ダムを温存させた「魚道」では魚は増えない

知床半島、オホーツク海に注ぐフンベ川にある治山ダムが砂利を止めているため、下流一帯で河床低下が進行し、川岸の崩壊や川に面した山の崩壊が際立っている。

フンベ川の記事は下記を参照。URL:フンベ(噴辺)川 | 流域の自然を考えるネットワーク (protectingecology.org)

河床が低下し、川岸が引き倒されるように崩壊しているのが解る。撮影:2004年4月28日。
河床低下は川に面した山の基礎部を水流が浸食するようになるので、ちょうど「砂山崩し」のようにドサッと山の斜面が崩れ落ちるようになるのだ。撮影:2004年4月28日。

河床低下が著しいこのフンベ川に、治山ダムの影響を温存させたまま、魚道が建設されたという。

出典:2022年9月25日付・北海道新聞。

魚道が、さも効果があるように報道されているが、行く手をダムに遮られて上れない魚たちに、上り口をあけてやれば上るのは当然だ。だが、魚を上らせれば、魚が増えるかと言えば、必ずしもそうはならないことを知るべきである。魚道から流れ出す砂利は小ぶりの砂利ばかりだ。従って、魚道の下流側の川底の砂利は流され、魚道の上り口が掘り下がって行き、やがては魚が上れなくなる。河床の砂利の下が岩盤であれば、岩盤が露出してしまい、魚は産卵できなくなる。

治山ダムは上流にどんどん砂利を溜めていくので、V字谷が平らになり、流路は平面を蛇行し、山を浸蝕して崩壊させ、泥水を発生させる。また、治山ダムの下流では河床低下が進行して、川岸崩壊や川に面した山を崩壊させ、川はどんどん壊れていき、ちょっとした増水で泥水が流れ出すようになる。

この流れ出す「泥水」が曲者だ。泥水は川底に微細な砂やシルトをまき散らし、河床に沈澱、堆積し、石のすき間を埋めてしまう。泥水を口から吸い込んで、エラから吐き出すことを思い描けば、エラに微細な砂泥が入りこみ、魚は粘液を出して体を守ろうとすればばするほど、エラには砂泥が付着していく。その結末は死であることは容易に想像できることだ。川底に産み落とされたサクラマスやカラフトマスの卵を育てる仕組みが壊れ、繁殖不能の川にしてしまうのだ。魚は上るようになっても、やがては魚が減り、生物多様性も失われる。従って、魚道の効果は一時的な”見せかけ”に過ぎないのであって、魚が増えることにはならないことを肝に銘じてほしい。コンクリートであれ石組みであろうが見せかけに錯覚していれば、川は壊れ、やがては資源は確実に減少、失うことになる。

魚を増やしたいのなら、繁殖環境を蘇らせることだ。

魚の卵が育つ仕組み「再生産の仕組み」を知っていれば、結局、治山ダム・砂防ダム・落差工の撤去、または、スリット化するしかないことが良く分かる。河床の砂利は下流に流れ出し、河床が安定し、再生産の仕組みが蘇り、上流でも下流でも魚が繁殖できるようになり、魚は増える。また、酷い泥水が抑止されるようになれば、放流した稚魚の生残率も向上するというものだ。

他の河川の事例でも、魚道から流れてくる砂利は小降りのものばかりとなる。

魚道は万能ではない。次に事例を添える。

上の写真は、落差工に取り付けられた日本大学理工学部の安田陽一教授が考案した「台形断面型」魚道だ。魚は魚道を上ることができず、産卵場へ行くこともできず、行き場を失い、真っ黒に溜まって右往左往だ。治山ダム同様に、この落差工を温存させたために、下流域の川底の砂利が流され、粘土質の川底が露出してしまい、産卵場すら無くしてしまったのである。

なぜこんなことになったのか…?

自然の川は単なる水路では無い。川には多様な生物が生息し、それぞれに見合った暮らしがあり、最も基本的なことだが、川にはその多様な生きものたちの生命を育む「仕組み」があるのだ。この多様な生きものたちの生命を育む仕組みについての知見が欠けていたのでは魚がいなくなるばかりだ。

今回のフンぺ川治山ダムの魚道では、「コンクリートよりも自然の見た目に近い」と安田陽一教授は石組みにされたが、命を育む仕組みは何も変わらないから魚は増えない。魚は上っても再生産の仕組みは失われたままだからだ。この「自然石を使用した魚道」建設礼賛の報道をしたマスコミ記者の方にも、魚道で魚は上っても、その後の資源の増減の真実を取材して続報していただきたい。

