日本海サケ漁獲増加…川の泥を抑止で稚魚生残率向上か…

せたな町、島牧村、乙部町で、2010年から次々に砂防ダム・治山ダムのスリット化が行われてきた日本海側のサケの漁獲好調の続報だ。

出典:2021年10月29日・北海道新聞(渡島・檜山版)

 

出典:北海道水産林務部・北海道サケ定置網の漁場区分図を加工、加筆した。砂防ダム・治山ダムのスリット化した5河川の位置(青矢印)。
出典:北海道立総合研究機構・さけます・内水面水産試験場のデータをグラフ化。

日本海と太平洋側(えりも以西)のサケの漁獲量の比較。太平洋側は減少。日本海側は2019年から増加に転じている。

出典:北海道水産林務部・サケ漁獲旬報から、2016年と2021年の9月10日~10月20日までのデータをグラフ化。

5河川で砂防ダム・治山ダムのスリット化を行った日本海側南部のサケ漁獲量の変動グラフ。漁獲量が格段に増加していることを示している。

出典:北海道水産林務部・サケ漁獲旬報から、2016年と2021年の9月10日~10月20日までのデータをグラフ化。

一方、太平洋側のえりも以西の噴火湾のサケの漁獲量は減少していることが読み取れる。

全道のサケの漁獲量は減少傾向にある。

出典:北海道立総合研究機構・さけます・内水面水産試験場のデータをグラフ化。

サケ漁獲量減少の原因をサケの専門家たちは挙って、地球温暖化による海水温の上昇や海流の変動、また、北太平洋の異変などによる影響でサケ資源が減少し、漁獲量が減じていると説明している。しかし、日本海側のサケ漁獲量は増加しているのである。

ここで注目していただきたいのは、オホーツクと日本海の漁獲量だ。オホーツクでは海産のホタテは垂下式のカゴ養殖ではなく、海底に稚貝を放流する「地撒き増殖」が行われている。そのため、海底環境が損なわれないように、沿岸に泥水が流れ出さないように河川の流域環境保全が徹底されている。一方、日本海では、5河川の砂防ダム・治山ダムのスリット化後に、河口海域での海藻の育ちが良くなり、ウニが大型に育つようになったと言う声がある。つまり、泥水の流れ出しが抑止または低減されたことの証であろう。

また、泥水がサケ稚魚に与える影響を考えてみよう。

春先、自然産卵由来のサケ稚魚は浮出して泳ぎ出してくる。また、ふ化場からはサケ稚魚が放流される。そこに泥水が流れると、サケ稚魚は体から粘液を分泌して泥水から身を守る。口から吸い込んだ泥はエラから吐き出すが、エラは「鰓耙」、「鰓葉」という微細な構造をした組織から成り、この微細な組織のすき間に砂粒が入り込むとエラは傷つき炎症を起こす。ただでさえ粘液を分泌して体力を消耗している上にエラの炎症が重なれば、多くのサケ稚魚が命を落とすだろう。サケ稚魚の生残率が低下していると考えれば、そもそも回帰率云々というよりも、命育む川で何が起きているかが重要な課題なのではないだろうか。

砂防ダム・治山ダムのスリット化により泥水が抑止、低減されれば、サケ稚魚たちは体力を消耗することなく、エラの炎症もなく、丈夫なサケ稚魚として育つだろう。実際、日本海側のサケの漁獲増加は、ダムのスリット化による泥水の抑止効果でサケ稚魚の生残率が向上し、丈夫な種苗となって育った結果、回帰率が向上したのではないかと思われるのだ。(日本海側の北部、中部の漁獲増は、南部の増加した資源が途中で漁獲されたからであろう)かつて、北海道南部八雲町の北海道さけますふ化場・渡島支場長の石川嘉郎さんは、「サケの回帰率を上げるためには丈夫な稚魚を育てる必要がある」と話されていた。