ダムをスリットしたせたな町は、4年連続でサケの漁獲好調!

2023年2月14日付けの北海道新聞記事で、檜山管内(5町)の漁獲量が、せたな町が76%「増」で、他の4町は12~52 %「減」とある。他の4町と異なるのは、せたな町だけがダムのスリット化を手がけていることである。せたな町の”一人勝ち”に見えるのは、ダムのスリット化の効果だと思わざるを得ない。

出典:2023年2月14日付・北海道新聞。

せたな町では2010年から2河川で、ダムのスリット化に着手して来た。その後、せたな町では2019年から2020年、2021年、2022年と、4年連続で、サケの漁獲量が右肩上がりに増えている。

漁獲されるサケの年齢は3年魚、4年魚だ。ということは、3~4年前の2015年か、2016年頃から、サケの稚魚の生残率が向上したと考えることができる。つまり、スリット化着手後、5年、6年を経過して、サケ稚魚の成育環境がよくなったと推察される。

2022年の秋、せたな町でダムのスリット化をした川では、沢山のサケが川に上り、産卵している姿があった。まだ、産卵環境が回復したとは言い難いが、ダムのスリット化着手前には川底に目立っていたシルト(泥)や微細な砂が無くなってきており、きれいな玉石が見られるようになった。粗い砂は沈澱しやすいので、濁りが速やかに消えて、水が澄みやすくなる。水が速やかに澄めば、人工ふ化放流のサケ稚魚も、自然産卵で生まれたサケ稚魚も、泥水のダメージが軽減され、生残率が向上する結果になる。今後、産卵環境が回復していけば、自然産卵由来のサケが急激に増加していくことだろう。

河床に堆積した砂が減り、河床の礫がサケの産卵に適した粒径になり、多くのサケの産卵が見られるようになってきた。

また、4基の治山ダムをスリット化した小河川でも、多くのサケが遡上し、あちらこちらで産卵が見られた。川岸にはヒグマの足跡が残されていた。冬眠を前にしたヒグマが、飢えて街中を彷徨うこと無くサケを食べる…本来あるべき自然の姿が蘇ろうとしている。親サケをヒグマが腹いっぱい食べても、卵が育つ川の仕組みさえあれば、その光景は未来永劫絶えることは無い。

4基の治山ダムをスリット化した小河川では、シルト分や微細砂が減り、粗い礫質の砂に変わりつつあり、多くのサケの産卵が見られた。
今後、次第に砂が減っていき、小石の目立つ川に蘇ったとき、さらに多くのサケが産卵するようになるだろう。
産卵を終え、一生を全うしたサケをカモメが啄んでいた。
サケが上るようになれば、冬眠を前にしてヒグマたちもサケを食べにくる。飢えて街中を彷徨うことも無い。川岸のあちらこちらにヒグマの足跡があった。

また、ダムをスリット化した後、河口海域では、茎が太く背丈の高いワカメが繁茂するようになり、岩のりが採れるようになったという。これは、泥水の”質”が変わったからではないだろうか。ダムをスリット化する前は、川岸や海岸では細かいシルト(泥)や微細な砂が目立っていたが、ダムのスリット化後、粗い砂に変わってきた。岩礁を覆っていたシルト(泥)や微細な砂が粗い砂になったことで、岩肌が露出するようになり、岩肌にワカメや岩のりの胞子が付着しやすくなり、発芽し、生育するようになったのではないだろうか。

一方、太平洋側の噴火湾に注ぐ遊楽部川では自然産卵するサケが消滅状態になっている。酷い泥水が流れ、河床はシルト(泥)や微細砂で覆われている。こんな川底に産み落とされたサケの卵は育つ筈もない。例え、ふ化したとしても、この酷い泥水の中をとても生きていけないだろう。もし、この酷い泥水がふ化場のサケ稚魚の養魚池に流れ込んだら、たちまちに稚魚は全滅する。それを分かっていながら、ふ化場からは、こんなに酷い泥水の中にサケ稚魚を放流しているのだ。人知れず、多くのサケ稚魚が命を落としているに違いない。生残率が低下し、その結果が漁獲量の激減になっているのであろう。

遊楽部川では春先、こんなに酷い泥水の中にサケ稚魚が放流される。生き残れる筈もない。撮影:2023年3月10日。
かつては、あちらこちらに、綺麗な水が湧き出す浅い水辺があった。河床低下が進行し、地下水位が低下した為に、水が湧き出す流れも途絶え、増水時には酷い泥水が流れるようになった。サケ稚魚の逃げ場も無くなってしまった。撮影:2023年3月10日。
出典:2022-年12月13日付・北海道新聞

