須築川ダムのスリット経過報告会と現地視察

2020年2月14日、函館建設管理部による関係機関と協議会員を対象とした「須築川砂防えん堤報告会」が開催され、パタゴニア札幌スタッフの方と参加しました。

これまでスリット化が進むにつれ、現地を経過観察していた私たちの予想通り、報告会ではサクラマスが遡上し、上流で産卵していたことが明らかにされました。スリット化の効果が認められた訳です。

撮影:2019年11月4日

ダムの堆砂は、スリット化によって流れ出したものの、粒径は全体に小ぶりなものばかりで、下流の国道276号線(229号線)までは河床が上昇するような量には到達していないとの事。また、心配された土砂災害も無く、泥水の影響もヘドロによる水質の劣化も無いことが報告されました。

国道276号線(229号線)橋。河床低下が進行しているために、橋脚の基礎は剥き出しのまま。まだ、ここまでは十分な量の砂利が到達していない。撮影:2019年12月19日

報告会の後、段階的スリット(少しずつ切り下げていく)次の工事着手直前の現場を視察しました。

須築川砂防ダムのスリット化工事現場視察。撮影:2020年2月14日
澪筋を切り替えて、更なるスリット化工事が進められている。堤体は塗り付けたコンクリートで厚みを増していた。撮影2020年2月14日。
間口3.5mのスリット部からダム上流側へ。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの上流側(堆砂側)からスリット部を見る。左右の管は須築川の川水を送水する管。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの堆砂は徐々に抜けていたが、堆砂は樹林化し陸地化しているので、全量が一気に出るような心配は無かった。撮影:2020年2月14日。
堆砂の中の腐葉土などの有機質は押し固められ、ちまちまと浸蝕されて流れ出した痕跡が認められた。大量の泥やヘドロの影響が無かったのはこのためと思われる。撮影:2020年2月14日。
大きな石がゴロゴロしていた河口は、普通の砂浜のように砂礫の渚が蘇ってきている。漁港の出入口が、スリット化によって須築川から流れてきた砂利で閉塞すると言われていたが、現在その兆候は無い。撮影:2020年1月10日。

ダムのスリット化で砂利が流れてきたので、「サケがあちらこちらで産卵していたし、今まで見たことが無かったアユがたくさん産卵していた」と地元の漁師が語った。また、河口付近の海域ではスリット化が始まってから海藻の育ちがよくなり、今までにない大型のワカメが育ち、ホンダワラが密生するようになってきたとも言う。

私たちは、これからもドローン空撮による河口域の海藻の回復状況も含め、自然河川の復活、水産資源の回復など取材を続け、ダムのスリット化の効果を検証します。

 

 

トンネル残土の有害・無害の判別方法は?

今や、北海道新幹線の延伸が進むにつれて、トンネル掘削土の投棄場所や方法が問題になっている。その中でも、有害な重金属を含んでいる汚染土(機構用語「対策土」)と、そうでない土(「無対策土」)は、一体どうやって調べて選別しているのか?皆さんは、ご存知ですか?

このGoogle Earth写真の場所は、八雲町遊楽部川に注ぐ支流の「音名川」の扇状地である。川と川とが合流する扇状地は、地下水が豊富な場所だ。赤点線で囲ったところには窪地があり、いつも水が溜まっていた。

川と川が合流する扇状地は地下水豊富な場所だ。赤点線円のところに窪地があり、いつも水が溜まっていた。北海道新幹線の「新八雲駅」の正面にある。出典:Google Earth

地下水が浸みだして出来たこの窪地の水たまりをオオハクチョウやマガモなど水鳥たちが利用していた。

水溜まりで羽を休めているオオハクチョウ。撮影:2017年4月9日

ここに、北海道新幹線立岩工区のトンネル掘削土と、野田追(南)工区の掘削土が投棄されて埋められた。

オオハクチョウやマガモたちが羽を休めていた水たまりが掘削土で埋められてしまった。撮影:2019年2月7日

持ち込まれた掘削土に、有害重金属は含まれていないのだろうか?これが汚染土なら、地下水豊富な場所への投棄は土壌や地下水が汚染される懸念がある。

音名川と周辺の小高い山から流れ出す川水は、扇状地の地下へ浸透して、遊楽部川に湧き出している。こうした湧水の吹き出す川底にサケたちは産卵し、この湧水に我が子の命を託している。そして、遊楽部川の水が注ぐ噴火湾は、大規模なホタテ養殖場になっている。また、残土が投棄された扇状地帯では農家の人たちが、井戸水を生活用水に使用している。そうなると、この窪地に持ち込まれたトンネル掘削土が、有害な重金属を含んでいるかどうかは、重大な問題になる。

