河床低下が進み荒廃する八雲町遊楽部川の支流である砂蘭部川でも、11年もの長い年月をかけて砂防ダムのスリット化を河川管理者に求めてきた。「砂防ダムの堤体をスリット化すれば、溜まった砂利(堆砂)が一気に流れ出して、下流が土砂災害の危険にさらされる」と難色を示し、なかなか実現することはなかった。しかし、住民が声を上げたこともあり、2024年3月末までに「砂蘭部川1号砂防ダム」が、間口7.6mでのスリット化が実現したのである。
URL:増水時の現場は?スリット化した砂蘭部川1号砂防ダム | 流域の自然を考えるネットワーク
河川管理者が説明するように、ダムをスリット化すれば、本当に、堆砂が一気に下流に流れ出すのだろうか…?その一方で専門家は「堆砂はナメクジ状に広がって流れ出していく」と説明をしている。


スリット化の広い間口7.6mは、流木が挟まらないようにメンテナンスをフリーにするためだ。これだけ広い間口を開けていながらも現在尚、多くの堆砂が残されている。
堆砂域をよく見ていただきたい。堆砂域には草木が生え、樹林化していることが、お分かりいただけるだろう。つまり、堆砂域はもはや陸地化し、その陸地を川が流れ、川と堆砂の境界は川岸になっているという構図である。増水時に、この堆砂でできた川岸が浸食されて少しづつ流れ出すことになる訳で、堆砂全量が、一気に下流に流れ出すようなことは無いと言えるだろう。


堆砂は樹林化して陸地化しているので堆砂が一気に流れ出すことが無いことは、下流側を見れば一目瞭然である。流れ出した土砂は、分散して各所に堆積させながら流れ下り、流路に大きな変化は見られない。


専門家の説明通り、堆砂はスリット化した砂蘭部川1号砂防ダムから流れ出し、下流へとナメクジ状に広がることを物語っている。堆砂は全量が一気に流れ出すことは無いので、下流まで到達するには時間を要することが分かる。

スリット化した砂蘭部川1号砂防ダムの下流には、2号砂防ダムがある。これもスリット化が決まっているのだが、着手は大幅に遅れている。
砂利が不足して河床低下を起こしている2号砂防ダムの下流でも、スリットによって流れる堆砂が早急に必要である状況だというのに、河川管理者は、「スリット化したら堆砂が流れ去ってしまうから、スリット化する前に砂利を止める自然石や袋体床固工で帯工を複数設置する必要があるのだ」と、付帯事業でお金を使う話ばかりで、スリット化になかなか着手しようとしない。


砂蘭部川2号砂防ダムが砂利を止めている影響で、下流一帯は砂利が不足して河床低下が急速に進行しているので、川岸の農地は崩壊が拡大し、農作業は危険な状態に晒されている。




河川管理者が目的としている「流下する砂利の調節」を行ったがために、川の自然な流れが人為的に制御されることになり、その作用として、こうした危険な事象が発生しているのである。
そして、砂防ダムが止めている堆砂は、スリット化しても一気に流れ出すことは無い。これはすでにスリット化されたせたな町の「良留石川」や「須築川」、島牧村の「折川」や千走川支流「九助沢川」でも実証済みである。
間口7.6mのスリット化による堆砂の動向から、スリット化では「砂利流下の調節機能」が働き、川は完全に元に戻らないことを実感する。元の自然な川を蘇らせるためには、スリット化では治まらず、「ダムの完全なる撤去」が必要だということがよく分かる。