 

出典:2022年12月16日付・北海道新聞。

 

 

ダムを温存させた太平洋側噴火湾とダムをスリットさせた日本海側せたな町の河川環境とサケの漁獲量の推移を、これからも見守り続けていく。

 

 

 

せたな町の秋サケ、昨年に引き続き漁獲好調1.8倍。

北海道南部の日本海側ひやま漁業協同組合管内のせたな町では、昨年に続き、今年も秋サケの漁獲は好調という。漁期途中ながら、昨年の1.8倍と報道された。

渡島・桧山「ローカル版」誌面で報道されたのみだが、全道版、全国版で報道していただきたいものである。

地球温暖化の影響で秋サケの来遊数が減少し、漁獲が低迷していると専門家が解説している中、せたな町では2019年、2020年、2021年と連続で右肩上がりで増加し、2022年の今季は途中経過ながら、昨年の1.8倍と好調だ。

ひやま漁業協同組合は「せたな町・八雲町・乙部町・上ノ国町」の各漁協(支部)で構成されているが、驚くことに全量の8割が、せたな町での漁獲なのである。

何故、せたな町だけで漁獲量が多いのか?

せたな町が他町と違う点は、せたな町の2河川で、2010年から治山ダムと砂防ダムのスリット化を行ってきたことである。

北海道の保護河川「須築川」のスリット化した砂防ダム。撮影:2022年10月20日。
この川では4基の治山ダムをスリット化した。撮影:2022年10月24日。
スリット化した4基の治山ダムのうちの一つ。上流と下流がきれいにつながっている。撮影:2022年10月24日。

治山・砂防ダムのスリット化で砂利が流れ出し、河床低下が緩和され、川岸の崩壊のリスクが減少した。つまり、ダムの影響が取り除かれて、酷い泥水が抑止、低減されたのである。

サケ稚魚は酷い泥水の中で生きてはいけない。ふ化場の池に泥水が流れ込むと、サケ稚魚は壊滅的な被害を受けることからも、お分かりいただけるだろう。泥水が流れ続けているような河川では、放流サケ稚魚も自然産卵由来のサケ稚魚も、人知れず、多くが命を落としている。つまりは、生残率が低下しているので、サケの漁獲が減少するのである。

ダムのスリット化後、年々、川底に堆積している砂が粗めの砂礫に変わり、石と石のすき間ができ、川底を水が通り抜ける透水性が回復している。こうなれば、魚の繁殖できる場所がどんどん増えていく。益々、自然産卵するサケやサクラマスが増加していくことだろう。せたな町では秋サケ以外にも、サクラマスの漁獲が2021年、2022年と好調という。これは、繁殖環境の回復を示唆していることに違いない。その上、河口周辺の海域では、背丈の高いワカメが林のように繁茂するようになり、岩のりが採れるようになり、ウニが大型に育ち、数もたくさん採れるようになった。これはシルトや微細砂の酷い泥水が低減され、粗い砂礫に代わり、海藻の胞子が育つようになってきたからだ。粗い砂礫が岩礁を洗い、海藻の胞子が付着し易くなったり、岩礁の表面を覆っていたシルトや微細砂が無くなり、胞子が発芽しやすくなったためと考えられる。

一方、治山・砂防ダムの影響で、川底が下がり、川岸が崩れ、災害が多発するなど、相変わらず酷い泥水が流れ続けている太平洋側八雲町の遊楽部川では、本流、支流共に自然産卵するサケが殆ど見られなくなっている。自然産卵するサケがいないことは、ホッチャレサケを食べに飛来するオオワシ・オジロワシが激減していることからも明らかである。

2022年4月12日の遊楽部川。この酷い泥水の中に、ふ化場からサケ稚魚が放流されている。小さなサケの子どもたちは生きていけるのだろうか…?

春先、遊楽部川はこんな酷い泥水が流れている。この泥水に孵化場は、サケ稚魚を放流しているのである。泥水の中に放り込まれたサケ稚魚たちは、口からシルト分や微細な砂粒を吸い込んで、繊細なエラ組織を通して吐き出し、エラ呼吸している。繊細なエラ組織を傷つけ、エラ組織のすき間に付着したらどうなるかなど、サケ稚魚の身を案じもしない。孵化事業とは、命を紡ぐ仕事でもあるのではないのか。