治山ダム・砂防ダムを含めて、砂利を止める河川横断工作物の影響は深刻なものなのだ。河川横断工作物の影響の深刻さを無視し、見せかけだけの自然石を使った魚道建設を礼賛し、魚を増やすという発想は、所詮は薄っぺらな見せかけでしかない。魚の繁殖の方法や産み落とされた魚の卵が育つ仕組みを知らなければ、いくら魚を上らせても、資源が増えることはあり得ない。

魚の習性や川の仕組みを考慮されずに建設される「魚道」ほど、やっかいなものはない。日本全国の川で魚たちは繁殖出来なくなっており、水質がどんなに良くても、魚がどんどんいなくなっているのが現実である。

 

 

親から独立した”あどけない子グマ”との遭遇

カテゴリー:
2022年10月20日、当会外部スタッフの釣り雑誌フリーランス・ライター&カメラマンの浦壮一郎氏と、北海道南部のスリット化した砂防ダムを視察した際、この年に親から独立した若いヒグマに遭遇した。ヒグマはエゾタヌキを追い回し、襲うというよりも、無邪気にじゃれ合っているようだった。エゾタヌキには迷惑この上なく、身を守ることに必死の形相だった。遊び相手を探していたのだろうヒグマは、私たちのいる川に出て来た。
エゾタヌキを追いかけて子グマが私たちのいる川原に出てきた。エゾタヌキを襲うという様子ではなく、遊び相手になってほしくて、エゾタヌキを追い回していたように見えた。
子グマに追い詰められたエゾタヌキはめいっぱいに反撃していた。
子グマとエゾタヌキのことの顛末を見届けるのもいいが、スリット化した砂防ダムを見に来る人も多い川なので、人前に出て来るようになったら困ると考え、仲裁に入り、子グマを追い払った。その経緯を浦氏がビデオ撮影しており、「つり人社」からyoutube版で公開している。
実録!ヒグマが至近距離に……その時どうする?:https://www.youtube.com/watch?v=BdpAG5kYZ30
私は子グマを追い払った。私の追い払いに対して、子グマは尚も纏わりつき、近づくことを繰り返した。個体により性格は様々だが、この個体はよほど好奇心が強いようだった。私の追い払い動画は、こうやれば、子グマがどう反応して、どう行動するのかが分かっていただけると思う。
コメントには、手出しをした事への批判があったが、この子グマの将来を考えれば、人前に出て来ないように学習させることが必要と考えて対処した。この個体は、親から独立し、まだ何も知らないあどけない子グマと分かったので、こうした対応ができた訳だ。しかし、既に経験を積んだ成獣では、動きも俊敏で、力もあり、性格もいろいろで、どのような行動を取るのか判らないから、姿を見たら、関わることなく、入域を断念して引き返す判断が必要だ。動画からヒグマとの不意の遭遇や、執拗に纏いつかれる事もあることを知っていただき、身を守る装備や方法を今一度、考えていただければと思う。フイールドでは、フォイッスルや声かけなど、人の存在を前もってヒグマに知らせるように意識して入域して欲しい。
2023年の3月に、この子グマと同じような、あどけない子グマが札幌市南区の小金湯付近に出没し、新聞、テレビで報道され、騒ぎになった。警察、専門家も含め行政は、この子グマを前にして、何もしないで遠巻きに眺めているだけで、追い払うようなことは行わず放置し続けた。その結果、この子グマは人がいても自分の身に危険は無いと学習したのであろう、人馴れしてしまい、人を見ても逃げなくなり、その結末…危険になったという理由で、4月に鉄砲で撃ち殺された。
北海道のヒグマ対策は、ヒグマの専門家によって40年以上も前から取り組まれてきている。それなのに、目の前にいる、あどけない子グマすら、追い払いをしない。遭遇対処の経験が無いから出来ないのだろう。これまでのヒグマ対策は、すべてが追い払いを行っておらず、徘徊を放置したままにし、その結果、ほとんどの事例が、檻罠で捕獲して鉄砲で撃ち殺すことをしている。
一方、知床半島の番屋ではヒグマの専門家でも無い漁業者が、ヒグマの行動を実に詳しく観察しており、出没ヒグマの追い払いを実践している。その結果、その地区では、ヒグマとの共存が確立されている。こうした事例があるのだから、北海道のヒグマ対策は、捕獲して殺すのではなく、出没した際のヒグマの追い払い方法をこそ確立してほしいことを切に願う。

河床低下が進む十勝川の「新たな治水対策」でサケが増える?