八雲町春日地区に立岩工区及び野田追(南)工区から掘削土が持ち込まれた。この掘削土は有害重金属が含有されているのか、いないのか…。撮影:2019年2月7日

八雲町は、「機構から無害(有害重金属は含まれていない)と聞いている」と言う。しかし、現場に投棄された掘削土を、見れば見るほどに疑問を感じてならない。それは、なぜか…?立岩工区から窪地に持ち込まれた「無害」な掘削土と、工区内で保管している「有害」な掘削土は、見た目は酷似しており素人目には区別がつかず、同じに見えるからだ。

下に「無害」と「有害」の写真を並べる。皆さんには違いが分かりますか…?

写真・左は立岩工区から春日の農地に持ち込まれた無害とされる掘削土。写真・右は立岩工区内に保管されている有害重金属含有掘削土。撮影:左・2019年1月25日:右・2019年2月17日

八雲町は有害・無害を区別する方法を確認したわけではない。「機構の第三者委員会の専門家が判断しているから問題は無い」と繰り返す。疑問を訴えても、機構の説明する「言葉」を右から左に伝えるだけで、同じ答えしか返ってこない。

では、機構は「有害」「無害」をどのように区別しているのだろうか…?住民説明会で配付された料資がある。

出典:機構提供の住民説明会用の資料

資料では、工事着手前に、トンネルのルートに沿って地上から垂直にボーリングし、「採取したコアを用いて重金属等の溶出量・含有量を調査します」と、説明が添えられている。

次の資料では、実際にトンネルを掘り進めながら掘削方向に100mごとに進行方向に水平にボーリングを行い、「コア」を採取して、有害重金属の含有の有無を判別することが示されている。

トンネル掘削前のボーリング調査図。出典:機構提供の住民説明会用の資料

二段構えで確認するという分かりやすい説明資料だ。しかし、ボーリングの大きさ”直径”は説明されていない。機構に説明を求めたところ、ボーリングの直径は僅か6.6cmであることが分かった。約80㎡もの広い掘削面積に、針の穴のような極めて小さな規模である。

針の穴のようなコアであることが分かるように、独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構の資料に直径6.6cmのコアを入れてみた。

例え図に描くと、有害重金属含有の地層を外す可能性が極めて高いと分かる。トンネルの掘削面積に対してこんな小さなコアを抜き取って全体を判定しているというのだから、有害重金属含有の地層を外す可能性は拭えない。地層は均一な構造にはなっていない。地層中には断層もあり、物質も異なり複雑に混在し、地層の配置も重なりも単純ではない。

有害重金属含有の地層を外せば、100m区間の全部が有害重金属含有の無い地層と判断され、掘削土は無害として扱われる。そこで、機構に「有害重金属含有の地層を見落とすことがないのかどうか?」の説明を求めた。機構は、各トンネル工事現場には「地層を判別できる専門の職員」がおり、掘削面の地層を「目視」で「有害・無害の判別」をしていると言う。各トンネル工事現場には、地層を目で見て見分けることができる専門家がいると言うのである。

出典:独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構の住民説明会用の資料
出典:独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構の住民説明会用の資料

「有害・無害の判別は科学的な裏付けが無い」ということが分かった。職員個人が、目で見て判断するという恣意的な判断で決めているという信じられない恐ろしい話だ。

北海道新幹線トンネル工事にかかわる沿線市町村の住民の方たちは、科学的な裏付けが無いまま、有害・無害を判別した掘削土を市街地建物の地盤材や畑の嵩上げ、また、農地そのものに持ち込んでいることを知っていただきたい。科学的な裏付けのない判別なのだから、判断を誤れば、有害な重金属が紛れ込んだ掘削土を何らの対策をすることなく、機構が言う「無対策土」として投棄することになる。将来、汚染が確認された時には地下水や土壌に汚染が広がり、手に負えなくなる。