こうした酷い泥水を発生させるダムの影響は、深刻なものなのである。

この現実に、サケ専門家たちは言及せず、サケ資源が減少したのは、「地球温暖化で海水温が上昇したからだ」とか、「海流の流れが変わったからだ」とか、はたまた、「北太平洋のどこかで異変が起きており、そこで若いサケが死んでいるのではないか」などと、もっぱら海洋での異変について解説している。しかし、現場を見れば、川から海へ降海する前の段階、つまり、川にいる段階で生残率が低下しているのが真実ではないのか。海洋異変の話に転嫁する前に、まずはサケとはどんな魚なのか、基本的知識に立ち返り、ご自分の足で現場に出向き、再生産の場である川をしっかりと観察され検証し、恥ずかしくない解説をしていただきたいものだ。

 

檜山管内でサケ漁獲高が、1958年以来最高を記録

2022年2月8日、北海道新聞「渡島檜山版」に、檜山管内のサケ漁獲好調、統計を取り始めた1958年以来「最高を記録」したと報道された。北海道南部・日本海側にある治山ダム・砂防ダムのスリット化が進む中でのニュースである。

出典:北海道新聞:サケの漁獲尾数減少している中で、真逆のことが起きている。

北海道の研究機関が発表している2021年度の全道へのサケの来遊尾数予測と実績値をグラフ化したところ、日本海南部だけが予測に反して、実績値が上回っていた。これが何を意味するのか?

出典:北海道立総合研究機構さけます内水面水産試験場さけます資源部

専門家は、サケの漁獲尾数減少の理由を「地球温暖化で海水温の上昇や海流の変動によってサケが戻って来れない」とか、「北太平洋で何かが起きてサケが生活できなくなっているのではないか」、挙句は「ロシアが日本近海で横取り漁獲している」などと減少の見解を述べている中で、日本海南部だけが、真逆のことが起きているのはどうしたことか?

専門家の説明に反して摩訶不思議なことが起きているが、専門家たちは、サケやサクラマスが河川で再生産するという肝要な事を、忘れたとでも言うのだろうか?私たちは、檜山管内で進むダムのスリット化後のサクラマス稚魚0+の分布調査で、産卵域が拡大していることを確認している。サケの来遊尾数が増加していることは、ダムのスリット化による河川環境の改善で産卵域が拡大し、再生産の仕組みが蘇った効果であると言えるのではないだろうか。

 

 

日本海サケ漁獲増加…川の泥を抑止で稚魚生残率向上か…

せたな町、島牧村、乙部町で、2010年から次々に砂防ダム・治山ダムのスリット化が行われてきた日本海側のサケの漁獲好調の続報だ。

出典:2021年10月29日・北海道新聞(渡島・檜山版)

 

出典:北海道水産林務部・北海道サケ定置網の漁場区分図を加工、加筆した。砂防ダム・治山ダムのスリット化した5河川の位置(青矢印)。
出典:北海道立総合研究機構・さけます・内水面水産試験場のデータをグラフ化。

日本海と太平洋側(えりも以西)のサケの漁獲量の比較。太平洋側は減少。日本海側は2019年から増加に転じている。

出典:北海道水産林務部・サケ漁獲旬報から、2016年と2021年の9月10日~10月20日までのデータをグラフ化。

5河川で砂防ダム・治山ダムのスリット化を行った日本海側南部のサケ漁獲量の変動グラフ。漁獲量が格段に増加していることを示している。

出典:北海道水産林務部・サケ漁獲旬報から、2016年と2021年の9月10日~10月20日までのデータをグラフ化。

一方、太平洋側のえりも以西の噴火湾のサケの漁獲量は減少していることが読み取れる。

全道のサケの漁獲量は減少傾向にある。

出典:北海道立総合研究機構・さけます・内水面水産試験場のデータをグラフ化。

サケ漁獲量減少の原因をサケの専門家たちは挙って、地球温暖化による海水温の上昇や海流の変動、また、北太平洋の異変などによる影響でサケ資源が減少し、漁獲量が減じていると説明している。しかし、日本海側のサケ漁獲量は増加しているのである。

ここで注目していただきたいのは、オホーツクと日本海の漁獲量だ。オホーツクでは海産のホタテは垂下式のカゴ養殖ではなく、海底に稚貝を放流する「地撒き増殖」が行われている。そのため、海底環境が損なわれないように、沿岸に泥水が流れ出さないように河川の流域環境保全が徹底されている。一方、日本海では、5河川の砂防ダム・治山ダムのスリット化後に、河口海域での海藻の育ちが良くなり、ウニが大型に育つようになったと言う声がある。つまり、泥水の流れ出しが抑止または低減されたことの証であろう。

