魚道では得られないスリット化の効果

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須築川砂防ダムのスリット化した間口は3.5mと狭く、流木で塞がるリスクがあるものの、2020年2月末までに8mの切り下げが完了した。そして8か月後の2020年11月6日、パタゴニア札幌スタッフたちと現地調査を行った。

堤高8mの砂防ダムの下部までスリット化を終えた須築川砂防ダム。撮影:2020年2月27日
間口は3.5mと狭いながらも8m切り下げた。今後は流木で塞がるかどうかをしっかりと見極める必要がある。撮影:2020年2月27日。

川底が掘り下がり巨石がゴロゴロしていたところは、スリットから流れ出してきた大小の石で覆われていた。自然の河床、河原が蘇ってきたのだ。

スリット化された須築川砂防ダムから流れ出した砂利が河床を覆い始めていた。川岸の落差も緩和されてきた。撮影:2020年11月6日。
大きな石ばかりで、掘り下がっていた河床は、ほぼ砂利で埋まって自然な瀬になっていた。撮影:2020年11月6日。
大きな石だけがゴロゴロしていた瀬は、砂利で埋まって歩きやすくなっていた。撮影:2020年11月6日

スリット直下のコンクリートの盤(叩き台)に穴が空き、良い深みができていたが、2月に行われた最後の切り下げの際に、この穴を塞ぎ、平らにされてしまった。

スリット化した堤体直下のコンクリート盤が露出していれば、サクラマスやサケの遡上は困難になることが気がかりであったが、現場は、スリットから流れ出した大量の砂利で、腰までの深さの淵になっていた。

堤体8m下部までスリット化が終わった直後。流れ出す水の下はコンクリートの盤だった。左右の穴よりもずっと下に水面がある。撮影:2020年2月27日。
スリットから流れ出した砂利でコンクリート盤は埋まり、深い淵が出来ていた。左右の穴まで砂利が堆積している。撮影:2020年11月6日。

スリット部は腰までの深さの淵になっていた。この淵で3尾のサケを見た。撮影:2020年11月6日。

堤高8mの堤体のスリット部は近づいて見ればその大きさが分かる。撮影:2020年11月6日。
堤体のスリット部の深い淵と自然な流れが戻った上流が見える。撮影:2020年11月6日。

スリット部の淵に3尾のサケがいた。多くのサクラマスやサケがスリットを通り抜けて上流で産卵したことだろう。産卵域が上流へと広範囲に拡大したばかりか、砂利が下流に供給されるようになったことから、ダム下流でも産卵域が蘇えった。ダムで分断されていた川の流れが一つの流れに繋がり、下流でも上流でも広い範囲でサクラマスやサケが産卵できるようになったのである。

サクラマスやサケは、1尾のメスが3,000粒前後の卵を産み落とす。スリット化によって産卵場が拡大したことから、3,4年後には爆発的に増えることが期待される。また、スリットから流れ出した砂利は、アユの産卵場も蘇らせた。地元の漁師も「見たことが無いほどの数が産卵していた」と言う。「河口の海岸は大きな石ばかりで歩きにくかったが、スリット化されてから小石化し、今ではサンダルで歩けるようになり、昔の砂浜が蘇った」「河口周辺では茎が太く背丈の高いワカメが、ヤナギの林のように密生するようになった」とも聞いた。

函館の土建業者とコンサルタント会社が立ち上げた「道南魚道研究会(現在は北海道魚道研究会と改称)」が、提案した日本大学の安田陽一教授が考案した魚道改築案を受け入れていたら、こうはならなかっただろう。そこには「ダムを撤去するしか川は蘇らず、漁獲高も望めない」という漁師たちの英断があったからだ。今後も、地元の漁業者から話しを聞き、川の変遷記録を続けていく。

須築川に建設した砂防ダムが、流れ下るべき大小の石を扞止したために、安定した自然の川の流れを狂わせ、その結果、川が変化を始め、川岸が崩れ、山が崩れ、川が荒れ、サクラマスやサケが枯渇するまでに激減してしまった。ダムをスリット化するだけで、元のように大小の石が流れ下り、産卵場が復活し魚が増え、海藻が増え、自然の仕組みが蘇る。。注目すべきは、全道でサケの漁獲が低迷しているというのに、この管内は、サケの漁獲が好調だということである。

