岩尾別川

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知床世界自然遺産の地を流れる川である。橋の下流にはサケマスふ化場があり、橋の右岸にはユースホステルがある。また、ヒグマが生活している川でもある。

過去に橋やユースホステル、ふ化場が土石流被害にあったことから、川水が流れ易くする為に、川底の砂利を取り除き左右に積み上げ、川筋を直線化させている。その上流にある4基の治山ダムが、砂利を止めているので、これらの対策は一層の河床低下に拍車をかけることになった。

世界自然遺産に登録されてから、ほんの一部の治山ダムがスリット化に着手されたものの、見掛け倒しのスリット化で終わり、ダムがもたらす影響は改善されないままである。

治山ダムの影響は、川を流れ下る砂利の供給を止めるということにあり、ダム下流では砂利不足になって川底が掘られ、低下が急速に進み、それに伴って川岸の崩壊や川に面した山の斜面の崩壊(山脚崩壊)が発生するようになる。山脚崩壊の仕組みは、「砂山崩し」と全く同じ原理である。

川底が下がり、川に面した山の斜面の基礎が抜かれる。抜かれた途端にドサッと山が崩れるわけだ。山が崩れると治山対策が必要として、治山事業が興され、つまり、次々に治山ダムが建設される。そして、また新たに山脚崩壊が発生し、振り出しに戻る。こうして河川の荒廃は益々、酷くなっていく。

岩尾別川は急峻な河川で、互いに噛み合って動くことがない苔むした巨石が多く見られる川だった。川岸は水際まで草木が繁茂し、鬱蒼とした樹林で覆われていたと聞く。しかし現在は、小さな石ばかりが目立ち、川幅は広がり、川の中下流の姿のような河原になっている。この変貌した姿はダムがつくりだした「異常」な姿なのである。

岩尾別川の下流には左岸にサケマスふ化場があり、右岸にユースホステルがある。
岩尾別川の下流には左岸にサケマスふ化場があり、右岸にユースホステルがある。撮影:2012年09月02日
岩尾別川は急峻な川で、巨石が多いハズなのだが…巨石が減少している。また、苔むした石は見当たらない。この姿は上流にダムがあることの目印になる。また、川底が下がり、左岸が崩れて川幅が広がり続けている。
岩尾別川は急峻河川で、巨石が多いハズなのだが…減少している。また、苔むした石は見当たらない。この姿は上流にダムがあることを示す。川底が下がり、左岸が崩れて川幅が広がり続けている。撮影:2009年10月31日
川底の石を寄せてせき止めて淵をつくっている。産卵場を創ったというよりもヒグマの餌場を創ったのだろうか…?
川底の石を寄せ、堰止めて淵を作っている。魚の産卵場かヒグマの餌場でも創ったのだろうか…? 撮影:2012年09月02日
サクラマスやカラフトマス、サケが産卵する場所なので、人為的に石組みをして人工の産卵場の造成を試みている。しかし、川幅が広がったことと、この川に見合った巨石が失われた状態では見せかけの産卵場の造成に終わってしまうだろう。増水時に石組みは流されるからだ。
サクラマスやカラフトマス、サケが産卵する場所だが、このような造成が良い選択なのだろうか…? 川幅が広がっていること、この川に見合った巨石が失われたことの原因を考えなければ根拠のない造成でしかない。増水すれば、造成は壊れることになるだろう。撮影:2012年09月02日
川底が下がり、川に面した山の斜面(左岸)が崩壊し(山脚崩壊)、崩壊は拡大している。(岩尾別川の山脚崩壊と川の石の大きさが小ぶりに…)
川底が下がり、川に面した山の斜面(左岸)が崩壊し(山脚崩壊)、拡大している。撮影:2009年10月31日

