生命を育む川の仕組み
春先、ウグイが川の上流に集まり、川底に産卵します。
秋になるとアユが川を下り、川の下流で川底に産卵します。
東北や北海道では秋にサケが川に上り、川底に産卵します。
ウグイの親は卵を産むとどこかへ行ってしまいます。
アユやサケの親は産卵後、一生を終わります。
親は卵を川底に産みっぱなしにして、卵を置き去りにするのです。
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初夏、川岸にウグイの子どもたちがたくさん泳いでいます。
翌春、サクラが散る頃にアユの子どもたちが群れをなして川を上ってきます。
北国ではフキノトウが頭をもたげる早春、川岸にサケの子どもたちが群れています。
親がいなくても卵はちゃんと育っているのです。
いったい誰が、卵を育てたのでしょうか?
魚は我が子を川に託している
水は高い方から低い方へ地表を流れたり、地中に染み込んだりしながら、川となって流れています。
川底の石と石の間の隙間を、水が通り抜けていきます。
地表から地中に浸透した水は地下の地層を通り抜けて、川底の石の間からも湧き出してきます。
卵は川底の石の間の水が通り抜ける場所に産み落とされていたのです。
卵は常にきれいな水にさらされながら、常に水が入れ替わる川底の石の間で、酸素をもらいながらすくすくと育っていたのです。
親はこうした場所であれば、卵が育つことを知っているというわけです。
親は卵を産みっぱなしにしたのではなく、我が子の命を川に託していたのです。
親がいなくても卵が育つ、この仕組みこそが、川に備わった「生命を育む川のしくみ」なのです。
すぐに濁る川では卵は育つことができない
昨今の川は、増水すれば必ず泥水が流れます。
ちょっとした雨でも泥川になります。
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2、3日もすれば水は澄み、綺麗になり、水質を測れば「清流日本一の川」と評価されます。しかし、泥水が流れた後の川を、よく見てください。
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水は透明できれいに見えますが、川底を長靴でグズグズと掘ってみると、煙のように泥が舞い上がり、大量の泥が川底に堆積していることが分かります。これでは魚類や水生生物は生活もできなくなり、繁殖もできなくなります。こうして川は不毛の川になっていくのです。
川底には大量の砂や微細砂、さらに小さなシルトが沈殿しています。
微細な砂、さらに小さなシルトは石の隙間に入り込み、川底を埋め尽くしてしまうのです。
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石の隙間が微細な砂やシルトで埋まり、隙間が塞がってしまうと、水は石の間を通り抜けることが出来なくなります。
そこに卵があれば、卵の周りの水が入れ替わらなくなり、卵は窒息してしまうのです。
いくら綺麗な水が流れていても、水が流れる仕組みが壊れると、卵は育つことが出来ないのです。
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川に泥水が流れることは、魚たちにはとても深刻なことなのです。
「雨が降れば川が濁るのは当たり前」
「泥水の泥は自然のものだから問題ない」
本当でしょうか…?
疑問を持ってください。
もしも、そうであれば、魚はとっくの昔にいなくなっていたでしょう。
現代にもまだ少なからず魚がいるということは、裏を返せば、川は雨が降っても濁らなかったということです。
昨今の泥水が流れる川は異常な状態なのです。
全道で、日本中で、生命を育む川の仕組みが失われているのです。
川は危機的な状況にあるのです。