活動を支える調査

「流域の自然を考えるネットワーク」は、主に以下の調査活動に取り組んでいます。

オオワシ・オジロワシの越冬数カウント調査

国際保護鳥であるオオワシ・オジロワシの越冬を支えているのは野生サケ資源であり、その野生サケ資源は、川の健康状態に支えられています。20年を超えた調査は、川の健康状態を知る重要な手掛かりとなっています。

オオワシ・成鳥・KAZ_0148
越冬飛来したオオワシの成鳥。肩と尾が白く、嘴はオレンジ色(みかん色)。
オジロワシ・成鳥・KAZ_0301
越冬飛来したオジロワシの成鳥。尾が白く、嘴は黄色(レモンイエロー色)。
オオハクチョウ親子・KAZ_0207
オオハクチョウの親子。左はカワアイサ。

 

サケの産卵床調査

野生サケが産卵する状況を知ることで、地下水の噴出箇所や噴出量を知ることが出来ます。つまり、河床低下を起こしている川は、地下水が抜かれ、地下水位が低下するという状態を知ることが出来るのです。サケの産卵場所の変化や水温など適宜調査を行い、川の健康状態を知ることに努めています。

・サケ・KAZ_0099
母なる川に帰ってきたサケたち。
サケのペア・上が♂で、下が♀・KAZ_0085
サケのペア。上がオス、下がメス。
産卵するサケたち・砂が目立つ・KAZ_0032
わき水を探し当てたサケたち。ここが産卵場所となる。
産卵を終えたサケ・DSC_0189
産卵を終えたサケは我が子の誕生を見ることなく、一生を終え、母なる川に身を横たえる。

野生サケは多くの生きものたちの生活を支えているので、野生サケがどのように利用されているのかを裏付ける調査もしています。

サケの利用状況調査

河畔林調査

河畔林をGPSデータで記録することで、河床低下で起きる河岸崩壊や、河道の変化を確認することが出来ます。消失した河畔林は、止まり木に利用しているオオワシ・オジロワシにも影響を与えています。河畔林の役割を総合的に知るための調査でもあります。

2009-04-10・加工済・河畔林調査・DSC_0038
川沿いの大径木の調査。
2009-04-10・加工済・河畔林調査・DSC_0020
GPSで大径木の位置情報を記録していく。ダムがある川では川底が下がるので、河畔林は川岸の崩壊もろとも川に倒れ込み、根っこ付きの流木となって消えていくことが解る。
河岸崩壊もろとも河畔林も倒れ込んだ・DSC_0152
川底が下がり、川岸が崩れるようになると、河畔林も倒れ込み、根っこ付きの流木となる。オオワシ・オジロワシの餌取りや休息する木が失われる。一方では、1980年代後半から噴火湾では根っこ付き流木による漁具(ホタテのケタや定置網などの)被害が頻発し、たびたび新聞報道されるようになった。

 

ダムの位置と河川事業の位置情報

ダムの下流では河床低下が発生し、河岸崩壊・道路崩壊・農地崩壊・山脚崩壊などが発生することから、災害復旧工事が行われることになります。そして、ダムの上流では堆砂が膨大に増え、川幅が広がる為、林道崩壊・山脚崩壊などの災害復旧工事が行われることになります。従って、ダム建設後から起きた災害と、復旧工事の情報を集めることで、ダムの影響(問題)が見えてくるようになります。

 

2015-05-23・当別ダム完成後・当別川流域図1/8

ダムの上下流の追跡記録

ダムの上流では砂利の堆砂で川幅が広がり、ダムの下流では河床が低下し、砂利の大きさの構成が変わるなどの変化が見られます。ダムの上流側と下流側での違いや、河床の石の状況を記録することで、ダムの影響について良く分かるようになります。

2013-05-25-A・加工済・岡春部川・DSC_0689
治山ダムや砂防ダムを記録していく。
2013-05-25-A・加工済・岡春部川・DSC_0705
治山ダムがどのようになっているのかを記録する。治山ダムはすでに砂利で満杯になっている。止めた砂利はこれで終わりではない。砂利は上流へ向かって貯まり続けて行く。
2013-05-25-A・加工済・岡春部川・DSC_0724
治山ダムで止められた砂利が上流へ向かってどんどん溜まり続けて行く。
2015-05-06・砂蘭部川・砂が目立つ
砂防ダムや治山ダムの下流では、川の砂利の大きさが小ぶりになる。これがダムのある川の特徴だ。
2015-05-07・加工済・遊楽部川・清流建岩橋下流側・泥の堆砂・KAZ_0147
砂防ダムや治山ダムの下流では川の砂利は小ぶりになり、微細な砂やシルトが目立つようになる。
戸切地川・2001-04-05・DV-00444-036
巨大ダム・大小のダムで砂利が流れてこなくなると、川底がどんどん下がって行く。
川底の砂利がきれいに流されて、軟弱な岩盤が露出している。この付近でワイヤーに石を付けたものを横断させて、砂利を止め、サクラマスの産卵場の造成試験が行われた。失敗した後はすっかり砂利が失われてしまった。
川底の砂利がサッパリ流されて、軟弱な岩盤が露出している。サクラマスの産卵場の造成試験で、石をワイヤーで繋げた工作物を、川に横断させて砂利を止める試みがされたが、失敗した後、すっかり砂利は失われた。
2011年5月22日。
ダムで砂利が止められてしまうと、下流では川底が下がるため、川に面した山が崩壊する。
2004-08-20・加工済・泥水・八木川・004
河岸崩壊や山脚崩壊の場所から泥が流れ出し、更にダムに貯め込まれていた泥が増水で攪拌されて流れ出す。泥水が流れ出す川は、異常な状態にあると判断できる。