 

青山ダムと当別ダムによる河川荒廃と危惧される当別活断層の存在

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巨大ダムは、微細な砂やシルト分(泥)ばかりを選り分けて下流へ流す。だから、川は泥川になり、川から魚がいなくなる。

非灌漑期に貯水をカラにする農業用ダムの底を見れば分かる。カラになった巨大ダムの底は泥ばかりになっている。水が抜かれてカラになった石狩川支流当別川の青山ダムを取材した。

非灌漑期に水を抜いた青山ダム。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムから流れ出る水は濃い泥水だ。撮影:2019年11月3日

青山ダムは、泥ばかりを溜め込んでいることがお分かりいただけるだろう。流れ出す水はご覧のように泥水だ。その結果、川底には微細な砂やシルト分(泥)が堆積し、魚は繁殖が出来なくなる。川底に産み落とされた卵は、微細な砂や泥を被り、窒息してしまうからだ。かつてはサクラマスやサケ、カワヤツメなど魚類が豊富な川だったというが、その面影はもう無い。そして、青山ダムの下流には更に巨大な当別ダムが建設された。

石狩川水系当別川

 

当別ダムは多目的ダムである。青山ダムで見たように、ダムの底は泥だらけ。そして、その泥が大量に下流に放流されることになるわけだ。撮影:2019年11月3日。
巨大な当別ダム。撮影:2019年11月3日

巨大な当別ダムは、溜め込んだ泥を下流に流す。その泥は、石狩川を経由して石狩湾を泥で染めることになる。そればかりか…

この当別ダムには一抹の不安がある。ダム付近に活断層とされる「当別断層」があるからだ。実際に活断層が動き、地表がずれた痕跡がある。青山中央地区にある「道民の森」公園の敷地内に当別断層の露頭があり、当別断層を直に見ることが出来る。下の写真で分かるように右側と左側で大きな段差が出来ている。これがずれた断層面である。地面には亀裂が走っている。

当別断層公園。左の平らなところと右側の一段高くなったところが当別活断層の断層面がズレたところ。.断層の露出部。撮影:2011年10月28日

この当別断層の位置がよく分かる図は、下記のサイトで見ることができる。

当別断層

https://www.jishin.go.jp/main/chousa/03nov_tobetsu/f04.htm

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/ktk/bousaikaigi/zisin/08sankouzuhyou.pdf

活断層「当別断層」と「当別ダム」の位置関係が分かるように地図とGoogle Earthの衛星写真に重ねて表示してみた。

元図に加筆している。当別ダムと当別活断層の位置関係の図。
Google Earthの衛星画像と当別活断層の位置を重ねた。出典:Google Earth

当別断層とダムの位置関係を図示してみれば、ダムのこんなにも近くに断層があることが分かる。もしも当別断層が動けば、ダム湖に面した山が湖面に崩れ落ち、ダム津波が発生する。そうなった時、当別ダムの堤体は津波に耐えられるのだろうか?

地すべりで発生するダム津波の怖さは、イタリアの「バイオントダム」の事例で知ることができる。

衝撃の瞬間「ダム津波の脅威」

また、当別ダム直下の地層がずれれば、堤体そのものが崩壊するかも知れない。地図や衛星写真にダムと断層を重ねてみれば、この場所に巨大ダムを建設することが果たして適切だったのか、疑問を感じるばかりである。当別ダムの下流には住民の暮らしがある。こんな場所に巨大ダムの建設を認めるだけの安全を担保する科学的な裏付けはあるのだろうか?

当別断層が動く確率は低いと言われても、福島第一原発事故や熊本地震のように事後になって「未知の断層」が動いた「想定外」だとして始末される。一昨年の2018年9月6日未明には、胆振東部で震度7の地震(平成30年北海道胆振東部地震)が発生し、JESEA地震科学探査機構「MEGA地震予測」のホームページには、この地震の前に苫小牧から札幌にかけての地表が沈降する現象が見られ、震源となった胆振地方では沈降と隆起が見られたとある。この地震でも、震度や震源が事前に予測された訳ではない。

https://www.jesea.co.jp/earthquake/003/

https://shizensaigaichosashi.jp/higashinihon-zishinhasseikikendo-katsudansou/

https://www.jishin.go.jp/main/chousa/03nov_tobetsu/index.htm

科学的な地震予知が確立されていないのに、巨大な当別ダムを当別断層と接するような位置に建設したことは、大きな過ちを犯したのではないか?

