SDG’sに反する「小水力発電」

未曽有の大地震2011年3月11日、福島第一原子力発電所での人類には手も足も出せない深刻な事故が発生したことを機に、国は再生エネルギー、カーボンニュートラルだと囃し立て、助成事業を次々に打ち出して展開させてきた。地方では、どこもかしこもが原子力に変わるエネルギー生産に奔走するようになり、聞いたこともないような企業が地方に次々に参入してくるようになった。

その一つに「小水力発電」事業というものがある。既設の治山ダムや砂防ダムを利用して取水し、発電所に送水して発電タービンを回して電力を得ようというものである。新たにダムを建設せず、既設の砂防ダム・治山ダムを利用するので安価に建設できる発電事業という謳い文句で地方に参入してきた。

北海道南部、渡島半島の日本海側、八雲町熊石地区の平田内川にその事業が投入された。上流にある治山ダムを利用して取水し、川沿いの道路に送水管(水圧管)を埋設し、下流の発電施設に送水して発電するというものだ。

既設の治山ダムで取水し、川沿いの道路に送水管を埋設して下流の発電所に水を送って発電するというものだ。出典:八雲町ホームページ
出典:八雲町
平田内川は、ヤマメ釣りで有名な川だったのだが、ご覧のようにアッという間にダムだらけになり、釣り人は落胆した。
平田内川の最上流に位置する既設の治山ダムがターゲットにされた。治山ダムの直下には八雲町熊石地区で使用する川水の取水施設が設置されていた。撮影:2024年7月4日

この既設の治山ダムに小水力発電が目を付けた。既設の治山ダムにコンクリートを肉付けして補強し、そこに取水設備を付属させるというものである。

コンクリートで厚みを持たせ、中を空洞にして水が落ち込むように上部を開口させる。石や流木が落ち込まないように、スリットをはめ込んでいる。撮影:2024年7月4日
既設の治山ダムにコンクリートで厚みを持たせ、中を空洞にして水を落とし込んで取水するらしい。撮影:2024年7月4日

堤体をコンクリートで肉付けして厚みを持たせ、一部に空洞部を作り堤体天端の開口部を格子状のスリットにして、ここから川水を取水する。取水した水は、その先に設置される沈澱槽に送られて砂礫等を落とし、上水を道路に埋設した送水管(水圧管)で発電所に送る。

露天風呂”熊の湯”の駐車場の上流にある治山ダムで取水し、道路に埋設された送水管(水圧管)で下流の発電所に送水される。
下流に建設された発電所。ここで発電タービンを回して発電し、余った水は川に排水される。撮影:2024年7月4日。

小水力発電所で発電された電気は「売電」である。これだけの所帯で必要な電力を賄えると宣伝文句には掲げられているが、地産地消というわけではなく、売電するというものである。事業者は地域貢献を強調する。だが、説明を求めて事業所を訪ねた際、責任者から最初に言われたことは、「会社は慈善事業をするところではない」と、クギを刺された。我々の会社は慈善事業を仕事にしているわけではありませんので、国から助成金をいただきながら小水力発電所を建設し、優遇されている高価買い取り価格の期間にしっかりと儲けさせていただきます…と言っているようにしか聞こえなかった。

上流の治山ダムによって河床低下が進行している中、発電所の小屋は川に面して建設されているので、何れコンクリートの擁護壁の基礎が抜かれ倒壊し、発電所そのものが崩れ落ちるのではないかと現場を見て思う。

多くの河川を見れば、河床低下が進行し、川沿いの道路が崩れ、災害が多発し、災害の規模も拡大の一途を辿っている。河床低下が顕著に進行し、災害規模が拡大している河川では、間違いなく、上流に多くの治山ダムや砂防ダムがある。ダムは、川岸を崩し、山を崩し、酷い泥水を生み出して川から海域まで流れ出す。水産資源のサケ、サクラマスに影響を与え、沿岸では磯焼けが広がる。河川から海域にかけて自然の再生産力は失われ、水産資源を枯渇し、漁業は成り立たなくなってきている。今や、土木学会でも、河床低下は治山ダムや砂防ダムに起因するものであることを認めている。その為、ダム撤去やスリット化がようやく気運が高まっている昨今に、こうした小水力発電が投入され、治山ダムや砂防ダムが温存されるようになれば、災害も水産資源の減少も解消されなくなる

こうした視点に立てば、小水力発電事業は明らかに”SDG’s”に反する事業である。そして、事業が終了しても失敗しても、業者は撤収するだけで責任は負わない。

諸手を上げての再生エネルギー事業の導入は大変危険である。「再生」という文字に惑わされず、行政はじめ、地域の人や漁業者、釣り人も…私たちは現場で起きているダムが齎す負の根拠と賢明なる判断が必要であるだろう。