川とダムの関係

川には水だけではなく、砂利も流れています。
ダムが出来ると、流速が変わるために、砂利の移動の仕組みが変わります。その結果、ダムの下流ではどのような変遷をたどるのでしょうか。
そして、ダムの上流ではどのようになっていくのでしょうか。

ダムによって川は「アーマーコート化(鎧化)」する

ダムの下流では、流れやすい小さな砂利が流され、流されにくい大きな石がごろごろと目立つようになります。これを専門家は「アーマーコート化(鎧化)」と表現します。

治山ダムや砂防ダム建設後のダム下流では、時を経ると次第に大きな石は見当たらなくなります。

砂蘭部川の2号砂防ダムでは、2007年頃には沢山あった石が次第に減少していき、2009年~2010年には劇的な変化がありました。

2009年と2010年の写真を見比べてください。

2009-08-07・加工済3・砂蘭部川砂防ダム直下・DSC_0013
2009年8月7日 砂蘭部川2号砂防ダム直下
2010-11-02・加工済・砂蘭部川・砂防ダム直下・DSC_0050
2010年11月2日 砂蘭部川2号砂防ダム直下

たった一年で、大きな石がごっそりと失われ、川底の岩盤が露出してしまったのです。
砂蘭部川2号砂防ダムは砂利で満杯です。ダムに流れ込んだ砂利は溢れて、ダムの堤体を越えて下流に流れ出します。
2009年の写真の左側を見てください。ダムから流れ出した砂利が見えますが、大きな石はありません。あっても拳大くらいの石です。殆どが小ぶりな砂利ばかりです。

2015年5月26日に砂蘭部川2号ダムから流れ出した砂利を撮影しましたので、下に添えます。

Basic RGB
大きな石はありません。あるのはご覧のように小ぶりな砂礫ばかりです。

上流からダムに流れ込んだ砂利は堆積し続けて次第にダムの堤体に押し寄せます。そうしてダムが砂利で一杯になってくると堤体から溢れ出るようになります。

ここで注目いただきたいのは、ダムから溢れ出す砂利の「大きさ(質)が変わる」ことです。ダムに流れ込んだ巨石や大小様々の砂利は、ダムで振るい分けされて、小粒な砂利ばかりを下流に出します。大きな石はダムで止まり流れてこないのです。

ダムから流れ出す小粒ばかりの砂利は、やがてその量を増し、大量に流れ出すようになります。こうした大量の小砂利は、元からあった下流の巨石をも動かしてしまうのです。その事実が、次の実験で再現されています。

河川の模型を使った実験でわかったこと

元・筑波大学の池田宏氏が各地で河川の模型実験を披露しています。
まず、模型の川(水路)に大きめの石を置き、水を流す。
しかし、石はほとんど動かず、流されない。
次に、池田氏は水に砂を加えて流す。
加える砂の量が次第に多くなると、大きめの石は砂にまみれ、砂に浮き上がるようになって、動き始め、流されていきます。
その実験を、榊原大地さん「北海道の森と川を語る会」が再現してくれましたので、是非、見てください。

みなさんもテレビで見られたと思いますが、土石流災害の映像には石が泥まみれになって流れる様子が写っています。
下の写真は大きな石が上流から流れて来て、淵で止まった様子を写したものです。

●●2013-06-17・加工済2・パンケニコロベツ川・砂利のコンベアー効果を示す現場・DSC_0107

写真をよく見てください。
大きな石が小砂利にまみれた中にあります。
池田宏氏の解説通りの姿ではないでしょうか。

砂蘭部川2号砂防ダムの直下の2009年と2010年の違いは、砂防ダムから流れ出す小ぶりの石、小さな砂利が次第に量を増して、”ある量(閾値)”に達したときに、巨石が動いたことを物語っています。

河岸が垂直な崖になった川には上流にダムがある

取材撮影担当の私が、北海道八雲町の遊楽部川で撮影を始めたのは、1977年のことです。
1990年頃までは、1981年の石狩川大水害をもたらした台風10号の時を除いて、川は雨が降っても、少々増水しても、酷い泥水が出ることはありませんでした。
しかし、その後は少しの雨でも川は泥水が流れるようになり、噴火湾ではホタテの稚貝が採れなくなったり、根の付いた流木が海に流れ出し、漁具被害が発生するようになりました。
泥水や根の付いた流木は、河床低下で発生します。

ダムの下流で、川底の砂利が押し流されると、川底が下がっていきます。川底が下がると、川岸との落差が開き、川岸が崩れ始めます。

2015-06-02・加工済・砂蘭部川・河岸崩壊・KAZ_0017
河床低下は「砂山崩し」の原理で川岸を崩壊させ、山を崩壊させる。その結果、大量の微細な砂やシルトが流れ出し、川底に堆積し、魚の繁殖を阻害する。しかも卵の段階で泥を被せるので、その影響は深刻で、魚は絶滅してしまう。河床低下の現場では、川岸の草木が垂れ下がって崩壊を覆すので、見落とさないように川岸をしっかりと観察することが必要だ。河原や川岸の大量の泥も異常現象と知るべし。

更に河床が下がり、川岸が崩されていくと、川岸は垂直の崖に変わります。
「砂山崩し」の遊びで、砂山の裾の砂を取り除いていくと、ある時からドサッと砂が崩れるのと同じです。
垂直の崖になった川岸の裾に、水流が当たって石が抜かれてしまうと、川岸は河畔林もろともドサッと崩れ落ちるわけです。

自然の川、つまり、ダムの無い川では、河岸が垂直に崩れても、上流から運ばれてくる石で補われ、やがて川岸は傾らかになり、ここに草木が生えて、元のように水辺が蘇るわけです。
ダムがある川では、河床低下が更に進む為、川岸は崩れたまま、流下する石も無いので、いつまで経っても川岸は基礎が抜かれるばかりで、ドサッ、ドサッ…と、崩れ続けるのです。
その結果、川幅が広がっていきます。

川岸が崩れ続けるから、泥も流れ出し続けるのです。
つまり、雨で川が増水すれば、川岸の基礎が抜かれて、川岸が崩れ、泥水や河畔の木が流れ出すようになるわけです。

2015-05-26・加工済・砂蘭部川・2号砂防ダム下流・KAZ_0408
川底が下がり、川岸の砂利が抜かれて、川岸は砂山崩しのようにどんどん崩れて、とうとう地中に埋めてあった導水管がむき出しになった。井戸の高さから川底の低下の度合いは、まさに有り得ないような事実だ。

このように川岸が垂直の崖化した川の上流には、必ずダムが有ります。そう思って間違いありません。

山崩れ防止や土砂災害防止を目的に建設される治山ダムや砂防ダムがむしろ、川を不安定にさせて、災害を新たに引き起こす原因になっていることを知っていただきたいと思います。

多くの人たちは、「治山」や「砂防」の言葉に惑わされて、山崩れや土砂災害を防止するものだと思い込まれているのではないでしょうか。事実、私もそう思って疑うこともありませんでした。しかし、実際は治山ダムや砂防ダムのある川で、災害は頻繁に起きています。簡単に異常気象だとすり替えず、災害の根源は本当は何なのか?発生源から因果まで現場をしっかりと見ることが、とても重要なのです。