また、泥水がサケ稚魚に与える影響を考えてみよう。

春先、自然産卵由来のサケ稚魚は浮出して泳ぎ出してくる。また、ふ化場からはサケ稚魚が放流される。そこに泥水が流れると、サケ稚魚は体から粘液を分泌して泥水から身を守る。口から吸い込んだ泥はエラから吐き出すが、エラは「鰓耙」、「鰓葉」という微細な構造をした組織から成り、この微細な組織のすき間に砂粒が入り込むとエラは傷つき炎症を起こす。ただでさえ粘液を分泌して体力を消耗している上にエラの炎症が重なれば、多くのサケ稚魚が命を落とすだろう。サケ稚魚の生残率が低下していると考えれば、そもそも回帰率云々というよりも、命育む川で何が起きているかが重要な課題なのではないだろうか。

砂防ダム・治山ダムのスリット化により泥水が抑止、低減されれば、サケ稚魚たちは体力を消耗することなく、エラの炎症もなく、丈夫なサケ稚魚として育つだろう。実際、日本海側のサケの漁獲増加は、ダムのスリット化による泥水の抑止効果でサケ稚魚の生残率が向上し、丈夫な種苗となって育った結果、回帰率が向上したのではないかと思われるのだ。(日本海側の北部、中部の漁獲増は、南部の増加した資源が途中で漁獲されたからであろう)かつて、北海道南部八雲町の北海道さけますふ化場・渡島支場長の石川嘉郎さんは、「サケの回帰率を上げるためには丈夫な稚魚を育てる必要がある」と話されていた。

 

ダムのスリット後にサケの漁獲が昨年の3.7倍増

せたな町管内8ヶ統あるサケ定置網のうち、漁獲量が最低だった良瑠石川近海定置網で、4基の治山ダムのスリット化後に漁獲量が1位、2位になった。せたな町管内では、昨年(2020年)の漁獲量は前年の1.8倍増。本年(2021年)は10月5日現在で昨年の3.7倍増と報道された。

せたな町では2010年から良瑠石川の治山ダムをスリット化。これを皮切りに、須築川の砂防ダムは2020年にスリット化が完了。また、同町付近では島牧村の千走川支流九助川の治山ダム、折川の砂防ダムがそれぞれスリット化され、南部の乙部町でもスリット化が行われている。

出典:2021年10月7日・北海道新聞(渡島檜山版)

北海道水産林務部・令和3年秋サケ沿岸漁獲速報10月10日:URL:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/4/3/3/8/3/8/5/_/031010-1.pdf

漁獲増はダムのスリット化と関連しているのか?!

治山ダム・砂防ダムの下流では砂利が供給されない。そのために河床低下が進行し、河岸崩壊・山脚崩壊が多発するようになる。上流でもダムの堆砂が満砂になれば流れが蛇行するようになって、山裾を浸食し、山脚崩壊を発生させる。こうして、ダムの上下流から大量の土砂が流れ出し、雨のたびに濃い泥水が流れるようになる。サケ稚魚やサクラマス稚魚が浮出する春先の雪どけ増水の泥水は酷いものだ。春先、濃い泥水が流れる川でサケ稚魚を観察したことがある。泥水を避け、川岸や細流に入り込み、身を寄せ合っている。よく見ると、体から粘液を出して身を包んでいる。粘液を体から出すには相当な体力を消耗することだろう。また、口から吸い込んだ泥は、エラから吐き出す際に微細な砂粒でエラを傷つけ炎症を起こす。体力を消耗した上に、エラの炎症で稚魚の負担は相当な筈だ。誰も知らないところで多くの稚魚が命を落としているのではないか。

ダムをスリット化すると、砂利が流れ出すので河床低下が緩和され、河岸崩壊・山脚崩壊が止まり、濃い泥水の流れ出しが抑止、低減される効果がある。春先の雪どけ増水から濃い泥水が無くなれば、サケやサクラマスの稚魚は体力を消耗すること無く、健康に育つことが出来る。つまり、生残率が向上し、元気な稚魚たちが海に下るわけで、その結果、回帰率も向上することだろう。北海道さけますふ化場は回帰率を向上させるために、丈夫な稚魚を育てることを一つの目標にしていたのだから、十分その理に適う。

昨年は前年比で1.8倍、本年は前年比で3.7倍だから、このまま3.7倍増で終漁まで続けば、1.8倍×3.7倍=6.66倍となり、2019年に比べれば、なんと6.66倍増にもなる。急激な漁獲増だ。これがダムのスリット化と関連しているかどうか、今後の推移を見守りたい。

 

