、専門家の知識がこのように利用されていることも解ります。専門家や科学者たちの言葉だけを鵜呑みにせず、理解出来るまで、納得いくまで説明を求めることが必要でしょう。
事業者が示すデータを自らで調査を行い、検証することも功を奏します。
こうしたときに、力になってくれる仲間たちの輪、ネットワークがあればベストです。

2. 白地図に現場の情報を書き込み、集積する

私たちは近隣の川の白地図(流域図)をつくり、毎年、冬になると飛来するオオワシ・オジロワシの飛来数調査を行っています。10日毎や月2回ほどのペースで流域を車で移動しながら、どこに止まっていたのかを白地図上に種類(成鳥・幼鳥)と数を記録しています。
毎年、流域を見続けることになりますので、川岸が崩れてワシの止まる木が無くなったり、ワシの行動に違いが現れたり、個体数の変化など環境の変遷や生物の変遷まで見えるようになって来ますので、何かと役に立ちます。

是非、皆さんも、近くの川の白地図を作成して、動植物や湿地、沼地、河畔林帯や湧水帯、河川事業(ダム・落差工・護岸…)など、どんな情報でも白地図上に記載してみて下さい。やがて何かが見えるようになるかも知れません。
こうして集めたデータは記録としても貴重になりますし、多くの場面で活用出来るようになると思います。
地域のことは、地域の皆さんが取り組むという姿勢で、是非、試されて下さい。

私たちのメンバーは、漁業者、野鳥の調査や野草のガイド、カメラマンで構成されていますので、漁業で、ガイドで、撮影で、調査で、常に現場へ出ており、現場の生々しい情報を集めています。正直なところ、現場を知れば知るほどに、自然界で起きている荒廃に胸が痛み、悲しくなることが多いのですが…黙ってはいられません。

3.「野生の川」など自然のしくみが残された環境は極力保全する

治山ダムや砂防ダムの建設された川は、川の仕組みが失われ、荒廃が凄まじいものです。
そうした中で、ダムが無い、苔むした石が残る「野生の川」を見つけたら、その川を極力保全していただきたいと思います。

今、各地で「魚が棲める川づくり」「近自然工法による川づくり」「自然にやさしい川づくり」など、やさしいのは言葉だけで、実際は川を痛めつける工事ばかりが行われています。
将来、川への理解が深まり、元の川に戻す取り組みが始まったときに、「元の川」の目標とすべき指標が必要になります。「川のしくみ」を復元するには、野生の川に学ぶことが必要になります。
その為にも、「野生の川」を見つけたら、保全して残すことを心がけてください。
また、荒廃した森林を蘇生させるためにも目標となる「野生の森」が必要となると思いますから、「野生の森」の保全も必要なことです。

基本は、地域の良さは、地域の人たちが一番知っている訳ですから、地域の人たちが保全するという姿勢が重要だと思います。

4. 個人では対応しないで必ず団体で対応する

国や自治体が事業を進めるためには、住民合意形成が要になります。
ですから、疑問のある事業については、現場から声を上げることが効果があります。
自然保護団体などに依存する方法もありますが、自分の住んでいる地域のことは、地域の人たちで現場から声を上げるようにした方が功を奏するようです。

しかし、地域社会は親戚縁者や身近な利害関係者で構成されていますので、なかなか声を上げられないのが現実でしょう。
そのことを熟知した行政や事業者らは、「声を上げているのは誰だ?」ということを執拗に調べてきますし、個人が特定されると陰湿な手法で個人攻撃が始まります。住民から浮き上がらせたり、兵糧攻めにするなど、住民の間に亀裂が生じるように工作がされるようです。

ですから、現場からの声は個人が表に出ないようにして、必ず団体で声を上げるようにした方が良いでしょう。
現場からの声は、根拠を持っていれば、いずれは必ず理解されることになると思います。