公共事業評価書次第で森と川を破壊する砂防事業。

函館方面と江差・厚沢部を結ぶ国道227号線の橡木橋(とちのき橋)を流れる子熊の沢川。

国道227号線の橡木橋(とちのき橋)から見た子熊の沢川。

過去に大雨で、子熊の沢川沿いの林道(下写真の茶色波線)から泥水が流れて、橋の間口が閉塞し国道に砂利が飛び散る水害が発生した。

その後、旧河道(黄色波線)を埋めて直線化し、橋の間口を広げ、巨大な4号砂防えん堤が新設されたのである。

橋の間口を広げた。

この事業の根拠とされる平成19年度・国土交通省河川局砂防部保全課による個別公共事業評価書を添える。

国土交通省・平成19年度・個別公共事業の評価書・平成20年3月25日 省議決定

「便益の内訳及び主な根拠」とされる人家:一戸は、工事着手前に移転している。被災を受ける事業所:2施設とは、砂利置き場のことだろうか?重要公共施設:2施設とは、国道200mと橋を示しているのだろうか?何れも現場に見当たるものは無い。

川の周りに人家は一戸もない。しかし、貨幣換算した便益:Bの17億円は見直されることなく工事は着手されている。この川には、既設の砂防ダムが3基ある。その下流に、4号砂防えん堤が新設された。更に、既設の1号砂防ダムを取り壊して、新しいえん堤を建設している。その上、2号砂防ダムまで取り壊して新しいえん堤を新設するという事業だ。

費用便益分析の費用:Cの5.1億円で新設された2つのダムを上空から撮影した。

新設された巨大な4号砂防えん堤。
新設された4号砂防えん堤。下流側には国道橋までたくさんのコンクリート堰が階段状に敷設されている。堤体の上流側は、山の斜面を削ってまで川幅を広げている。
4号砂防えん堤の上流側は、こんなに小さな谷川だ。
新設された巨大な4号砂防えん堤に見合わない子熊の沢川。鬱蒼とした樹林に覆われて川筋が見えないほど小さな谷川だ。上流に白い帯が見えるのは、新設された1号砂防えん堤。
白い帯が見えるのが、既設の1号砂防ダムを取り壊し、両岸を広げて新設された1号砂防えん堤だ。

既設の1号砂防ダムを取り壊し、川幅を広げて大規模な1号砂防えん堤を新設。そのすぐ下流には新設の4号砂防えん堤がある。

取り壊す前の1号砂防ダム。スリット化するだけで十分だった。 撮影:2014年8月23日
造り変える必要性は見当たらない。    撮影:2014年8月23日
こんな小さな川を大規模に開削して、わざわざ川幅を広げた。撮影:2014年8月23日
これが、既存のダムを壊して川幅まで広げて(上3枚の写真)新設された1号砂防えん堤。
この新設された1号砂防えん堤の上流は小さな谷川だが、それも両岸を掘削して広げている。
新設の1号砂防えん堤の上流は、暗い森の中を流れるこんなにも小さな谷川なのだ。この森や川を壊してまで更に上流に、えん堤が造られていく。
子熊の沢上流は、鬱蒼とした樹林に覆われる小さな谷川だ。この中に、既設の2号砂防ダムと巨大な3号砂防ダムがある。今後、既設ダムを取り壊し、森や谷を削り川幅を広げて、新しく砂防えん堤を新設するというが、無駄どころか破壊行為である。

子熊の沢川の川幅は狭く、苔むした巨石が噛み合い、河床は安定している。流域は鬱蒼とした樹林で覆われ、土砂・流木が流れ出すような背景はどこにも見られない。被災を受ける人家すら存在しない。懸念される国道への土砂流出は、橡木橋(とちのき橋)の間口を広げただけで、既に解決している。そもそも過去の被災原因は、川ではなく林道から流れた土砂であり、見立て違いもいいところである。

国土交通省は即時、この砂防事業の根拠である平成19年の事業評価を見直すべきだ。公共事業評価委員会に、被害額の内訳の公表と、砂防えん堤新設費用と国道227号線の橡木橋(とちのき橋)の間口を広げる費用とを比較した便益の再検証を求めたい。

※北海道渡島総合振興局函館建設管理部治水課と国土交通省に、国土交通省・平成19年度・個別公共事業の評価書(平成20年3月25日省議決定)にある「直接的被害軽減便益」17億円の内訳と人家(一戸)・事業所(2施設)の所在を問い合わせている。回答があり次第、HP上で公表する。

 

新幹線トンネル工事現場で、謎の配管と恫喝。

北海道新幹線トンネル工事・ルコツ工区に於いて、笹薮の中にある川へ引いた2本の鋼管(パイプ)について、施工者であるJV筆頭・奥村組の所長が、「2つの沈砂池が満水になったときに、処理することが出来ないので、そのまま川に排水するために設置した」と説明している。(詳細は、排水問題その3を参照ください)

ヒ素が混じった有害重金属含有の泥水を未処理のまま川に排水するのは問題だとして、八雲町長の指示のもと、12月14日に八雲町役場新幹線推進室の職員3人と合同でルコツ工区の現地確認を行うことになったのである。

川に突きだした鋼管は取り外してある。右に塩ビの入れ物が見える。

この川の下流には八雲町黒岩地区の住民の水道水源の浄水場がある。水は、直径4m×深さ6mの井戸から地下水を汲み上げている。その上流でヒ素が混入した未処理水を流すというのだから、重大な問題である。

上の写真は11月9日にJVの所長から説明を受けて撮影したもの。下の写真は12月14日に配管を外したと説明を受けて撮影したもの。配管はパーツの1品が外されているだけで、ほとんどはそのまま残されている。これでは、いつでも使用は可能だ。
つなぎの鋼管を1本(部品一つを)外しただけである。