須築川砂防ダム・スリット化後のサクラマス稚魚調査

2021年6月3日コロナ感染対策の上、せたな町の一平会メンバーとパタゴニア・スタッフの皆さんの協力を得て、須築川でサクラマス稚魚調査を行った。【昨年の秋に親サクラマスから産み落とされた卵がふ化し、今年の早春に浮出(泳ぎ出してきた)した1才未満の稚魚】

河床低下で川底が掘り下がり、川岸が崩れて(写真左側の)河畔林の土台が抜かれて根っこが剥き出しになり、倒れそうになっていた河畔林は、流れてきた砂利で土台が復活したので、もう、倒れる心配は無い。

須築川砂防ダムの下流で進行していた河床低下は、スリットから流れ出した砂利で緩和され、川岸の崖化が抑止されつつあり、河岸崩壊や河畔林は倒れる危険を免れる傾向にあった。しかし、スリットから流れ出す砂利の粒径は小ぶりなものばかりだ。須築川の河床低下を抑止し、河床を安定させるには巨石の供給が必要だ。

スリット化した須築川砂防ダム。間口幅は3.5m。下流には砂利が供給されていたが、まだ、粒径が小さい。
スリット化した堤体を上流から見る(堆砂側)。スリット化工事で砂利を左右に振り分けたこともあり、砂利が広く抜けているが、一気に抜けるようなことはない。
右側の崖上端までダムで止めた堆砂の痕跡。泥や砂を膨大に溜めていたことが解る。つまり、砂防ダムは流れてきた土砂から、泥や砂ばかりを選り分けて貯め込み、これらが攪拌されて下流に流れ出す。そして泥水を発生させ、泥川・泥海にすることが読み取れる。

砂防ダムが止める土砂の粒径は小ぶりなものが多く、且つ、流れ込んできた土砂は上流に向かって無限に堆砂して行き、膨大な量の土砂を止めることを知っていただきたい。ダム上流の渡渉で、この膨大な量の土砂は、上端まで6~700mも続いていた事が分かった。

右側の崖になった土砂は砂防ダムが止めていた砂利。上流に向かって堆砂は続く。スリット化した堤体から上流へ向かって6~700mも堆砂域が広がっていた。膨大な量だ。この堆砂域を過ぎると景観が一変する。

そして、堆砂域の上端からは、須築川本来の苔むした巨石がゴロゴロした雄々しい渓相へと一変した。

巨石は苔むしていた。
巨石の多い川だが、所々に淵や瀬があり、サクラマスの産卵には適した環境となっていた。写真の右岸でサクラマス稚魚を見つけることができた。
サクラマス稚魚2尾を確認。スリットを乗り越えたサクラマスが上流で産卵していることが確認された。

ここで、サクラマス稚魚2尾を見つけた。稚魚を見つけられたことは、スリットをくぐり抜けて上流で産卵している証である。貴重な発見であり、今後が楽しみだ。

巨石がころがる渓相が上流へと続いていた。

さらに上流への調査は、雪融けの増水が続いていることから、次回に。皆さん、お疲れ様でした。

止めていた砂利を下流へ流す「砂防ダムのスリット化」だけで、サクラマスばかりか、沿岸の海藻、ウニ・アワビまでが育まれるようになるのだ。

須築川の橋の近く、国道229号線脇の駐車場には看板が設置されている。須築川砂防ダムのスリット化によって、漁業資源の増加を期待する願いが込められている。

 

魚道では得られないスリット化の効果

須築川砂防ダムのスリット化した間口は3.5mと狭く、流木で塞がるリスクがあるものの、2020年2月末までに8mの切り下げが完了した。そして8か月後の2020年11月6日、パタゴニア札幌スタッフたちと現地調査を行った。

堤高8mの砂防ダムの下部までスリット化を終えた須築川砂防ダム。撮影:2020年2月27日
間口は3.5mと狭いながらも8m切り下げた。今後は流木で塞がるかどうかをしっかりと見極める必要がある。撮影:2020年2月27日。

川底が掘り下がり巨石がゴロゴロしていたところは、スリットから流れ出してきた大小の石で覆われていた。自然の河床、河原が蘇ってきたのだ。

スリット化された須築川砂防ダムから流れ出した砂利が河床を覆い始めていた。川岸の落差も緩和されてきた。撮影:2020年11月6日。
大きな石ばかりで、掘り下がっていた河床は、ほぼ砂利で埋まって自然な瀬になっていた。撮影:2020年11月6日。
大きな石だけがゴロゴロしていた瀬は、砂利で埋まって歩きやすくなっていた。撮影:2020年11月6日

