本当に必要な砂防事業なのか? 誰も気に止めない公共事業は過剰なムダを生む

平成20年3月25日付け省議決定…国土交通省政策評価基本計画及び平成19年度国土交通省事後評価実施計画に基づいた個別公共事業の新規事業採択時評価、再評価及び完了後の事後評価が公表されていたので、現在、ダム建設中の「子熊の沢川」について、付記する。

個別公共事業の評価書(平成19年度)・国土交通省

平成19年度・トリム・公共事業再評価委員会資料・子熊の沢川・通常砂防工事

函館から江差方向へ国道227号線を橡の木(とちのき)橋を渡るとき、右手に巨大な鋼鉄製アングル式の砂防ダムがそびえ立っている。名前のとおり、この小さな「子熊の沢川」に、何故、ここまで巨大なダムが必要だったのか?上流へと取材を進めるほど、理解の出来ない環境なのである。そして、現在もその上流奥で、巨大な砂防ダムが建設されようとしているとは誰も気が付かないだろう。

2015年8月15日、取材を続けた。①2015-06-01と2015-08-15・スリットを拡張

スリットは大きく間口が広げられていた。(※濁水処理用の水槽が置かれてあるが、使用された形跡は全く無い。下流には大量の砂が溜まっている。垂れ流しだったようだ)②2015-06-01と2015-08-15・スリットを拡張

堤体にコンクリートを肉付けしている。本当に必要なのか、現場を見れば見るほど、疑問を感じる。③2015-06-01と2015-08-15・スリットを拡張

ご覧の通り、スリットの間口は大きく広げられている。何度も大雨洪水警報が出されていたが、間口は広げたまま工事はお盆休み中である。

スリット工事の上流側には、川を堰止めるように巨石が並べられていた。巨石を寄せて、簡易なダムを造っている。

④2015-06-01と2015-08-15・スリットを拡張

お盆休みで工事休止中の増水時に備えたようだ。このような小さな規模の川には、この程度に巨石を置けば大丈夫だということを物語っている。

2015-08-15・加工済・子熊の沢川・砂防ダム工事現場の直下・KAZ_0003

工事現場のすぐ下流の巨石は苔むしている。つまり、動いていない証しである。この川が自ら安定させた姿である。ダムが出来れば、ここは河床低下を起こし、ダムが生み出す微細な砂が巨石を動かし、川は壊れる。

②鋼鉄製アングル式砂防ダム

既に下流には巨大な鋼鉄製アングル式砂防ダムが建設されている。

①鋼鉄製アングル式砂防ダム

川の水量を見ていただきたい。この川が「子熊の沢」と名付けられていることがお分かりだろう。「沢」には到底、不釣合いな巨大な建造物だ。更に上流にも同じ巨大な砂防ダム建設が進められている。

過剰な、無駄な公共事業ではないか?誰も気にも止めないような小さな川で、誰も見ないような山奥地で、こうして税金が費やされている。無駄遣いだけなら批判と謝罪で済ませて来たかもしれないが、壊された川は、自然環境も生物も資源も失ってしまうのだ。謝罪では済まされない。

2号砂防ダムのスリットの間口…整合性のない説明

第7回砂蘭部川河床低下対策検討委員会のニュースレターが届いた。

第7回砂蘭部川河床低下対策検討委員会・議事録・

写真は3基のダムのうち、最下流の2号砂防ダムである。図に示されたスリットの間口は3.5m。

河川管理者が示す間口3.5mのスリット

スリットの間口3.5mとした理由

つまり、長さが7m以上の木は流れてこない筈だから、間口に引っかかることはないと言うのだ。しかし、スリットされた事例のあるダムでも間口が狭くて流木で塞がっているのが実際である。その為、間口幅を拡げる改善工事が行われているダムもある。管理者は、前例があっても気にもならないのだろうか。知ろうとも見ようとも思わないのだろうか。流木長の2分の1であれば通過する”実績”があるというその資料を、是非教えて欲しいことを7月19日に問い合わせをしたが、未だ回答はない。

8月3日に渡島総合振興局函館建設管理部治水課と八雲出張所の担当者との協議で、八雲町内の野田追川に4億3百万円で建設した巨大な鳥居のような鋼鉄製アングルダムについて聞いてみた。「間口が広いと言うが、実際には流木が引っかかっている」、すると八雲出張所の河川担当者は「あれは流木捕捉工です」と答えた。この協議の2週間も事前に、アングルダムの間口は何メートルあるのか問い合わせをしていたので尋ねると、「調べていない」と答えた。その後も再三問い合わせているが、「平成19年の古い資料なので探している」と言って、未だに回答は無い。だが、この4億3百万円の工事は、平成22年8月10日から平成23年3月18日に行われている。工事発注後は現場の監督・指導・工事後の検査が行われている筈であるから、設計図と照合しなければ、監督も指導も検査も行えないことになる。設計図無しで検査が出来る筈がない。検査に合格しなければ、工事費は税金から支払われることもない。担当者は「調べていない」とか「古い資料だから」と濁して、何故、回答しないのだろうか?

2015年8月12日、管理者が説明責任を果たさないのならと、私たちで実測することにした。間口は6m、引っかかった流木の樹高は約14m。2mの間口はすべて流木で塞がっていた。ニュースレターに「維持管理の範囲で除去」と明記されているが、取り除かずに、ずっと放置している為、澪筋は右岸から左岸へ移ってしまった。河川管理者は、造った後の管理はしない。出来る筈もない。一方で住民には、あたかも管理が出来るかのように説明している。2015-08-12・鋼鉄製流木捕捉工・野田追川

ここでお気づきだろうか?

河川管理者は、間口が6mの構造物を「流木捕捉工」と説明した。流木を捕捉する為のものだ。一方、ニュースレターでは、それよりも間口が狭い3.5mとなっている。しかも、「”実績”としては流木は引っかからない」と説明している。

公の議論の場での河川管理者の説明である。