当日、JV筆頭・奥村組所長は、「配管は外した」と言って、雪を手で払って見せた。その写真をよく見ていただきたい。破線の1本(1部品)だけを外しただけで、配管はそのまま残されている。

配管を確認しに来た八雲町役場新幹線推進室の職員は、この配管がどのように配置され、何の目的で配置されたのか調べることもなく、質問することすらしないので、業を煮やした我々は、奥村組所長から聞いていた通り「この配管こそが沈砂池が満水になった時に、未処理の濁水を川に排水する配管だ」と説明した。すると、いきなり奥村組所長は「そんなことは言っていない」と割って入ったのである。更に、発注者の機構責任者たちの前で、「名誉毀損で訴えるぞ」と激高したのである。我々の目的は配管の事実を確認し、未処理の有害重金属含有の濁水を排水しないように、申し入れているだけのことだ。この視察前に、わざわざ配管の一部を外していたことは、法に抵触している疑念しか浮かばない。工期も予算も決まった中で、立ち止まることは施工者には出来ない。水資源を損なうと分かっていても、やるしかない。それを強いているのは機構である。こういう問題にこそ、環境債(グリーンボンド)を充てるべきだ。

この恫喝に対して、機構は高みの見物であったことにも驚く。水道水源の汚染を心配している住民に対して、発注者である機構の現場担当所長も、札幌から来ていた機構の工事課長も、恫喝した奥村組所長を制止しようともしなかったことは、何故なのか?機構がこの配管を知らなかったはずはない。そして何故、一部だけを外した配管を目の当たりにしながら、黙認しているのか?

独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構札幌の工事第四課長の三谷氏に、恫喝と不可解な配管について見解を求め、12月18日に申し入れを行った。機構からの回答は、このホームページ上で公表する。

 

 

須築川砂防ダムの段階的スリット検証①

須築川砂防ダムのスリットについて、河川管理者の函館建設管理部は「一気に切り下げれば、堆砂が全部流れ出すから危険」という理由で、2017年3月にやっと着手されたスリットは、間口3.5m✕深さ3mを切り下げただけである。狭いスリットからは、小さな砂利ばかりが大量に流れ出している。段階的に切り下げるスリットで起こる川の変遷を記録するために、2017年9月13日に空撮での現地取材を行った。

ようやくスリット化が実現したが、間口は狭い。須築川砂防ダム。
段階的に切り下げるにしても、幅も深さも小さすぎるスリット。
須築川砂防ダムの間口3.5mのスリット。スリット間口6mでも流木は引っ掛かる事象がある。即ち、河川管理者は流木で塞がってしまうことを承知で、間口3.5mにした訳だ。メンテナンスには莫大な予算がかかる。

 

このダム堤体の長さで間口3.5mの狭いスリットでは、下流の河床低下を補う効果は薄い。増水時には、鉄砲水のように水が激しく噴き出して川を荒らす役割をすることになる。
ダム上流からスリット部を見る。こんな小さなスリット間口から、これだけの堆砂が都合よく流れ出すだろうか?
ダムの堆砂域では水が蛇行して流れるようになる。山の斜面を浸食する起因をダムが起こす。砂防ダムとは悪果を招くトラップのようなものだ。
ダムは砂利で一杯になると平に広がり、その上を水は蛇行するようになる。山斜面に流路が当たって浸食するようになり、新たな土砂・流木を発生させる。
ダムの堤体から直下を見る。スリット直下は小さな砂利だけ。
狭いスリットから流れ出す石は、小さな砂利ばかりだ。
須築川は急流河川であり、もともと巨石がゴロゴロとあった。狭いスリットでは、小さな砂利ばかりが大量に流れ出すばかりで、元の川底には戻らない。
パタゴニアスタッフに、流域の自然を考えるネットワーク代表:宮崎司が砂防ダムの影響について解説。

地元漁師は、「須築川に砂防ダムができてから、川底が掘られて川が荒れるようになり、サクラマスがいなくなった。早くダムを撤去して元に戻してくれ」と何年もの間、切実に訴えてきた。

須築川は、北海道が指定する禁漁河川(サクラマスの保護河川)である。サクラマスが大挙して産卵に遡上する。こうした再生産の場が資源の豊かさを支える。しかし、砂防ダムが建設されてからサクラマス資源は枯渇したのである。

ダムが出来る➡大きな石も砂利もダムで留まる➡ダム下流は砂利不足になる➡被覆を失った川底はどんどん下がる➡河床が掘られて川岸が崩れる➡河岸や山の斜面がズリ落ちる➡そこから大量の泥が川に流れ出るようになる➡その結果、川底には微細な砂が沈澱して川底の石の間を埋め尽くすことになる。これはサクラマスの卵にとっては致命的なことだ。河床に産み落とされたサクラマスの卵は、泥に埋もれて窒息してしまうからだ。水質は何ら問題の無い清流から資源が枯渇した理由が、ここにある。

この渓流河川に見合った大小様々な石が流れ出すようなスリットをしなければ、回復は見込めない。一刻も早く河床低下を止めて、河岸崩壊や山の斜面のずり落ちを食い止めなければならない。しかし、河川管理者の函館建設管理部は「堆砂の全量が流れ出すから危険」というばかりで、根拠のない言い訳ばかりで頑なに応じようとしない。こんな管理者が、川の回復を妨げ、再生産の仕組みを壊し、自然資源を枯渇させ、漁師を泣かせ、生態系を攪乱し、捕食動物から餌資源を奪い、私たちからも豊かな食卓を奪っている。