「人間の愚かさ、自然への理解の欠如、管理の失敗」

人間の過信が引き起こす人災は、日本の巨大ダムでも起き得る。

ダムは安易に建設してはいけない。

 

 

ダムの影響がよくわかる暑寒別川

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北海道北部の増毛町にある「サクラマス保護河川」の暑寒別川は、ダムの影響がよくわかる。1号砂防ダムは、もう砂利で満杯で、川水は堤体を乗り越えて流れている。ダム下流は、砂利の殆どが流されてしまい、川底の岩盤が剥き出しになっている。これがダムの影響の典型的な姿である。そして、川岸は浸食されて垂直の崖化し、川岸の土砂・巨石が立木もろとも流されて、川幅が異常に広がっている。

暑寒別川1号砂防ダムの下流は砂利が流されて岩盤が露出し、川岸まで流されて川幅が広がっている。撮影:2019年11月3日

「土石流防止」の砂防ダムが、その下流で新たに土砂を産出して土石流や流木を発生させている。そうして流された砂利はすぐ下流の頭首工に溜まっている。その為、頭首工から流れ出す砂利の量が極めて少なく、下流側は岩盤の露出が広がっている。

1号砂防ダムの下流の頭首工のところで、砂利が止まり、下流側に砂利が流れる量がごく僅かになっているのが分かる。撮影:2019年11月3日
頭首工の直下ではたくさんのコンクリートブロックが敷き詰められているが、土台の砂利が流されてしまったので、バラバラに壊れている。撮影:2019年11月3日
頭首工の下流側は砂利が流れてこないので、岩盤の露出が広がっている。巨石を組んで砂利を食い止めようとした痕跡があるが、悉く失敗して流されている。撮影:2019年11月3日
コンクリートブロックを敷いて、川底の砂利を止めようとした工作物があるがご覧の通りに壊れている。ダムで砂利が止められると、何をやっても壊されるのだ。税金がこうして無駄に失われている。撮影2019年11月3日
川底の砂利が失われ、川底は下がり続ける。川岸の崩壊を防ぐために自然石の護岸やコンクリート護岸にしていたが、すべて壊された。川岸の崩壊はさらに拡大している。撮影:2019年11月3日
頭首工の下流側は、川岸崩壊を防止するためのコンクリートブロックが水面のはるか上部にあり、壊されているのが分かる。川岸が崩壊すれば土砂・流木が流れ出し、災害を生み出すダムの影響は深刻である。撮影:2019年11月3日
ダムの下流では砂利が流されて、川底が下がり、さらに岩盤が露出してしまっている。川底が下がるのだから、川岸が崩壊して、そこから土砂・流木が流れ出し、下流に災害をもたらすことになる。撮影:2019年11月3日

暑寒別川は、サクラマスやサケの資源保護の為の禁漁河川である。勿論、釣りは出来ない。でも、考えていただきたい。保護を目的に釣り人を排除しているが、こんな川の状況にしておいて、サクラマスやサケの資源を保護していると言えるのだろうか?そもそも岩盤が露出した処でサクラマスやサケが繁殖出来るとでも言うのだろうか?川がこのような状況になっているのに、河川管理者は1号砂防ダムの上流に、更に複数の床固工(堤高の低いダム)を建設した。これで川全体でサクラマスやサケが産卵できないようにしてしまったのである。

釣り人が、この川でヤマメを1尾でも釣りあげれば逮捕!処罰される。しかし、河川管理者が造ったダムの影響でサクラマスやサケの資源が根こそぎ失われることになっても、誰かが罰せられることは無い。

暑寒別川

魚道を取り付けていても、産卵する場所がなければ、魚道を上っても役に立たない。ダム下流では卵を産み落としても卵が砂利ごと流されるのだから、魚が減るのは当然だ。川岸崩壊で流れ出す泥(微細な砂)やダムから流れ出す微細な砂を被り、卵は窒息して死んでしまう。

何度も言うが、この川は「サクラマス保護河川」だ。河川管理者のやるべきことは、釣り人に責任転嫁するのではなく、卵が育つように川の仕組みを蘇らせることではないか。

北海道南部せたな町「良瑠石川」や「須築川」に学ぶべきだ。

良瑠石川のスリット化は…効果絶大!

