北海道のヒグマ対策質問書への回答から見えてくる、札幌市東区で発生したヒグマによる人身事故

北海道のヒグマ対策について、2021年4月5日に知事宛に提出した現行の「ヒグマ関連予算」と、ヒグマ対策のあり方の見直しに関する質問書への回答が、4月26日付けで、知事からではなく担当部署から届いた。

道民の血税で行う事業を担う担当部署からは、質問に対してまともに答える姿勢が見られず、再度、回答を求めたところ、5月10日付けで回答が届いた。

この回答を得た後の6月18日、札幌市東区で市街地をヒグマが徘徊し、人的被害が発生した。北海道からの回答を読み解けば、東区の人的被害は起こるべくして起きた人災被害であることがお分かりいただけると思う。

分かりやすいように、質問と回答を以下に並べる。

ヒグマが、今まさに出没している時には、北海道は関わらないということだ。それを裏付けるように高額な北海道の「ヒグマ関連予算」令和2年度1,760万円、令和3年度1,950万円の内訳には、ヒグマ出没時の予算は組まれていない。

出没しているヒグマを抑止するのではなく、ヒグマの識別や資料の入手を目的にした予算であることが分かる。また、徘徊を放置しているとヒグマの行動がどうなるのか?についての答えは無い。

ヒグマの出没抑止は市町村がやることであって、北海道は「ヒグマ出没対策事業費」とは「技術開発」を目的にした予算だという。

同様に、「ヒグマ出没対策事業費」は「技術開発を総合的に行う」ことを目的している予算だという。

ここでも「ヒグマ出没対策事業費」は、「調査事業(費)」と回答している。30年以上もヒグマ出没対策をして来ていながら、今さら基礎資料が必要だという可笑しな話だ。

ヒグマを芳香剤で誘引し、餌でおびき出す行為は「餌付け」行為には当たらないという。学習能力のあるヒグマが、芳香剤の臭いや餌の味を覚えれば、同様な臭いが人里にあれば出て来るようになるではないか。ヒグマのこうした行動拡大の可能性については答えていない。

毎年、約2,000万円もの高額な予算を組んで、30年以上の実績を経てしても、いまだ「事故防止」や「普及啓発」、「体制整備」についての知見が足りないという信じ難い話だ。

30年以上も調査・研究していながら、今なお「基本的なデータを収集する」という。今まで何をやって来たのだろうか…?

約300万円はICT等の活用を検討・検証する予算だという。ICTを活用しなければ、ヒグマの出没を抑止することが出来ないらしい。

札幌市東区でヒグマが出没し、人的被害が発生したが、「市街地周辺ヒグマ出没対策事業費」として計上された約1,100万円は、こうしたヒグマの出没を抑止する予算ではなく、「ヒグマの体毛を採取する」予算だった。

以上のように、北海道の「ヒグマ関連予算」は調査・研究が目的の予算であって、道民をヒグマの危険から守る目的には使われない予算であることが分かった。こんな対策だから、札幌市野幌、藤野、簾舞、真駒内でヒグマの出没が繰り返されて来た訳だ。ヒグマの出没の「抑止」が、されていないのだから当然である。その当然の流れとして、また東区でヒグマが出没し受傷する人的被害が発生した。出没騒ぎの現場に「ヒグマ関連予算」に関わる専門家は見えず、警察官らがヒグマを追い回していた。追い回され、追い詰められたヒグマはパニックに陥り、何をするか分からなくなり危険になることくらいは誰でも想定できることだ。挙げ句は、ハンターを動員して追い詰めての銃殺処分となった。追い詰められ、逃げ場を失い、怖くて怖くて怯えきったヒグマの哀れな表情が目に焼き付いている。初期対応が適切であれば、住民が受傷することもなかったし、このヒグマも殺されることは無かった。人目を忍び、夜間に徘徊し、明るくなる前には戻るような智恵を持った賢いヒグマだったのにである。「ヒグマ関連予算」からは、ヒグマ出没騒ぎが繰り返される理由が読み解ける。このままでは、今後も東区のように、ヒグマが市街地を徘徊することが続くだろう。ヒグマ関連予算が見直しされない限り、人的被害は絶対に解消されることはない。現行の北海道のヒグマ対策は、「ヒグマ出没抑止を目的とした予算では無い」ことを、「北海道のヒグマに関する調査・研究のあり方は間違っている」ことを、ヒグマの棲む地に暮らす私たち道民、札幌市民はよく理解しておく必要がある。