スリット直下のコンクリートの盤(叩き台)に穴が空き、良い深みができていたが、2月に行われた最後の切り下げの際に、この穴を塞ぎ、平らにされてしまった。

スリット化した堤体直下のコンクリート盤が露出していれば、サクラマスやサケの遡上は困難になることが気がかりであったが、現場は、スリットから流れ出した大量の砂利で、腰までの深さの淵になっていた。

堤体8m下部までスリット化が終わった直後。流れ出す水の下はコンクリートの盤だった。左右の穴よりもずっと下に水面がある。撮影:2020年2月27日。
スリットから流れ出した砂利でコンクリート盤は埋まり、深い淵が出来ていた。左右の穴まで砂利が堆積している。撮影:2020年11月6日。

スリット部は腰までの深さの淵になっていた。この淵で3尾のサケを見た。撮影:2020年11月6日。

堤高8mの堤体のスリット部は近づいて見ればその大きさが分かる。撮影:2020年11月6日。
堤体のスリット部の深い淵と自然な流れが戻った上流が見える。撮影:2020年11月6日。

スリット部の淵に3尾のサケがいた。多くのサクラマスやサケがスリットを通り抜けて上流で産卵したことだろう。産卵域が上流へと広範囲に拡大したばかりか、砂利が下流に供給されるようになったことから、ダム下流でも産卵域が蘇えった。ダムで分断されていた川の流れが一つの流れに繋がり、下流でも上流でも広い範囲でサクラマスやサケが産卵できるようになったのである。

サクラマスやサケは、1尾のメスが3,000粒前後の卵を産み落とす。スリット化によって産卵場が拡大したことから、3,4年後には爆発的に増えることが期待される。また、スリットから流れ出した砂利は、アユの産卵場も蘇らせた。地元の漁師も「見たことが無いほどの数が産卵していた」と言う。「河口の海岸は大きな石ばかりで歩きにくかったが、スリット化されてから小石化し、今ではサンダルで歩けるようになり、昔の砂浜が蘇った」「河口周辺では茎が太く背丈の高いワカメが、ヤナギの林のように密生するようになった」とも聞いた。

函館の土建業者とコンサルタント会社が立ち上げた「道南魚道研究会(現在は北海道魚道研究会と改称)」が、提案した日本大学の安田陽一教授が考案した魚道改築案を受け入れていたら、こうはならなかっただろう。そこには「ダムを撤去するしか川は蘇らず、漁獲高も望めない」という漁師たちの英断があったからだ。今後も、地元の漁業者から話しを聞き、川の変遷記録を続けていく。

須築川に建設した砂防ダムが、流れ下るべき大小の石を扞止したために、安定した自然の川の流れを狂わせ、その結果、川が変化を始め、川岸が崩れ、山が崩れ、川が荒れ、サクラマスやサケが枯渇するまでに激減してしまった。ダムをスリット化するだけで、元のように大小の石が流れ下り、産卵場が復活し魚が増え、海藻が増え、自然の仕組みが蘇る。。注目すべきは、全道でサケの漁獲が低迷しているというのに、この管内は、サケの漁獲が好調だということである。

 

須築川ダムのスリット経過報告会と現地視察

2020年2月14日、函館建設管理部による関係機関と協議会員を対象とした「須築川砂防えん堤報告会」が開催され、パタゴニア札幌スタッフの方と参加しました。

これまでスリット化が進むにつれ、現地を経過観察していた私たちの予想通り、報告会ではサクラマスが遡上し、上流で産卵していたことが明らかにされました。スリット化の効果が認められた訳です。スリットの間口は3.5m、切り込みの深さは6.75m。

撮影:2019年11月4日

ダムの堆砂は、スリット化によって流れ出したものの、粒径は全体に小ぶりなものばかりで、下流の国道276号線(229号線)までは河床が上昇するような量には到達していないとの事。また、心配された土砂災害も無く、泥水の影響もヘドロによる水質の劣化も無いことが報告されました。

国道276号線(229号線)橋。河床低下が進行しているために、橋脚の基礎は剥き出しのまま。まだ、ここまでは十分な量の砂利が到達していない。撮影:2019年12月19日

