厚沢部川
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流域一帯はヒバやブナの山々から豊かな水が集まる。本流は広大な二級河川である。カワシンジュガイやイバラトミヨ、カワヤツメ、サクラマス、エゾウグイ、マルタが生息している。河口まで湿地帯の低地帯が広がり、田畑に開墾されている。今から20年前の平成7年8月20日、低気圧により浸水家屋138戸、浸水面積756haの被害が発生した。これが契機となり「厚沢部川水系広域河川改修事業」が現在も行われている。事業主体者は北海道渡島総合振興局函館建設管理部。総事業費は国費200億円。
ここで考えていただきたい。20もある支流の全てで川幅を広げ、短時間に大量の水を本流に集めるように川を作り変えるということを。低地帯を流れる本流に水を集めるということは、本流の水位がこれまで以上に上昇することが予測される。河川管理者は、その水位を抑えるために、川幅を広げる必要があると説明している。水を集めるから水位が上がる。水位が上がるから川幅を広げる。これでは自作自演ではないか。 住民の一部からは、過去の家屋や畑地の浸水は、内水氾濫であることが指摘されている。 「支流の国道を潜るカルバートが小さすぎて、そこから越流したんだ。川から直接、溢れたんじゃあ無い」 これは、厚沢部川支流のひとつ、畑内川のことである。(川の最新状況リストでご参照ください)
計画高水流量を設定し、その流量を流すために川幅を広げ、大雨で増水した水を遅滞なく下流へ流すための事業である。 451k㎡もの厚沢部川流域面積の20河川に雨量計は2箇所しか無い。この事業計画の契機となった浸水被害時の雨量実測値はわからないと言う。
では、計画高水量はどのように設定されたのか?計画流量の解析計算表にも実測値は無く、計画降雨の予測でしかない。 ところが、私たちと日本野鳥の会檜山支部が求めていた河畔林伐採の配慮について河道内樹木と水位の計算式に不備があると申し立てていた中で、請求した資料に横断面水理諸数値が明記されている。不思議に思って、調べてみたら石狩川水系と全く同じ数値が充てられていたのだ。
「この厚沢部川で河川改修するために設定した計画高水流量は、よその石狩川のデータでやってんじゃないの?」 「我々は、ソレがないと仕事出来ませんから」 居直られた。これには驚いた。この事業に対立する住民同士も環境団体も、多くの労力と時間を費やして話し合ってきた。事業者に交渉してきた環境配慮、事業の見直しも一体、何だったのかと憤る。 これじゃあ、「住民の命と財産を守る」という大義名分の名のもとに国民の税金を搾り取る単なる事業興しではないか。
伐採規模が大きすぎることに抗議すると、河川管理者は「配慮して10m間隔に1本の木を残す」と言う。 「我々は、専門家だから身内で決めた」とも説明している。 身内の専門家って何?埒があかず、不服申立てを国機関に訴えると、今度は、外部の専門家の指導で決定したと覆した。
私たちは、厚沢部川本流で伐採予定の河畔林を踏査し、事業者と共に鳥類の確認をしている。希少になったシマアオジが繁殖し、ミサゴやオオタカの猛禽類も止まり木に、河畔林の陰を沢山の水鳥が利用していることを、事業者は実際に見て知っている。
あの大家の鳥類学者、藤巻 裕蔵氏が10m間隔に1本だけ木を残しなさいと指導したのは本当なのだろうか? 「建設行政形成推進に係る指導・助言結果報告書」を請求した。 内容には、河岸に10m毎と高水敷に25m千鳥に残す樹木について…とある。「河畔林はどの位、配慮すべきですか」と聞いたのではなく、はなから事業者の提案で得た言葉を都合の良いように利用していたことが明らかになった。
その地域の固有の自然環境や生物そのものに絶大な影響を与えるであろう「その一言」に、専門家は慎重になって欲しい。 良いアドバイスをしても、捻じ曲がって悪用されていることが殆どだ。 環境団体や、お仲間から「あの学者はいつも事業者に都合の良いことしか言わない」と評価されていることに怒りを感じ、指導・助言はしたが、その後どうなったのかは「ワシは知らん」では、恥ずかしいことだと思っていただきたい。
水が流れる面積を確保するために川岸と川底を掘削して川幅を拡げる工事を行う。流れを阻害する河畔林は皆伐される。河畔林面積は全て死水域の壁として扱い計画高水量に反映される。 しかし、実際は河畔林には透過性があるので、密生していても、むしろ増水時に流速を弱め、侵食力を抑え、堤防の浸食決壊を抑止する効果を持ち、護る重要な役割もしている。
この事業の河道拡幅は、より大規模に津波を川に上らせることになる懸念がある。1993年(平成5年 )7月12日の北海道南西沖地震による北海道南部檜山地方に津波が押し寄せ、被害をもたらせた。 低地帯の川幅を広げれば、河口流域の扇状低地帯は水はけが悪く、満潮時、低気圧による潮位の上昇が加算すれば、町の中心地は大規模な浸水被害を受けることもあるだろう。 心底、住民の命と財産を守ると言うなら「水は集めず、分散させ、土壌浸透を促す」ことが最善の治水対策と判断できる筈だ。
河畔林の過剰伐採と拡幅は、澪筋を変えて起こす橋への危険性を予測し、2012年10月4日に町へ問題の提起をしていたが、「そんなこと絶対あり得ないから、ほっといてくれ」と、一笑された。 川幅を広げれば流速が小さくなるというのが専門家や河川管理者の説明である。しかし、河床が下がっている状況下で川幅を広げた事で、軟弱な河床は一層下がり、流れが偏って流速が大きくなってしまった。 松園橋の橋台付近は増水のたびに崩壊し、橋台が剥き出しになるのは近い。橋台に流れが当たるようになれば、橋台の擁護壁が崩れて道路が陥没することになる。今後も注視していく。 各界の専門家が集まった事業評価委員会はこうした姿を読み取っているのだろうか…? また、国会議員や道議会議員は税金の使い道を精査する立場にある筈だ。国政、道政による河川事業を審査し、審議する職務を果たしていただきたい。