この東区のヒグマ出没騒動から、図らずもヒグマの出没抑止対策には研究者や専門家は不要ということが明確になった。研究者や専門家は、市街地を徘徊するヒグマを自分の調査・研究目的で放置し、餌付けをし、手に負えない危険なヒグマに仕立てあげ、挙げ句は檻罠で他個体のヒグマをも巻き添えにして、無差別に捕獲して銃殺処分しているのが実態である。本気で道民の生命・財産を守るのであれば、ヒグマの出没情報を得た時点で、即時に現地調査に入り、出没経路を特定して、迅速に出没経路を電気柵で封鎖して、ヒグマの出没を抑止することが北海道として執るべき策だ。現場の指揮は、ヒグマ追跡のエキスパートであるハンターに任せれば良いのだ。ヒグマの行動を読み取れる経験と多くの知見を持ったハンターにこそ、この「ヒグマ対策予算」を充てて、スピーディで的を射たヒグマ出没抑止対策を担ってもらうことの方が、よほど私たち道民の生命・財産を守るに相応しい。無益な殺生をも起こさない真のヒグマ出没対策が確立出来るだろう。

改めて北海道知事に「ヒグマ関連予算」の見直しと、真のヒグマ出没抑止対策への転換を早急に願い求める。

 

 

サクラマス保護河川「臼別川」サクラマス稚魚(0+)調査

せたな町大成区の臼別川にある砂防ダムは、サクラマス保護河川でありながら、砂防ダムが4基(うち1基は堆砂で埋没)、最上流部に治山ダム1基が設置されている。それぞれのダムに付けられた魚道は、直ぐに閉塞して機能せず、これまで漁業者が清掃を続けて来た。魚道の維持管理は困難であり、資源回復にはダムの撤去が望ましく、遂に漁業者からダムをスリットさせる要望が出された。2021年6月15日、スリット化着手前のサクラマス稚魚(0+)調査を行った。

まず、臼別温泉上手にあるB砂防ダムの堆砂域へ下りる。ここから上流域へ進む。

右側に魚道の出口が見える。

B砂防ダムの魚道の上流側の出口。出口は堆砂の溜まり具合で水位が上下に変動するので、上下三段階の出口が設置された高価で立派な魚道だ。だが砂や泥、流木で塞がっており、機能不全状態だった。
右側のコンクリート擁護壁の四角い切れ込みが魚道の入口である。極僅かの水しか流れていないから、サクラマスが上れる筈もない。
B砂防ダムは堆砂で満砂状態。小石や砂が目立つ。B砂防ダムから流れ出すのは小さな石や砂ばかりということが読み取れる。
B砂防ダムの上流は、「小学校理科」の教科書で習った小石ばかりが目立つ中流から下流の特徴になっていた。
B砂防ダムの上流の淵は砂が目立つ。
臼別川は谷間を流れる渓流である。砂防ダムが出来ると川相が一変することが分かる。B砂防ダムの堆砂域の淵は、砂ばかりのあり得ない光景だ。
B砂防ダムの堆砂域に注ぐ小さな川。ここでアメマス稚魚(0+)を確認した。

B砂防ダムの堆砂域ではアメマス稚魚(0+)はいたものの、サクラマス稚魚(0+)は確認できなかった。

そして、C砂防ダムが目前に立ちはだかる。

このC砂防ダムに取り付けられた魚道には水が流れていなかった。フキまで生えている状況から長いこと機能していないことが分かる。

C砂防ダムの魚道の出口は土砂で埋まり、陸地になっていた。

C砂防ダムの魚道の水路は泥で埋まり、オニシモツケ、イラクサ、イタドリが繁茂していた。C砂防ダムの堆砂域は、やや石は大きくなったものの大きさは均一で、砂が多い。渓流なのに、これではどう見ても中流の様相だ。

C砂防ダムは、堆砂で満砂状態なので堆砂域を上流へと広げ、その上流にあるD砂防ダムの堤体を埋めていた。驚くべき堆砂量である。

C砂防ダムの堆砂によって、D砂防ダムの堤体が埋没していた。

埋没したD砂防ダムの下流側に取り付けられた魚道。当然、堆砂に埋没していた。
埋没したD砂防ダムの上流側の魚道の出口。水が溜まっていた隙間にアメマスが隠れていた。

埋没したD砂防ダムの堆砂域に注ぐ小さな川の出合いで、陸封された体長20㎝ほどのアメマスを見つけて観察した。

D砂防ダムに注ぐ小さな川ではアメマス稚魚(0+)を確認した。堆砂の影響で渓流に似つかわしくない砂利が多く堆積していた。

CからD砂防ダムへと続く堆砂域の上流にあったE治山ダム。最上流部の治山ダムさえも魚道は砂利で埋まっていた。

E治山ダム魚道は砂利で埋まり、全く機能していない。
E治山ダムと直下の淵。透明度の高い美しい水なのだが…

E治山ダムの堆砂がどこまで続いているのかを調べる為に、更に上流へと向かった。やや大きめの石が現れるが、おしなべて同じ大きさのものが多い。

E治山ダムの堆砂域の上端付近。ここから巨石が見えてきた。苔むした本来ある姿の渓流が…しかし、サクラマスはここまで来られる術が無い…。

E治山ダムの堆砂域を超えたところから、巨石が目立ち、苔むした石が多くなった。

B→C→D砂防ダム→E治山ダムの堆砂域を調べた後、A砂防ダムの堆砂域に注ぐ臼別温泉脇の小さな支流を調査した。

B砂防ダム下流の臼別温泉脇を流れる小さな支流。ところどころ石の下に手を入れると暖かい温泉水が沸き出していた。
更に進むと、そこはもう魚は上ることが出来ない「魚止の滝」となっていた。この滝壺にはサクラマスとアメマスの1+、2+が見られた。