ダムを境にして、上流も下流も川岸が崩れ、山が崩れるようになり、濃い泥水が流れ出すようになります。

こんな泥水が出るような川で果たして魚たちは生きていける者だろうか…?
ダムが生み出した泥水は川を流れ下り、沿岸海域の広い範囲に流れ出す。コンブやワカメなど海藻が壊滅し、磯焼けとなるのは自然の理だ。写真:シシャモで有名な鵡川(撮影協力:小野有五さん・北海道の森と川を語る会)

こうして、いろいろなダムを記録していくと見えてくるものがあります。

川底に何気なく転がっている石や砂利は、川を安定させる重要な役割を担っていることが見えてきます。また、高い方から低い方へと、只々流れているだけの水ですが、実は、そこには多くの生命を育んでいる仕組みがあることも見えてくるのです。

河川生物と河床の砂礫調査

河床の砂利の大小や砂・シルトなど、河床の礫と、そこに棲む生物の種類(生物相)を知ることで、川の健康状態を知ることが出来ます。

ヤマメ・KAZ_0363
サクラマス(ヤマメ)
イトウのペア・左がオス、右がメス・015
イトウのペア。左がオス、右がメス
活きた川にはたくさんの生きものがいる。
活きた川では、川底の石にたくさんの生きものが着いている。
森林伐採で土砂で埋まった小沢にすんでいたニホンザリガニたち
森林伐採の施業で、沢に土砂が投棄された。埋まった沢に棲んでいたニホンザリガニたち。
エゾアカガエルの卵塊・DSC_0466
エゾアカガエルが産卵する沼地。中央の白いのがエゾアカガエルの卵塊
エゾサンショウウオの卵塊・DSC_0120
エゾサンショウウオの卵塊
2007-10-14・加工済・人住内川・谷止工・イワナ 097
巨石同士が挟まりあって、動かない。安定した石には苔がむす。
苔むした石。小さな礫は荒くさらさらしている。
苔むした石。小さな礫は荒くさらさらしている。
2015-05-06・加工済・砂蘭部川・堆積した泥・KAZ_0121
微細な砂が大量に堆積している。また、石は泥を被って白くなっている。異常な状況にあることが解る。つまり、ダムが上流にあると読める。
水は透明できれいだが、川底を長靴でグズグズと掘れば、煙のように泥が舞い上がり、大量の泥が堆積していることが分かる。これでは魚類や水生生物は繁殖も生活もできなくなる。こうして川は不毛の川になり果てていく。
水は透明で綺麗だが、川底を長靴でグズグズと掘れば、煙のように泥が舞い上がる。大量の泥が堆積していることが分かる。これでは魚類や水生生物は繁殖も生活も出来なくなる。こうして川は不毛の、沈黙の川になり果てていく。
ヒグマの多い川でもある。林道に「サルナシの実」食べた糞が残されていた。
川は多くの生きものの生活を支えている。林道に落ちていたヒグマのサルナシの糞だが…草を食べ、木の実を食べ、サケを食べ…。あの巨体を支える食べものを再生産している自然界の仕組みが見えてくる。森や川の現場に身をおき、肌で自然界の仕組みを感じることが、今の私たちには必要なことだ。現場に身をおいて学ぶことにつきる。

 

森林伐採現場や林道開削現場の調査

 

2006-09-16・加工済・上ノ国奥湯ノ岱国有林 086
特に国有林では、伐採した材を運び出すための作業道・集材路は乱暴な開削の仕方だ。国有林は国民の財産なのだから、持続できる施業を心がけ、もっと丁寧に作業をしてほしい。
2013-06-15・加工済・立ち枯れが目立つ国有林・DSC_0027
作業道や集材路は森林土壌の水脈をズタズタに切断するので、保水能力が低下し、土壌は乾燥し、ササが優占するようになる。伐採を免れ残された木は、次々に枯れていく。
2013-06-15・加工済・立ち枯れが目立つ国有林・DSC_0031
開削された作業道・集材路は明渠排水として、土壌の水をジワリと絞り出していく。こうして森林土壌は乾燥化し、残された木は枯れていく。
2008-04-19・加工済・南館・247&248林班・作業道・クマゲラ営巣木・ヒバ&ブナ 034
作業道・集材路は大型トラックで運び出すので、道路の開削は大規模に行われる。森林土壌は道路で切断され、地下を浸透してきた水は道路を川のようになって流れていく。明渠排水と同じ効果があることを、ご理解いただけると思う。

川の水は、森林源流域の広範囲から集まって来ます。森林は「緑のダム」といわれるように、雨水の貯水能力があります。しかし、伐採地の作業道や集材路、林道の開削で、表土が掘削される為、腐葉土層・腐植土層が失なわれます。これらへ染み込んで地中をゆっくりと流れていた水は、作業道、集材路、林道に流れ出し、川と見まごうほどの水量となって流れ出しています。
こうした現場の調査は、川の保全を考える上でも大切な調査です。実際に管理担当者に現場を見て貰うことで、流域の自然を損なわない施業手法の陳情を行うことも出来ます。大事な流域は、施業される(入札)前に、森林計画について知ることが必要です。