須築川ダムのスリット経過報告会と現地視察

 

 

須築川ダムのスリット経過報告会と現地視察

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2020年2月14日、函館建設管理部による関係機関と協議会員を対象とした「須築川砂防えん堤報告会」が開催され、パタゴニア札幌スタッフの方と参加しました。

これまでスリット化が進むにつれ、現地を経過観察していた私たちの予想通り、報告会ではサクラマスが遡上し、上流で産卵していたことが明らかにされました。スリット化の効果が認められた訳です。スリットの間口は3.5m、切り込みの深さは6.75m。

撮影:2019年11月4日

ダムの堆砂は、スリット化によって流れ出したものの、粒径は全体に小ぶりなものばかりで、下流の国道276号線(229号線)までは河床が上昇するような量には到達していないとの事。また、心配された土砂災害も無く、泥水の影響もヘドロによる水質の劣化も無いことが報告されました。

国道276号線(229号線)橋。河床低下が進行しているために、橋脚の基礎は剥き出しのまま。まだ、ここまでは十分な量の砂利が到達していない。撮影:2019年12月19日

報告会の後、段階的スリット(少しずつ切り下げていく)次の工事着手直前の現場を視察しました。

須築川砂防ダムのスリット化工事現場視察。撮影:2020年2月14日
澪筋を切り替えて、更なるスリット化工事が進められている。堤体は塗り付けたコンクリートで厚みを増していた。撮影2020年2月14日。
間口3.5mのスリット部からダム上流側へ。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの上流側(堆砂側)からスリット部を見る。左右の管は須築川の川水を送水する管。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの堆砂は徐々に抜けていたが、堆砂は樹林化し陸地化しているので、全量が一気に出るような心配は無かった。撮影:2020年2月14日。
堆砂の中の腐葉土などの有機質は押し固められ、ちまちまと浸蝕されて流れ出した痕跡が認められた。大量の泥やヘドロの影響が無かったのはこのためと思われる。撮影:2020年2月14日。
大きな石がゴロゴロしていた河口は、普通の砂浜のように砂礫の渚が蘇ってきている。漁港の出入口が、スリット化によって須築川から流れてきた砂利で閉塞すると言われていたが、現在その兆候は無い。撮影:2020年1月10日。

ダムのスリット化で砂利が流れてきたので、「サケがあちらこちらで産卵していたし、今まで見たことが無かったアユがたくさん産卵していた」と地元の漁師が語った。また、河口付近の海域ではスリット化が始まってから海藻の育ちがよくなり、今までにない大型のワカメが育ち、ホンダワラが密生するようになってきたとも言う。

私たちは、これからもドローン空撮による河口域の海藻の回復状況も含め、自然河川の復活、水産資源の回復など取材を続け、ダムのスリット化の効果を検証します。

 

 

「桜鱒の棲む川」水口憲哉:著(フライの雑誌社刊)

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「ダムをやめ、川を川として活かす。乱獲はしない。何もしなければサクラマスは増える」

フライの雑誌社から気になる本が出版されましたのでご紹介します。著者は水口憲哉さんで、東京水産大学時代から原子力発電建設に関わる環境問題を長く手がけて来られた方です。

出典:フライの雑誌社

水口 憲哉(みずぐ ちけんや)
1941年生。原発建設や開発から漁民を守る「ボランティアの用心棒」として全国を行脚し続けている。著書に『釣りと魚の科学』、『反生態学』、『魚をまるごと食べたい』、『海と魚と原子力発電所』、『魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか』、『放射能がクラゲとやってくる 放射能を海に捨てるってほんと?』など多数。千葉県いすみ市岬町在住。夷隅東部漁協組合員。資源維持研究所主宰。農学博士。東京海洋大学名誉教授。「『桜鱒の棲む川』は、今までに書いた本の中でもっとも気持ちの入った一冊です」(水口憲哉)