次に、A砂防ダムの堆砂域でサクラマス稚魚(0+)を探した。魚道は、出口の方へ押し出された砂利でチョロチョロ水が注ぐ程度になっていた。これではサクラマス親魚は遡上出来ない。

A砂防ダムの上流側の出口には砂利と砂が押し寄せ、出口はほぼ塞がっていた。水はチョロチョロ程度の流れで、これではサクラマス親魚は魚道を上れない。

A砂防ダムも満砂状態で、小石と砂ばかりだ。

A砂防ダム堤体に押し寄せた堆砂は小石が目立ち、砂が目立つ。写真の左の脇を流れる水が魚道の出口に繋がっている。
サクラマス稚魚(0+)を探す。
A砂防ダムの堆砂の右岸側の小さな流れの溜まりで、ヤマメ(サクラマス2+)を見つけた。

A砂防ダムの堆砂域の細流でサクラマス稚魚(0+)を見つけることが出来た。

A砂防ダムの堆砂域の細流で確認したサクラマス稚魚(0+)たち。撮影は橋本泰子さん。

その後、A砂防ダムの下流側でも探したが、見つからなかった。

A砂防ダム下流。
A砂防ダムの下流でサクラマス稚魚(0+)を探したが見つけることはできなかった。

A砂防ダム下流の淵にはサクラマス親魚がいた。ダムの魚道は上れないので、やむなく下流で産卵するしかない。

A砂防ダム下流の淵にはサクラマス親魚がいた。ダムの魚道は上れないので、やむなく下流で産卵するしかない。

調査データを地図に落としてみると、昨年はA砂防ダム魚道は機能していたようだが、稚魚(0+)の数から、遡上したサクラマスは少なかったと思われる。また、B砂防ダムの魚道は機能していなかったことが伺える。A砂防ダムから下流では稚魚(0+)が見つからなかったことから、産卵場所がなかったのか、卵が育たなかったのか?分からない。そして、サクラマス親魚が遡上してきているのに、A砂防ダム魚道は機能していない為、上流へ上ることは出来ないでいた。サクラマス稚魚(0+)が見られたのは細流ばかりだったことから、川岸の多様な流れが必要だと分かる。砂防・治山ダムがある川では河床低下が進行するために、川岸の多様な流れが失われるので、稚魚(0+)の生育には不利となる。

今回の調査で言えることは、①砂防・治山ダムの魚道はすべての魚道が機能していなければサクラマス資源は減少する。②ダムの堆砂域は上流へと広がり、かつ、河床の透水性が萎えるので産卵場所が減少する。(B砂防ダムから上流において、アメマス稚魚(0+)が見られたが、数が非常に少ないことから、アメマスですら産卵に適した場所が無かったと伺い知ることが出来る)③ダムの下流では微細砂・シルトが河床に堆積するので、産卵が行われても卵が窒息し育たない可能性が大きい。あるいは河床に微細砂・シルトが堆積して産卵に適した場所が失われている可能性が示唆される。(A砂防ダム直下ではサクラマス稚魚(0+)が見られなかった)

以上から、砂防・治山ダムがあるだけで、サクラマス資源が減少することは明らかである。臼別川でも、サクラマス資源が激減していると言える。せたな町では釣り人と漁師たちが毎年、臼別川の魚道清掃を手がけており、何度か私たちも参加したが、魚道内の砂利のかき出し、魚道出口を塞ぐ砂利の除去、出口から流れに繋ぐ溝掘りをしなければならず、大変な労力が必要だった。汗を流して奮闘しても、その後の増水で再び塞がるのだから、まさに労あって益ナシの徒労に終わる。魚道の維持管理は極めて困難なのである。

臼別川のサクラマス資源を回復させるためには、一刻も早く5基のダム撤去が必要であり、まずスリット化することにより、サクラマス親魚が確実に遡上できるようにさせ、且つ、至る所で産卵出来るような川の仕組みを蘇らせることが必要だ。間口を広くスリットすればするほど維持管理は不要となるし、水質良好な川なのだから、改善しさえすれば、間違いなくサクラマス資源は回復し増加する。