2009年に撮影した山脚崩壊。下の2枚は、その3年後、4年後の同地点での拡大する山脚崩壊。上流に治山ダムがある以上、崩壊が止まることはない。

拡大する山脚崩壊
拡大する山脚崩壊。
川底が下がり続けているので、河岸は崩れて垂直の崖に。山の斜面は崩れ落ち続ける。撮影:2009年10月31日
川底が下がっているのに、なぜか、川底の巨石を取り除いている。川底はさらに下がることになり、川岸や山の斜面はどんどん崩れることになる。おかしな河川管理が行われている。
川底が下がっているというのに、何故か、川底の巨石を取り除いている。川底は更に下がることになり、河岸や山脚崩壊はどんどん進むことになる。おかしな河川管理が行われている。撮影:2009年10月31日
左が本流の岩尾別川、右がピリカベツ川。両方に治山ダムがある。
左が本流の岩尾別川、右がピリカベツ川。両方に治山ダムがある。撮影:2009年10月31日
ピリカベツ川の治山ダムはスリット化されたが…間口が狭い。果たして効果はあるのだろうか…?撮影:2009年10月31日
ピリカベツ川の治山ダムはスリット化されたが…間口は狭い。撮影:2009年10月31日
治山ダムがスリット化されても、間口が小さいので川底の低下は続いている。世界自然遺産に指定された川なのに…撮影:2013年10月10日
治山ダムがスリット化されても、間口が小さいので砂利不足は解消されず、河床低下は続いている。撮影:2013年10月10日
ピリカベツ川の治山ダムのスリット化前後。
ピリカベツ川の治山ダムのスリット化前後。
本流の岩尾別川の治山ダム。上流にもう一基、治山ダムが見える。治山ダムの下流では砂利が失われ、岩盤が露出している。撮影:2009年10月31日
本流の岩尾別川の治山ダム。上流にも治山ダムが見える。ダム下流では砂利が失われ、岩盤が露出している。撮影:2009年10月31日
本流の岩尾別川の2基の治山ダムのうちの上の治山ダム。撮影:2009年10月31日
2基ある治山ダムの上流側の治山ダム。撮影:2009年10月31日
勝利橋の川底のコンクリートがダムと同じ効果となって、下流側が掘り下がっている。撮影:2009年10月31日
岩尾別川支流の盤の川に架かる勝利橋。橋の下のコンクリートがダムと同じ効果を発揮して、下流側の河床を掘り下げている。撮影:2009年10月31日
勝利橋の直下。段差ができているのが分かる。撮影:2009年10月31日
勝利橋の直下。段差が出来ている。岩尾別川支流の盤の川。撮影:2009年10月31日
勝利橋の下流側の変遷。川底が下がり、左右の川岸が崩れ、さらに拡大を続けている。
勝利橋の下流側の変遷。川底が下がり、左右の川岸が崩れ、さらに拡大を続けている。
更に上流の橋。川底が下がり、川岸が崩れ続けている。撮影:2009年10月31日
更に上流の橋。川底が下がり、川岸が崩れ続けている。撮影:2009年10月31日
川底が下がり、山の斜面がズリ落ちそうになっている。砂山崩しと全く同じ原理で山の斜面が崩れる。撮影:2009年10月31日
川底が下がり、山斜面は今にも崩落しそうになっている。砂山崩しと全く同じ原理だ。撮影:2009年10月31日
川底が下がった川をたどるとダムがある。やっぱりありました岩尾別川の一番上にある治山ダム。撮影:2009年10月31日
川底が下がった川には必ずダムがある。岩尾別川の一番上にある治山ダム。撮影:2009年10月31日
林野庁の看板。撮影2013年10月10日
林野庁の看板。撮影2013年10月10日

林野庁・北海道森林管理局が管理する国有林は国民の森であり、山である。国民に託された大きな責任を担う管理者は、さぞ森、山を知り尽くした専門家としての自負があることだろう。地形や林床を読み、河川流域の源である森林の安定に汗を流していただきたい。安易な治山ダム建設よりも、樹林を活かした流域の安定化を図る方向に、大きく舵を切ってほしいと願うばかりだ。