報告会の後、段階的スリット(少しずつ切り下げていく)次の工事着手直前の現場を視察しました。

須築川砂防ダムのスリット化工事現場視察。撮影:2020年2月14日
澪筋を切り替えて、更なるスリット化工事が進められている。堤体は塗り付けたコンクリートで厚みを増していた。撮影2020年2月14日。
間口3.5mのスリット部からダム上流側へ。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの上流側(堆砂側)からスリット部を見る。左右の管は須築川の川水を送水する管。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの堆砂は徐々に抜けていたが、堆砂は樹林化し陸地化しているので、全量が一気に出るような心配は無かった。撮影:2020年2月14日。
堆砂の中の腐葉土などの有機質は押し固められ、ちまちまと浸蝕されて流れ出した痕跡が認められた。大量の泥やヘドロの影響が無かったのはこのためと思われる。撮影:2020年2月14日。
大きな石がゴロゴロしていた河口は、普通の砂浜のように砂礫の渚が蘇ってきている。漁港の出入口が、スリット化によって須築川から流れてきた砂利で閉塞すると言われていたが、現在その兆候は無い。撮影:2020年1月10日。

ダムのスリット化で砂利が流れてきたので、「サケがあちらこちらで産卵していたし、今まで見たことが無かったアユがたくさん産卵していた」と地元の漁師が語った。また、河口付近の海域ではスリット化が始まってから海藻の育ちがよくなり、今までにない大型のワカメが育ち、ホンダワラが密生するようになってきたとも言う。

私たちは、これからもドローン空撮による河口域の海藻の回復状況も含め、自然河川の復活、水産資源の回復など取材を続け、ダムのスリット化の効果を検証します。

 

 

須築川砂防ダムの段階的スリット検証②

せたな町の須築川砂防ダムのスリット化は段階的に行われている。昨年は第一段階として、高さ9mの堤体に間口3.5m×深さ3mのスリットがあけられた。そして、2018年2月に第二段階として、1mを切り下げるという。

須築川は北海道指定の「サクラマス保護河川(禁漁河川)」である。スリット化が終わるまではサクラマスは砂防ダムの上流に上ることは出来ない。サクラマスのライフサイクルは3~4年だ。サクラマス資源の復活を目的にしたスリット化工事に、3年以上かかれば、資源は枯渇することになる。当会は、2018年1月31日に宮崎司代表と河川管理者である渡島総合振興局函館建設管理部今金出張所へ赴き、サクラマス資源復活のため、スリット切り下げ量の増加と3年以内の完成を目指すように申し入れを行った。

第二段階のスリット化工事が終わり、2月16日に現地を視察した。申し入れが聴許されたのだろうか、切り下げ量は1.7mになっており、合計4.7mまで切り下げられた。これで全スリットまで残り4.3mだ。今年度中に切り下げが完了すれば、資源の復活が期待できそうである。

須築川砂防ダムスリット化工事現場の入口看板。漁業資源である「魚が遡上出来るようにしています」と掲げられている。撮影:2018年2月16日
工事関係者から説明を受ける当会代表宮崎司。撮影:2018年2月16日
堤体は3m切り下げ後、更に1,7m切り下げられた。撮影:2018年2月16日
スリット化で切り取られたコンクリート塊。撮影:2018年2月16日
これが堤体のコンクリートを切るワイヤーソーだ。太さ2cmほどのワイヤーに小さなダイヤモンド粒子を埋め込んだ鉄のリングがたくさん付いている。このワイヤーを堤体に穿った穴に通し、機械でぐるぐると回し引きしてコンクリートを切る。撮影:2018年2月16日
トラックに乗せられていたワイヤーソーを引き回す機械。意外に小型で簡単な構造をした機械だ。撮影:2018年2月16日

2月18日には、せたな町の漁師と「せたな町の豊かな海と川を取り戻す会」の人たちの現地視察に同行し、スリット切り口を確認。須築川砂防ダムは重力式ダムで、コンクリートの塊である堤体の断面は台形型。下にいくほど厚みが増し、今回切り下げた下端のコンクリートの厚みは5mある。

2018年2月18日、ひやま漁協と「せたな町の豊かな海と川を取り戻す会」が現地視察。撮影:2018年2月18日
切り下げられた堤体を視察する、早期のスリット化を願っていた漁師たち。足下の堤体の厚みは5mある。撮影:2018年2月18日

ダム堤体をドローンで上空から撮影した。工事の際に切り替えた水の流れはそのままであることが分かる。

間口3.5m、深さ3m+1.7m=4.7mまでのスリット。サクラマスのライフサイクルを考えれば、今年度に一気に下まで切り下げることを切に願う。撮影:2018年2月24日
堤体の堆砂側から望む。上方が下流側である。工事のために川水の流れが切り替えされている。撮影:2018年2月24日
本来は急峻なV字地形を流れる須築川。砂防ダムは流れて来る砂利を止めてしまう。そのため、砂利は上流へと膨大に溜まり、広い河原が形成される。

