北海道新聞の気がかりな記事…「今あるダムの活用を」

北海道新聞(2016年12月10日朝刊)に、今あるダムの活用をと題して、元・国交省河川局長・竹村公太郎さんに聞くという記事について、鵜呑みにしてしまうマスメディアの危険性に気がついていただきたいと願い、当会より警鐘する。

 

北海道新聞2016年12月10日朝刊

ダムの水を貯めた湛水域では、どこも湖水に面した山の斜面がズリ落ちる地すべりが見られる。10%かさ上げで水位が上昇すれば、新たな地すべりを誘引させることにならないか?地震や地すべりで、津波が発生した場合、満水位のダム堤体への負荷はどうなるのだろうか…?ご丁寧なことに、囲み枠で「あとがき」に、こう書かれている。「ダムの有効活用は防災にも直結…首都直下型地震や南海トラフ巨大地震が起きた際には、地震に強い水力発電が、復旧、復興を支える可能性が大きいことも覚えておきたい」…と。311の東日本大震災で、どれだけのダムが崩壊して下流域の人命を奪ったことか。これこそ覚えておいてもらいたいものだ。この記事にある旧ダムのかさ上げ例としている夕張のシューパロダムや青森県の津軽ダムのいずれも、新規に建設された大規模ダムであることに過ぎない。あたかも既存ダムを活用して電力を増やす旨い話。これは単に大規模ダム建設の推進を目的とした記事であることに変わりない。

「10%かさ上げで発電量倍増」

北海道新聞2016年12月10日朝刊

水位を10%上昇させることは、上流の水位を押し上げる。ダムの流入部は、大量の土砂の堆積で河床が上昇しており、更なる水位の上昇が見込まれ、堤防への負荷が増す。過日、南富良野町の金山ダム湖への流入部に位置する市街地が、堤防の決壊で甚大な被害を受けたばかりだ。国土交通省北海道開発局札幌開発建設部が公表した浸水域の図は、堤防の破堤ではなく、金山ダムの湛水域の水位が上昇したことで、水はけが不能となり、市街地が冠水することを想定した図であることが判る。流入河川は、水の吐き出しがダム湖面の上昇によって緩慢になれば、上流へ向かって水位は上昇していき、堤防からの溢水や破堤を招くことになろう。

出典:国土交通省北海道開発局札幌開発建設部作成。この浸水想定図を事前に南富良野町に示していなかったことが問題にもなった。洪水時にダムの水位上昇と水害との関係図といえる。

「3~5日前に放流して水位を下げれば良い」

北海道新聞2016年12月10日朝刊

2015年9月10日、鬼怒川の堤防が決壊して住宅が流され、人命が失われる災害が発生した。TBSテレビ「ひるおび」に出演されていた中央大学の山田正教授は「(これから予測されている)豪雨に備えて、上流のダムの容量を増やす目的で放流をしていた」と解説している。上流のダムが放流しているその時間帯に、下流で堤防が破堤したのである。ヘリコプターで、冠水した住宅から次々に人が救助される中継映像を背景に、山田教授はダム操作は難しいとも言っている。

治水対策の河川改修は、流域の津々浦々まで、水はけをよくし、川筋を直線化し、川幅を広げてきた。これは本流に、短時間で大量の水を集める仕組みである。河川行政は、近年の豪雨を「ゲリラ豪雨」と称し、流域の何処かに集中して豪雨が襲うと言ってきた。「3~5日前にダムから放流すれば良い」と言うが、本流の水位が上昇し易い状況で、支流の何処かでゲリラ豪雨に見舞われていれば、放流のタイミングは極めて難しい筈だ。タイミングを逸すれば、ダム下流で水位が上昇して破堤を招き、ダムの湛水域や上流では水位が上昇する。ダム操作によって危険性が高まることは否めない。

「洪水吐きという特別な穴」から土砂が放出され、「(ダムが土砂で)いっぱいになることはありません」

そうは言っても残念ながら、堆砂はそう簡単には動かない。この説明図は稚拙なものだ。川水は、ダムに達すると流速が小さくなり、川水が運んできた土砂は、ダムの流入部から上流に向かって堆砂して行く。河床は上がり、増水時にはダム上流の堤防が決壊する恐れが高まる。ダム放流口に集まる土砂は、流速が減じた事で選り分けられる微細な砂・シルト・落ち葉の有機質などである。従って、堆積は図のような平になることはあり得ない。現場を知らないで、都合よく描いた現実離れした図に惑わされてはいけない。

北海道新聞2016年12月10日朝刊

ダムは堆砂を吐き出せないから、どんどん堆積し続けているのが現実である。砂利の運搬は、川水の「流速」によって運ばれる。ダムの入口では流速が遅くなるので、砂利は運べなくなる。洪水吐きの穴まで到達する前に、沈澱、堆積してしまう。これは、誰もが小学校5年生「川のはたらき」で学んだことだ。ところが、この解説の「土砂」は、微細な砂・シルト・落ち葉などの有機質であることを忘れている。1991年12月に大きな漁業被害をもたらせた事件、黒部川の出し平ダムから放流された土砂が、ヘドロだったことからも分かることだ。従って、ダムは土砂で埋まっていくばかりで、そんな都合の良いことにはならない。まして10%のかさ上げをすれば、それだけ大量に堆積する。

ダムに堆積するヘドロは、どのようなものなのか、パタゴニア製作の「ダムネーション」で、それを見ることができる。

URL:http://damnationfilm.net/

この新聞記事は、メリットばかりを強調した、まるで絵空事のような解説だ。ダムの作用が、実際には何を起こしているか、現場を見ればよく分かることである。良いことづくめの解説だが、現実はそうはいかない。副作用無しに、こんな単純なことで発電に良いことがあるならば、とっくの昔に実施されているだろう。

原発事故を契機に、自然再生エネルギーが注目され、国の助成金目当てにエネルギー開発競争が過当なほどに起きている。水力発電ダムに異論を唱えれば、「じゃあ、原発を稼働させるのか」と揚げ足取りのおかしな風潮になっている。必要なエネルギー量を精査して、ムダなエネルギー生産に歯止めを打つことこそ、真に必要なことだ。便乗型のエネルギー開発には要注意である。