良瑠石川
日本海に注ぐ小さな川であるが、源流域は山奥深く、ヒグマと遭遇し易い為、決してひとりでは訪れないことだ。流域には、人家もなく豊かな日本海からサケが遡上する。ここに北海道林務課が設置した治山ダムが本流に2基、支流に2基ある。
本流の2基の治山ダムの下流ではそれぞれに川底が下がり、川岸が崩れ、山斜面の崩壊(山脚崩壊)が発生している。
川岸が崩れている。
川に面した山の斜面がずり落ちている。砂山崩しの原理と同じで、川底が下がったために、山の斜面がドスンと落ちたわけだ。
ダムが出来ると、ダムの下流で川底が下がり、川に面した山の斜面の裾が、ちょうど「砂山崩し」のように水流で浸食され、持ちこたえられなくなって、山の斜面がドサリと崩れ落ちる。山腹崩壊を防止する目的で造られた治山ダムが、結果的に崩壊を招く。現場を検証して、しっかりと精査する必要がある。

良瑠石川本流にある治山ダムに取り付けられた「螺旋式」魚道。清掃直後は水が流れるが、すぐに石や流木が挟まり、常時メンテナンスが必要な魚道である。本流ダム2基共に、この螺旋(らせん)型の魚道が設置されている。
以下は地元の人たちが、ダムスリット化の実現まで立ち向かったの苦悩の経緯である。
(事業主体者:北海道林務課):機能していない螺旋式魚道の改善をするために地元漁業者に「魚道の改築」を提案。
(地元漁業者及び地元釣り団体):魚道の改築よりも川を元に戻して欲しいと要望し、治山ダムのスリット化を求めた。
(事業主体者:北海道林務課):ダムのスリット化に難色を示す。理由は、ダムをスリットすると、流木・土砂が流れ出し、①下流にある生活道路の橋脚が被災する。②橋が被災すれば、集落の生命線が断たれて孤立する。③沿岸に泥が流れ出し、漁業被害が発生する。以上のようなデメリットばかりを強調した。
(事業主体者と地元漁業者及び団体):三者で現地を精査した結果、①下流にある道道に架かる橋脚の間口は広い為、流木・土砂の被災は考えられない。②治山ダムの下流には民家がない。③漁業者らが流木や土砂が沿岸に流れ出し、漁業に影響があっても5年や10年は我慢する。補償も求めない。として再度、強くスリット化を要望した。
林務課はスリット化すれば治山ダムの堆砂が一気に流れ出して、土石流災害の危険があると説明していたが、漁民らは治山ダムの堆砂の処理について、左右に振り分けるように流路を開けば、全量が流れ出すことは無いと提案した。そして、ついに、治山ダムのスリット化が実現したのである。
2011年2月、本流1基の治山ダムは大きな逆台形にスリット化された。次いで、翌年には上流側の1基もスリット。その後、支流2基の治山ダムもスリット化された。いずれも逆台形型の間口を広く取ったスリット化である。
スリット化前の本流の下治山ダム。2010年10月6日
スリット化されたダムを上流側から見る。川水は螺旋式の魚道へ切り替えられている。良瑠石川本流の治山ダムが逆台形型にスリット化され、川は解放された。2011年2月22日
同治山ダムの上流側を見る。2011年2月22日
同治山ダムの堆砂は左右に振り分けられ、流路が開かれた。2011年2月22日
スリット化後、治山ダム一杯に溜まっていた土砂は、一気に流れ出すことはなく、増水ごとに、僅かずつ分散して流れ出した。懸念された土砂災害などの危険性はなく、沿岸への土砂や流木の流れ込みも見られない。
スリット化後に、沿岸の海藻の生育が良くなったと聞いた。
川は、上流から下流までひとつに繋がり、下がっていた川底にも砂利が供給されるようになった。川底は蘇り、元の姿に戻りつつある。漁業者が求めた「原始の川」が蘇って来たのである。
同、逆台形型にスリット化された治山ダム。左右のコンクリートは不要となった魚道。落差を生じさせるので、早い撤去が求められる。2012年9月17日
同、上流と下流が一繋がりの川に戻り、河床の砂利も魚が繁殖できるまで回復した。川岸には草が繁茂し、漁民が求めていた元の川が蘇ってきた。2013年9月20日
同、川は蘇りつつあるが、魚道は落差をつくり、流れを速くさせ魚の遡上を妨げる存在になっている。上流と下流の自然なつながりを阻害している。2014年9月10日
同、治山ダムに大量に溜まっていた土砂が全量流れ出すのではないかと懸念されていたが、実際にはそのまま残り、そこに草木が育ち、自然の川岸へと蘇っている。2014年9月10日
スリット化前の本流の上治山ダム。2010年10月6日
同、逆台形型にスリット化された治山ダム。ここにも魚道が取り付けられているが砂利で埋まって見えない。魚道は全く不要である。2012年9月17日
同、スリット化された治山ダムの前後が一繋がりの川に蘇っている。草木の回復も早く、自然な水辺が戻っている。魚道は砂利の下に埋もれたままだ。「渓流保護ネットワーク」田口康夫氏が持っているのは、ヒグマ護身用。2014年9月10日
同、スリット化によって、溜まっていた土砂は草木に覆われて、流出することもなく、自然の川岸に戻ってきている。土砂の大半は川の欠損した部分を補って、草木が生え始めている。2014年9月10日
同、スリット化されたが、土砂は流れ出すことはなかった。自然の川岸へと戻ってきている。2014年9月10日
支流の下の治山ダムもスリット化された。2013年5月2日
スリット化で溜まっていた堆砂は、左右に振り分けられている。堆砂が全量流れ出すことはない。2013年5月2日
支流の上の治山ダムもスリット化された。2013年5月2日
上の治山ダムに貯まった砂利は一気に抜けることはなく、ほとんどが残っている。2013年5月2日
本流の治山ダムのスリット化前は河床が下がり、川岸が崩れ、垂直の崖の面が見えていた。
本流の上の治山ダムがスリット化された後は、多様な砂利が流れて来るようになり、良好な川が蘇ってきた。2014年9月10日
4基の治山ダムがスリット化される前は、川底が下がり、町道が崩れていた。2010年9月12日
4基のスリット化後は下がっていた川底は砂利で埋まり、川筋は蘇り、町道の崩壊の危険性はなくなった。2013年5月2日
崩れて危険だった道路は砂利が供給sれて崩れなくなり、草で覆われ、安全、安心な道路となった。2015年6月7日
4基の治山ダムがスリット化される前は川底が下がり、コンクリートブロック護岸の基礎が浸食され、崩れ始めていた。また、微細砂やシルト(泥)が川底に大量に堆積していた。2010年9月12日
4基の治山ダムのスリット化後は上流から砂利が供給されて、見事に川は蘇り、護岸が被災す心配もなくなった。サケ、サクラマスからアユやウグイ、ウキゴリ、カンキョウカジカやハナカジカなどの多くの魚種が産卵できる川底が蘇ったのである。2014年9月10日
多様な大きさの石が見られるようになってきた。川底も上昇し、魚の繁殖に適した姿に回復している。すばらしいことだ! 2015年6月7日
沿岸に流れ出す土砂も少なく、地元では海藻の生育が良くなったとの声が聞かれる。また、浜辺も元の砂浜に戻ってきたという。2014年9月10日
川に何気なく転がっている大小様々の石には、大切な役割があることを良瑠石川から教わった。