カテゴリー:

2023年3月22日、河床低下が進む十勝川で「水害への備えと漁業資源回復の両立」を目指し、「新たな治水対策」がNHKのウエブニュースで紹介された。

出典:北海道 NEWS WEBにメモ書き加工。

https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20230322/7000056134.html

つまり、この「最新の治水工事」とは「河道掘削」のことだとある。河床低下が進行している十勝川で「河道掘削」すれば、河床は更に掘り下がり、地下水位も低下し、十勝川が包容する水量が減少する一途となるのではないか。

北海道大学には十勝川に関する論文があり、下記に一部を引用する。

巻末には結論が添えられている。

今から42年も前の1981年に、「河床低下は治水上は好ましいことであるが…」との前置きで、十勝川の地下水の水位低下が進行していることを報告。十勝川の現況を危惧し、警鐘する意味で添えられているようにも読み取れる。よく考えてみよう。地下水の水位低下は十勝川の水量が減ることを意味しているのだ。

42年も前に河床低下の進行が指摘されているのに、これを無視しての「河道掘削」ということになる。河幅を広げ、砂利河床を露出させればさせるだけ、砂利が流され、川底が更にどんどん掘り下がっていく。特に、わき水が「湧き出す」川底ほど、砂利が流され易く、急速に掘り下がり、澪筋は偏っていくものである。澪筋の広がりは失われ、細く単調な流れとなり、多種多様な魚類の生息環境が消えていく。

北海道南部の太平洋に注ぐ八雲町の遊楽部川では、過去に大規模に「河道掘削」が行われ、河道が拡幅された。その後、河床低下は進行し、サケが産卵していた湧水のある川底が掘り下がり、澪筋は偏り、サケの産卵場は激減した。そればかりではない。河床低下は上流へと波及していき、広範囲で川岸崩壊を誘発するので、泥川となり、サケの産卵に適した場所が砂泥で埋まるようになり、自然産卵由来のサケ資源は風前の灯火状態になっている。まさに、不毛の川へと導く「河道掘削」である。

河道掘削の際に護岸基部の川底に敷き詰めた「護床工(コンクリートブロック)」は水面から露出し、川の方へまるで護岸のように垂れ下がってしまった。河床低下恐るべし。

ましてや、湧き水を産卵場にしているサケは、「河道掘削」で湧水が消失すれば、増えるどころか、どんどんいなくなっていくのがオチである。その場しのぎの安易な「河道掘削」は、更なるサケ資源の減少を招く。漁業者にとって死活問題である。

この治水対策議論は、河川工事を異論なく進めるためのサケ資源回復を免罪符に利用しているに過ぎない。(サケの減少は、温暖化のせいだと言っておきながら、こういう工事計画の際には、川の環境のせいだと言う)工事直後は自然が回復したように見える。しかし、「その後」、川は必ず変貌する。科学しようとする立場の人たちは、川に向き合い、魚に向き合い、地域住民や漁業者のためにも抱き合わせ商法のような謀る議論はやめて、河道掘削で起きる「その後」を、しっかり検証して現場の将来を見据えた議論をしていただきたい。

 

 

ダムをスリットしたせたな町は、4年連続でサケの漁獲好調!

カテゴリー:

2023年2月14日付けの北海道新聞記事で、檜山管内(5町)の漁獲量が、せたな町が76%「増」で、他の4町は12~52 %「減」とある。他の4町と異なるのは、せたな町だけがダムのスリット化を手がけていることである。せたな町の”一人勝ち”に見えるのは、ダムのスリット化の効果だと思わざるを得ない。

出典:2023年2月14日付・北海道新聞。

せたな町では2010年から2河川で、ダムのスリット化に着手して来た。その後、せたな町では2019年から2020年、2021年、2022年と、4年連続で、サケの漁獲量が右肩上がりに増えている。

漁獲されるサケの年齢は3年魚、4年魚だ。ということは、3~4年前の2015年か、2016年頃から、サケの稚魚の生残率が向上したと考えることができる。つまり、スリット化着手後、5年、6年を経過して、サケ稚魚の成育環境がよくなったと推察される。

2022年の秋、せたな町でダムのスリット化をした川では、沢山のサケが川に上り、産卵している姿があった。まだ、産卵環境が回復したとは言い難いが、ダムのスリット化着手前には川底に目立っていたシルト(泥)や微細な砂が無くなってきており、きれいな玉石が見られるようになった。粗い砂は沈澱しやすいので、濁りが速やかに消えて、水が澄みやすくなる。水が速やかに澄めば、人工ふ化放流のサケ稚魚も、自然産卵で生まれたサケ稚魚も、泥水のダメージが軽減され、生残率が向上する結果になる。今後、産卵環境が回復していけば、自然産卵由来のサケが急激に増加していくことだろう。

