ヒグマの「ヘア・トラップ」調査とは、どんな手法なのか?
囲いの中心に「誘引物」を設置して、ヒグマをおびき寄せ、仕掛けたバラ線でヒグマの体毛を引っかけたり、クレオソートを塗りつけた丸太や立木に背こすりをさせて巻き付けたバラ線でヒグマの体毛を採る調査手法である。
この「誘引物」とは、エゾシカの肉塊やサケの切り身、クレオソート(防腐剤)である。
★ヘアトラップ法 は近年、世界的にヒグマなどの実数調査、生態研究などに広く行われているようで、いわゆるヒグマ研究者たちや環境省などは それをそっくりまねた形で日本に導入したようです。しかし、ヘアトラップ法が行われる舞台は北欧、ロシア、アラスカ、カナダなど人口希薄なきわめて広大な地域であり、人間の行動圏とヒグマの生息圏がオーバーラップしている、やたらとせまい北海道とはまったくことなることが考えられます。~★「北海道昆虫同好会」ブログより抜粋~
出典:shikakuma_H2902_shiryosankou3
エゾシカの肉塊やサケの切り身が「誘引物」なのだから、餌付けそのものと言えよう。
環境省に「ヘア・トラップ」調査は「餌付け行為」ではないか?と質問したところ、2024年4月22日に「環境省自然環境局野生生物課 鳥獣保護管理室」から回答が届いた。
【回答①】ヘアトラップ法では、餌付くことを防止することに配慮した構造で調査が実施されているため、「餌付けによるヘアトラップ調査」という表現は適切ではないと考えます(餌付けは行っておりません)。
ヒグマを食べ物(餌)でおびき出しているのに、この行為を「餌付け行為とは言わない」という回答である。それにしても、「餌付くことを防止することに配慮した構造」とは、いったいどんな構造なのだろうか?←再質問しているが、2024年6月18日時点でまだ回答は無い。
【回答②】個体識別の結果からは、同一個体が同一トラップや他のトラップを訪れる事例もあれば、いずれのトラップにおいても二度と訪れない事例もあります。
同一個体が同一トラップを再訪したり、他のトラップを訪れることが確認されているこの事象は、まさに学習効果というものだ。
【回答③】餌付けによる学習は行っていませんので、調査後に索餌行動が持続されることは無いと考えています。
再訪したり、他のトラップを訪れるという行動はすなわち、学習した結果、新たなる「索餌行動」が生まれることが示唆される。学習で獲得した行動は持続されるものだ。
【回答④】トラップは人が通る登山道・林道から離れた森林内に設置するとともに、トラップ付近には調査中の看板等を設置してトラップに近づかないよう注意喚起をしております。
トラップを設置するのは、環境省職員でも研究者でも無い。下請けの入札業者だ。登山道や林道、車停めから離れて、藪漕いて設置や回収をしているとでもいうのか?ヒグマと遭遇する危険を冒してまで道なき道を踏査する筈もないだろう。
北海道のヘア・トラップ管理手順書には、ヘアトラップ設置場所および対象木の選定として、「有刺鉄線を巻きつける対象木として、けもの道や林道沿いに生えているものを選ぶ」「基本的に林道に沿って、 林道から数十mほど離れた場所に設置することになる」「ヘア・トラップの多くは林道沿いに設置されているため、〔林道を車で移動→近くに駐車→ 徒歩で数十m離れたトラップへ行き体毛回収&腐食防止剤の塗布→車に戻る〕を繰り返す」としている。
環境省は、釣り人や山菜採り、林業者、動植物調査など、様々な目的で入山する人たちが、登山道や林道から離れて入域することを想定していない。クレオソート臭は、数キロも届くというのに、林道沿いの僅か数十mで仕掛けられる。これは、即ち数キロも離れた山奥のヒグマを、林道へ誘引する行為である。トラップに近づかないようにする注意書きの看板は、トラップの囲いに設置されているのである。洒落にもならない回答だ。
「誘引物(餌)」を見つけたヒグマは「誘引物(餌)」にこだわり、他を排除し、攻撃的になることは熟知されている。大千軒岳で消防士がヒグマに攻撃された事例からも明らかであり、「誘引物(餌)」に近づく人間を排除することは自明の理というものだ。
この調査の危険性がここにあるのだ。
【回答⑤】調査中は餌付けはしておらず、調査完了後は誘引餌等を含む機材一式を回収していることから、本調査はクマを調査地に定着させるものではないと考えます。
おかしな回答だ。現に餌付けをしているではないか。また、「本調査はクマを調査地に定着させるものではないと考えます」…考えます?無いとは言い切れない科学的な裏付けの無い曖昧で心許ない回答だ。
同一個体がヘア・トラップを再訪したり、他のヘア・トラップを訪れることは、「誘引物(餌)」を学習した結果であって、さらに「誘引物(餌)」が他にも無いだろうかと索餌して歩き回るようになり、かつ、発見したものにこだわり、そこに近づく者を排除し、”攻撃性”が生まれる。
山林に入域する人の身の安全を裏付ける科学的なデータがないままに危険な「ヘア・トラップ」調査が実施されている。
そもそもヒグマの毛を採取して個体識別し、生息頭数や家族構成を知ったところで、出没の抑止や被害の防止になるのだろうか?逆に、山奥からおびき出して一層危険になるのではないか?草本食を主にしている穏やかな個体まで、肉の味を覚えるヒグマを生み出すことにならないのか?クレオソート臭を覚え執着したヒグマが索餌して公園木道や家屋に使用された防腐剤を嗅ぎつけ、人の行動圏・生活圏へ誘引することにならないのか?このような危険を孕んだ「ヘア・トラップ」調査が、ヒグマ対策の何の役に立つというのか?
環境省の回答は、まさに「ヘア・トラップ」調査は餌付け行為であり、ヒグマの行動を撹乱し、山林に入域する者への被害の発生を自らで証明しているようなものである。科学的な安全性を裏付けるものは全く得られていない。従って、「ヘア・トラップ」調査は、近づく人間が攻撃を受けることが示唆される危険極まりない調査手法である。
即時に設置した「ヘア・トラップ」を撤去し、調査を中止するべきだ。