流れて来る砂利を止める砂防ダムは、ダムの容積以上に、上流に向かって砂利を溜め続ける。その為、本来は存在しない広い河原が形成される。こうしたダムが止める砂利の量は、計画時のダムの容積で判断することは出来ないことがお分かりいただけるだろう。

漁師は見てきた。「砂防ダムがなかった時代、毎年、須築川は真っ黒に染まるほどサクラマスが上った」。太古から長い年月を経て水と砂利の流れがバランスよく安定した川であった証拠だ。砂防ダムが建設された後、サクラマスは激減した。サクラマスの産卵できる川の仕組みを壊してしまったからだ。漁師が願うサクラマス資源の回復は、砂利が下流へと流れ下るようにしなければ見込めない。一刻も早い全スリット化の実現に誰もが期待している。

 

 

須築川砂防ダムの段階的スリット検証①

須築川砂防ダムのスリットについて、河川管理者の函館建設管理部は「一気に切り下げれば、堆砂が全部流れ出すから危険」という理由で、2017年3月にやっと着手されたスリットは、間口3.5m✕深さ3mを切り下げただけである。狭いスリットからは、小さな砂利ばかりが大量に流れ出している。段階的に切り下げるスリットで起こる川の変遷を記録するために、2017年9月13日に空撮での現地取材を行った。

ようやくスリット化が実現したが、間口は狭い。須築川砂防ダム。
段階的に切り下げるにしても、幅も深さも小さすぎるスリット。
須築川砂防ダムの間口3.5mのスリット。スリット間口6mでも流木は引っ掛かる事象がある。即ち、河川管理者は流木で塞がってしまうことを承知で、間口3.5mにした訳だ。メンテナンスには莫大な予算がかかる。

 

このダム堤体の長さで間口3.5mの狭いスリットでは、下流の河床低下を補う効果は薄い。増水時には、鉄砲水のように水が激しく噴き出して川を荒らす役割をすることになる。
ダム上流からスリット部を見る。こんな小さなスリット間口から、これだけの堆砂が都合よく流れ出すだろうか?
ダムの堆砂域では水が蛇行して流れるようになる。山の斜面を浸食する起因をダムが起こす。砂防ダムとは悪果を招くトラップのようなものだ。
ダムは砂利で一杯になると平に広がり、その上を水は蛇行するようになる。山斜面に流路が当たって浸食するようになり、新たな土砂・流木を発生させる。
ダムの堤体から直下を見る。スリット直下は小さな砂利だけ。
狭いスリットから流れ出す石は、小さな砂利ばかりだ。
須築川は急流河川であり、もともと巨石がゴロゴロとあった。狭いスリットでは、小さな砂利ばかりが大量に流れ出すばかりで、元の川底には戻らない。
パタゴニアスタッフに、流域の自然を考えるネットワーク代表:宮崎司が砂防ダムの影響について解説。

地元漁師は、「須築川に砂防ダムができてから、川底が掘られて川が荒れるようになり、サクラマスがいなくなった。早くダムを撤去して元に戻してくれ」と何年もの間、切実に訴えてきた。

須築川は、北海道が指定する禁漁河川(サクラマスの保護河川)である。サクラマスが大挙して産卵に遡上する。こうした再生産の場が資源の豊かさを支える。しかし、砂防ダムが建設されてからサクラマス資源は枯渇したのである。

ダムが出来る➡大きな石も砂利もダムで留まる➡ダム下流は砂利不足になる➡被覆を失った川底はどんどん下がる➡河床が掘られて川岸が崩れる➡河岸や山の斜面がズリ落ちる➡そこから大量の泥が川に流れ出るようになる➡その結果、川底には微細な砂が沈澱して川底の石の間を埋め尽くすことになる。これはサクラマスの卵にとっては致命的なことだ。河床に産み落とされたサクラマスの卵は、泥に埋もれて窒息してしまうからだ。水質は何ら問題の無い清流から資源が枯渇した理由が、ここにある。

この渓流河川に見合った大小様々な石が流れ出すようなスリットをしなければ、回復は見込めない。一刻も早く河床低下を止めて、河岸崩壊や山の斜面のずり落ちを食い止めなければならない。しかし、河川管理者の函館建設管理部は「堆砂の全量が流れ出すから危険」というばかりで、根拠のない言い訳ばかりで頑なに応じようとしない。こんな管理者が、川の回復を妨げ、再生産の仕組みを壊し、自然資源を枯渇させ、漁師を泣かせ、生態系を攪乱し、捕食動物から餌資源を奪い、私たちからも豊かな食卓を奪っている。