河床に堆積した砂が減り、河床の礫がサケの産卵に適した粒径になり、多くのサケの産卵が見られるようになってきた。

また、4基の治山ダムをスリット化した小河川でも、多くのサケが遡上し、あちらこちらで産卵が見られた。川岸にはヒグマの足跡が残されていた。冬眠を前にしたヒグマが、飢えて街中を彷徨うこと無くサケを食べる…本来あるべき自然の姿が蘇ろうとしている。親サケをヒグマが腹いっぱい食べても、卵が育つ川の仕組みさえあれば、その光景は未来永劫絶えることは無い。

4基の治山ダムをスリット化した小河川では、シルト分や微細砂が減り、粗い礫質の砂に変わりつつあり、多くのサケの産卵が見られた。
今後、次第に砂が減っていき、小石の目立つ川に蘇ったとき、さらに多くのサケが産卵するようになるだろう。
産卵を終え、一生を全うしたサケをカモメが啄んでいた。
サケが上るようになれば、冬眠を前にしてヒグマたちもサケを食べにくる。飢えて街中を彷徨うことも無い。川岸のあちらこちらにヒグマの足跡があった。

また、ダムをスリット化した後、河口海域では、茎が太く背丈の高いワカメが繁茂するようになり、岩のりが採れるようになったという。これは、泥水の”質”が変わったからではないだろうか。ダムをスリット化する前は、川岸や海岸では細かいシルト(泥)や微細な砂が目立っていたが、ダムのスリット化後、粗い砂に変わってきた。岩礁を覆っていたシルト(泥)や微細な砂が粗い砂になったことで、岩肌が露出するようになり、岩肌にワカメや岩のりの胞子が付着しやすくなり、発芽し、生育するようになったのではないだろうか。

一方、太平洋側の噴火湾に注ぐ遊楽部川では自然産卵するサケが消滅状態になっている。酷い泥水が流れ、河床はシルト(泥)や微細砂で覆われている。こんな川底に産み落とされたサケの卵は育つ筈もない。例え、ふ化したとしても、この酷い泥水の中をとても生きていけないだろう。もし、この酷い泥水がふ化場のサケ稚魚の養魚池に流れ込んだら、たちまちに稚魚は全滅する。それを分かっていながら、ふ化場からは、こんなに酷い泥水の中にサケ稚魚を放流しているのだ。人知れず、多くのサケ稚魚が命を落としているに違いない。生残率が低下し、その結果が漁獲量の激減になっているのであろう。

遊楽部川では春先、こんなに酷い泥水の中にサケ稚魚が放流される。生き残れる筈もない。撮影:2023年3月10日。
かつては、あちらこちらに、綺麗な水が湧き出す浅い水辺があった。河床低下が進行し、地下水位が低下した為に、水が湧き出す流れも途絶え、増水時には酷い泥水が流れるようになった。サケ稚魚の逃げ場も無くなってしまった。撮影:2023年3月10日。
出典:2022-年12月13日付・北海道新聞

 

出典:2022年12月16日付・北海道新聞。

 

 

ダムを温存させた太平洋側噴火湾とダムをスリットさせた日本海側せたな町の河川環境とサケの漁獲量の推移を、これからも見守り続けていく。

 

 

 

沙流川の支流に、とうとう「平取ダム」竣功…

2022年11月26日、平取町民体育館に於いて平取ダム竣工式が行われた。治水・用水・発電の多目的ダムとして二風谷ダムと合わせて2ダム一事業として平取ダムは建設された。

平取ダムは、沙流川支流の額平川と宿主別川の合流点に建設された。堤高55m、堤長350m、貯水量4,580万㎥。

額平川と宿主別川の合流点の淵では、故萱野茂さんが、「棒を投げたら、棒が倒れないほど沢山のサクラマスがひしめき合っていた」と話されていた。

試験湛水で、既に粘土のような泥が大量に溜まっている。

流域一帯を覆った木々は、溺死…川の潤いで均整された自然は人の手で一瞬に破壊される。

試験湛水で、もうこの有様だ。川岸が崩れ、木が倒れ込んでいる。2003年8月10日に起きた豪雨による二風谷ダム決壊危機は、大量の流木がゲートに挟まれて操作不能になった。このような大量の流木が、再び平取ダムにも押し寄せることになるだろう。過去の教訓を無視し、自然の摂理を無視したしっぺ返しは多大だ。