「新幹線が北海道にやってくる」
連日、軌を逸したように営業メリットだけを囃し立てた報道がされているが、積み残されたデメリットの課題については全く報道されはしない。新函館北斗駅から札幌駅までの76%がトンネルである。いよいよ北海道では噴火湾へ注ぐ河川一帯を跨る山々でも、8年間に及ぶトンネル工事が着手され始めた。
トンネル掘削では大量の濁水が発生する為、濁水処理が課題となる。
濁水処理にはPAC(ポリ塩化アルミニウム)という発がん性のある有機系凝集剤が使用される。神経毒、蓄積毒であるアクリルアミドのモノマーは魚のエラに吸着する。ヒメダカは48時間で50%が死亡、粉末凝集剤では100%死亡するという毒性が認められているものだ。プランクトンであるミジンコでは、100%が遊泳阻害を受けることも解っている。
噴火湾に注ぐ川にはサケやサクラマスが遡上している。川底に産み落とされた卵、ふ化したばかりの稚魚はメダカ以上に影響を受ける可能性がある。しかし、トンネル掘削工事の濁水処理に添加されるPAC凝集剤の8年にも及び使用し続けることによる影響については、鉄道・運輸機構も建設会社も「わからない」と言う。
噴火湾は沖合5,000mまでホタテのケタを吊り下げた大養殖場でもある。ホタテの子どもはプランクトンである。ホタテが食べる餌もプランクトンである。そのホタテは北海道の大事な産業であり、学校給食の献立にも推奨されている。神経毒、蓄積毒、発がん性があるPAC凝集剤を長期使用することに、北海道は黙っているのだろうか?どうしても解せないのが、なぜ、このPAC凝集剤を使用しなければならないのかだ。本州では、既に大手建設会社は環境保全・生態系保全の観点からダムやトンネル工事で使用してきた有機系凝集剤を、現在では天然素材に転換している。しかし、北海道でトンネル工事に着手している建設会社は、「コストがかかる」「既に薬剤を購入している」「作業効率が悪い」という理由で代替はしないと結論している。そして、鉄道・運輸機構は、「環境基準を満たしていれば、咎めない」と言う。有機系凝集剤の環境基準値は「国交省」と「環境省」が設定しているが、基準値の甘い方の「環境省」基準に基づいているのだそうだ。
漁業受益者たちは補償の取り決めをしているようだが、実際に影響が出てもトンネル工事の濁水処理剤による影響であると特定することは、困難であり不可能であろう。どの世も「因果関係は認められない」ということだ。環境も生態系も最もだが、何より「食の安全」を最優先に考え、漁業者はより安全な無機系凝集剤あるいは天然系素材の凝集剤への転換を求めていただきたい。未来に起こる影響の原因を特定することは非常に難しいことなのだ。
ここにPAC凝集剤添加後の放流地点から下流で発生する影響を予測して列挙する。
●1:サケやサクラマス、キュウリウオ、その他の魚類に卵・稚魚の段階で影響を与え、蓄積毒は将来の水産資源にダメージを与えることになる。
●2:噴火湾のホタテ養殖においては、ラーバや稚貝、幼貝そのものへの影響の他、稚貝から成貝に至るまでが、汚染プランクトンを餌として食すことになる。出荷ホタテに至るまで広範囲に影響が及ぶことになる。
●3:噴火湾は遠浅の海底が広がっている為、波浪によって沈澱したモノが巻き上げられることは科学的に解明されている。即ち、PAC凝集剤の付着物が海底に沈澱堆積した場合、ホタテ養殖カゴが有毒な攪拌物によって包まれ、その影響は避けられない。斃死が続出したり、出荷が出来なくなることは免れない。
事業主体者は、河川から海域に多様な魚介類への影響は無いとする根拠も説明も出来ていない。更に、沈殿された汚泥の保管場所や方法も明瞭な説明は無い。新函館―札幌間の76%もの北海道の山々が掘削され、長く続くトンネル工事で排出される膨大な量の濁水に、有毒な薬剤を添加し放流することは、広範囲にわたり、甚大な影響が現れることが懸念される。北海道が制定した生物多様性保全にも違反することになる。こうした影響を回避する裏付けが示されないままのトンネル工事について、今後も注視し取材を続け、経緯の詳細についても報告していく。
【北海道新幹線立岩トンネル工事現場】
立岩トンネル工事現場と露頭した活断層と噴火湾の位置関係
【北海道新幹線野田追トンネル工事現場】