十勝の災害・現場の取材を怠り、専門家任せで真相が見えないNHK記者

2017年9月1日、NHK「北海道クローズアップ 異常気象にどう備えるか~連続台風から1年~」は、大本営発表の広報をしただけの番組だった。記者は、現場で川を知ることから始めていただきたい。

http://www4.nhk.or.jp/P2866/x/2017-09-01/21/53255/8324605/

河川災害のコメンテーター常連である清水康行教授(北海道大学工学院)が、まるでグランドキャニオンのように川底が深く堀下がった芽室川を背景に、「今まで北海道では大雨が少なく、土砂が堆積したままになっていたが、昨年の台風の大雨により川底が削り取られ、大量に掘られた部分が市街地に流れ、川が氾濫し、被害が大きくなった。」と解説している。川底に堆積していた土砂が10~15mも削り取られて流れ出し、その土砂が下流で災害を発生させたと言う。

しかし、すぐ上流に砂防えん堤が見える。そこから堀下がってることに、疑問を感じて取材をするような記者であれば、真相は…川底の地層が既に剥き出しになっていたところに、大水が押し寄せて、川底の地層が浸食されたのではないか…?と疑問を感じる筈である。

砂防えん堤で土砂が止められてるから、えん堤下流では川底の土砂は流されて既に無い。露出した川底の地層はどんどん浸食されていく。これは、芽室川へ注ぐ支流の渋山川を見れば、よく分かる。芽室川と同じように砂防えん堤の下流側で川底が浸食され、グランドキャニオン化しているのが見られる。NHK記者さん、現場に行くのは億劫だと言うのなら、写真を添えるからよ~く観察してほしい。

大規模な砂防えん堤とその直下の様子
砂防えん堤の直下。
砂防えん堤の直下からグランドキャニオン化が続いている。

川底に敷き詰めたコンクリートブロックの下は、どんどん浸食されるから空洞になって、グシャグシャに崩れている。その下流は、川底がどんどん堀下がり見事なグランドキャニオンのようになっている。下の写真は2009年に撮影したものである。

2009年7月1日
2009年7月1日

これが川底が掘り下がる現象「河床低下」である。河床低下が進むと今度は川岸が崩れはじめる。次に砂防えん堤下流の写真を見てほしい。

川底が下がると「砂山くずし」と同じように川岸の下部が浸食されて、川岸が崩れる。川岸が崩れることで土砂と流木が流れ出すわけだ。川岸の木は倒れ込み、写真右側の垂れ下がったコンクリートブロックは川底に敷設していたものだ。砂防えん堤がもたらす河床低下は非常に危険なのだ。
砂防えん堤のず~っと下流にも砂利を止めるえん堤がある。その下流でも同じように川底が下がって、川岸が崩れている。
この砂防えん堤の下流では、車で通れた道まで崩れてしまった。
川底が下がり、川岸が崩れ続けるので、川幅がどんどん広がっている。こうして膨大な土砂と流木が流れ出すことになる。

次の3枚の写真は渋山川のすぐ隣り、同じ芽室川支流の久山川である。砂防えん堤の直下で著しく川底が堀下がっていたところに、大水の後にどうなったのか?このような現場をしっかりと検証していれば、災害の真相のメカニズムが理解できた筈だ。

中央の右奥に砂防えん堤が見える。その下流では著しく川底が堀下がっている。2015年5月15日に撮影したものだ。
2016年8月の大水のあと、ここにあった砂防えん堤は流されて跡形も無く消えた。ご覧の通り、両岸は崩壊して川幅が極端に広がった。2017年5月20日に上の写真と同場所を撮影したものだ。
ドローンで上空から撮影した映像に、被災前の川幅を赤点線で示したものである。右の長方形が砂防えん堤があったところだ。大水後に両岸ともに大規模に崩壊し、川幅が驚くほどに広がった。既に起きていた著しい河床低下で、川岸が崩壊して土砂と流木が下流に流れ出したのである。

既に著しい河床低下で河岸が崩れていたところに、大水が川岸を大規模に崩壊させて、膨大な土砂と流木を流出させたことが分かる。砂防えん堤まで跡形もなく消えたのだ。その結果、下流に大量の土砂と流木が押し寄せ大水は競り上がって破堤させ、被害は起こった。下2枚の写真は清水町のペケレベツ川だが、全く同じメカニズムで土砂災害が起きている。

清水町のペケレベツ川では落差工(砂防えん堤)の直下から川底が下がり、川岸が崩れている。
清水町のペケレベツ川。落差工(砂防えん堤)から市街地に至る下流では川底が下がり、川岸が大規模に崩壊して、膨大な土砂と流木が流れ出したことが伺える。

河床低下は川岸を崩壊させ、川に面した山の斜面も崩壊させて、膨大な土砂と流木を生み出す怖ろしい現象である。これは、砂防えん堤の下流で見られる現象であることを知っていただきたい。

決して、昨年の台風豪雨で起きた現象ではない。NHK記者さん、あなたは、清水教授が「北海道では今まで大雨が少なく、堆積したままになっていた土砂が流れて市街地に災害をもたらせた」という解説を再検証もせず、鵜呑みのまま番組を制作し放映することは、「被災した人たち」を、「異常気象にどう備えるか」を思案する人たちを、欺くようなものと思いませんか?そして、見誤った検証をすることで間違った治水対策が起きてしまうことに責任を感じませんか?取材とは、説明や現象を読み解く仕事ではないのでしょうか?

以下のfacebook「川の自然と治水を考える会」の9月6日と7日の記事でも同じような指摘がされている。

https://www.facebook.com/川の自然と治水を考える会-526473630754362/