地下水は人間を含むすべての生きものたちの命の水である。農林水産業を支える水でもある。市町村の住民の生命・財産を守るのはその地の行政の役目だ。地域の産業を守るのも行政の仕事の筈。地元の行政の担当職員はその責任の重さを意識して、責任を持って、機構に対して科学的なデータの有無を確認し、裏付けのないものは拒否するくらいの断固たる姿勢で臨んでいただきたい。現状のように有害無害の判断を機構に丸投げにして、汚染が発覚した時には、機構という組織があるのかどうかすら分からない。つまりは責任の所在すら無くなっているかも知れない。

「汚染が発覚したら機構に補償してもらえばよい」という声も聞く。だが、重金属含有掘削土と汚染の影響の因果関係を証明することは時間と莫大な経費がかかるだけで、不可能と思った方がよい。因果関係が分かったとしても、対策や改善ができるかどうかも分からないだろう。その結果、憂き目に遭わされるのはその地で暮らす住民である。北海道新幹線の工事が遅れるから…などと言っている場合ではない。

北海道新幹線・野田追(南)工区から持ち込まれるトンネル掘削土。有害・無害の判別には、受け入れする側がしっかり確認する必要がある。

残土を投棄した後、芝やシロツメクサの種子をばらまいて植栽している。盛り付けた残土は重機で粉砕されているので、風雨・雪にさらされて効率よく土壌中に溶出していく。有害重金属含有の有無が曖昧のまま扇状地に投棄されたのだから、土中の有害成分が土壌に浸透して地下へと潜り込み、地下水に流れ込むかと思うと心配でならない。売り土地になっている場所もある。土地の所有者が変われば、管理の手は町から離れる。

芝やシロツメクサの種子を撒いている。
残土を盛り付けた上面の芝やシロツメクサの育ちは悪い。側面は残土が剥き出しのままだ。
植栽もままならず剥き出しのまま、残土を捨てた土地が売りに出されている。

住民の健康被害が出た場合、水産資源や農作物に影響が出た場合も因果関係を証明するのは住民、農漁業者側であり、莫大な費用と時間をかけて証明するのは至難の業だ。機構は、因果関係を被害者側が証明しない限り、責任は認めない。その時に機構の組織があるのかどうかすら分からない。こんな係争が起きないようにできるのは「今」しかない。今できることは、安全性の裏付けの無い掘削土の持ち込みは即刻中止させることだ。十分に時間をかけて、安全・安心が確保されるように有害・無害の判別を科学的に適性に行い、有害重金属含有掘削土は安全・安心が確保できる場所を選定して、汚染物質が土壌に浸透しないように完全に遮水した施設に保管し、常にモニタリングしながら未来永劫に保管し、万全の態勢を担保しておくことが必要だ。残土を受け入れる責任として自治体の長は、これを機構に申し入れ、未来永劫に保管・管理する責任の所在と対策を取るように機構に念書を書いてもらうぐらいは出来る筈であり、やるべきことである。

 

 

「桜鱒の棲む川」水口憲哉:著(フライの雑誌社刊)

「ダムをやめ、川を川として活かす。乱獲はしない。何もしなければサクラマスは増える」

フライの雑誌社から気になる本が出版されましたのでご紹介します。著者は水口憲哉さんで、東京水産大学時代から原子力発電建設に関わる環境問題を長く手がけて来られた方です。

出典:フライの雑誌社

水口 憲哉(みずぐ ちけんや)
1941年生。原発建設や開発から漁民を守る「ボランティアの用心棒」として全国を行脚し続けている。著書に『釣りと魚の科学』、『反生態学』、『魚をまるごと食べたい』、『海と魚と原子力発電所』、『魔魚狩り ブラックバスはなぜ殺されるのか』、『放射能がクラゲとやってくる 放射能を海に捨てるってほんと?』など多数。千葉県いすみ市岬町在住。夷隅東部漁協組合員。資源維持研究所主宰。農学博士。東京海洋大学名誉教授。「『桜鱒の棲む川』は、今までに書いた本の中でもっとも気持ちの入った一冊です」(水口憲哉)