「北海道告示第10779号」⇒名称:「令和6年度(2024年度)ヒグマ地域個体群生息数推定調査に係るヘア・トラップ設置及び試料採取等現地作業委託業務」には、「ヘア・トラップ管理手順書」がある。しかし、その内容は、環境省からの回答や北海道環境生活部発行の「ヒグマとのおつきあい」の記載ともに、齟齬する記述が見られる。
環境省の【回答⑤】調査中は餌付けはしておらず、調査完了後は誘引餌等を含む機材一式を回収していることから、本調査はクマを調査地に定着させるものではないと考えます。
03_(別添1)R6ヒグマ地域個体群生息数推定現地調査ヘア・トラップ調査管理手順書(素案)
ところが、北海道の「ヘア・トラップ管理手順書」には、以下のように書かれている。
現場では、回収するのは誘引餌等を含む機材一式ではなく、バラ線のみで、クレオソートを塗布した誘引餌等はそのまま放置している。ということは、調査完了後もクレオソートの臭いは調査地点に残るわけだ。明らかに環境省の「本調査はクマを調査地に定着させるものではない…」という回答とは、齟齬する。
そして、「ヘア・トラップの近くを通るヒグマを、トラップ内を通過させることを目的に、クレオソートを使用して誘引するものである」と書かれている。
ヒグマにクレオソートの臭いを嗅がせて、「こっちへおいで…」と、おびき出す。臭いに引き寄せられるヒグマは、近くにいるヒグマとは限らない。数キロの臭いを拾えるヒグマが、クレオソートの臭いに誘引されるこの行為そのものが行動の撹乱である。
同一個体が、同一トラップを再訪したり、他のトラップを訪れていることを認めていながら、「クレオソートの臭いが漂っている間、その周辺にヒグマが居つくことは無い」と言い切る環境省の回答は解せないものだ。そもそも、バラ線撤収後でもクレオソートの臭いは残る筈だ。
このヒグマの嗅覚について、北海道環境生活部が発行したリーフレット「ヒグマとのおつきあい」に、興味深い記述がある。
「●臭覚:(臭いに)敏感で、埋めた残飯などもすぐに見つけ出す。」と記載されている。また、2023年4月6日付の「 集英社オンライン」では、ハンター歴60年の北海道猟友会標茶支部長の後藤勲氏が「…クマは嗅覚が非常によく、2キロから3キロ先の匂いもわかるので捕獲は難航を極めます。…」と述べている。いわば近くを通るヒグマだけがトラップに来るとは限らないことを北海道も、ベテランのハンターも認識している訳である。
ヘア・トラップの危険性は、広域からヒグマをクレオソートでおびき出し、ヒグマの行動を広域化させることにあり、普段は見かけることが無かった場所でヒグマを見かけるようになり、出没件数が増加し、被害が発生するようになり、人とヒグマの出会い方次第で人的被害に及ぶ可能性が濃厚に示唆される。
「ヘア・トラップ管理手順書」には、「…本調査地より渡島半島地域での過去の調査において、上記項目を遵守した結果、特にヒグマによる危険を確認した事例はありません。」とあるが、ヘア・トラップと人身事故などとの関係については、単に検証がされていないだけで、すでに発生していることも考えられる。
誘引物へのヒグマの執着心についても、同リーフレットには次のように書かれている。
これは、ヘアトラップ調査のクレオソートなどの誘引物が、人を恐れないヒグマを生み出す危険性を孕んでいると示しているようなものだ。山林作業では機器に使用する揮発性の燃料の取扱は現場に臭いを残さないように厳重に管理されていることからも、クレオソートによるヒグマのおびき出しは要注意であることが判っている筈だ。
40年もの長きに亘り、莫大な道民税を費やして、ヒグマ対策が行われてきているが、いまだに、ヒグマの出没も抑止できず、出没地現場の最前線に専門家は誰も立ち会わず、追い払う陣頭指揮すらもできない。道民の暮らしの安全・安心のためにヒグマ出没抑止対策をする理念など全く無い。即ち、研究者がデータ収集を目的にした予算を維持するために、巧みな調査手法であたかもクマ対策を施しているかのような「見せかけ」であると言わざるを得ない。現場で起きている実態の何すら知らない国が、ヘアトラップ調査を認めたことで、ますます道民の暮らしは危険に曝されるばかりとなる。2024年、北海道は道南地域の松前町と上ノ国町において、新たなヘア・トラップ調査をすでに実施中である。
餌付けに誘引されるクマより、国や道の税金に餌付けされた調査研究集団こそ質が悪いと言えよう。