日本海サケ漁獲増加…川の泥を抑止で稚魚生残率向上か…

せたな町、島牧村、乙部町で、2010年から次々に砂防ダム・治山ダムのスリット化が行われてきた日本海側のサケの漁獲好調の続報だ。

出典:2021年10月29日・北海道新聞(渡島・檜山版)

 

出典:北海道水産林務部・北海道サケ定置網の漁場区分図を加工、加筆した。砂防ダム・治山ダムのスリット化した5河川の位置(青矢印)。
出典:北海道立総合研究機構・さけます・内水面水産試験場のデータをグラフ化。

日本海と太平洋側(えりも以西)のサケの漁獲量の比較。太平洋側は減少。日本海側は2019年から増加に転じている。

出典:北海道水産林務部・サケ漁獲旬報から、2016年と2021年の9月10日~10月20日までのデータをグラフ化。

5河川で砂防ダム・治山ダムのスリット化を行った日本海側南部のサケ漁獲量の変動グラフ。漁獲量が格段に増加していることを示している。

出典:北海道水産林務部・サケ漁獲旬報から、2016年と2021年の9月10日~10月20日までのデータをグラフ化。

一方、太平洋側のえりも以西の噴火湾のサケの漁獲量は減少していることが読み取れる。

全道のサケの漁獲量は減少傾向にある。

出典:北海道立総合研究機構・さけます・内水面水産試験場のデータをグラフ化。

サケ漁獲量減少の原因をサケの専門家たちは挙って、地球温暖化による海水温の上昇や海流の変動、また、北太平洋の異変などによる影響でサケ資源が減少し、漁獲量が減じていると説明している。しかし、日本海側のサケ漁獲量は増加しているのである。

ここで注目していただきたいのは、オホーツクと日本海の漁獲量だ。オホーツクでは海産のホタテは垂下式のカゴ養殖ではなく、海底に稚貝を放流する「地撒き増殖」が行われている。そのため、海底環境が損なわれないように、沿岸に泥水が流れ出さないように河川の流域環境保全が徹底されている。一方、日本海では、5河川の砂防ダム・治山ダムのスリット化後に、河口海域での海藻の育ちが良くなり、ウニが大型に育つようになったと言う声がある。つまり、泥水の流れ出しが抑止または低減されたことの証であろう。

また、泥水がサケ稚魚に与える影響を考えてみよう。

春先、自然産卵由来のサケ稚魚は浮出して泳ぎ出してくる。また、ふ化場からはサケ稚魚が放流される。そこに泥水が流れると、サケ稚魚は体から粘液を分泌して泥水から身を守る。口から吸い込んだ泥はエラから吐き出すが、エラは「鰓耙」、「鰓葉」という微細な構造をした組織から成り、この微細な組織のすき間に砂粒が入り込むとエラは傷つき炎症を起こす。ただでさえ粘液を分泌して体力を消耗している上にエラの炎症が重なれば、多くのサケ稚魚が命を落とすだろう。サケ稚魚の生残率が低下していると考えれば、そもそも回帰率云々というよりも、命育む川で何が起きているかが重要な課題なのではないだろうか。

砂防ダム・治山ダムのスリット化により泥水が抑止、低減されれば、サケ稚魚たちは体力を消耗することなく、エラの炎症もなく、丈夫なサケ稚魚として育つだろう。実際、日本海側のサケの漁獲増加は、ダムのスリット化による泥水の抑止効果でサケ稚魚の生残率が向上し、丈夫な種苗となって育った結果、回帰率が向上したのではないかと思われるのだ。(日本海側の北部、中部の漁獲増は、南部の増加した資源が途中で漁獲されたからであろう)かつて、北海道南部八雲町の北海道さけますふ化場・渡島支場長の石川嘉郎さんは、「サケの回帰率を上げるためには丈夫な稚魚を育てる必要がある」と話されていた。

 

ダムのスリット後にサケの漁獲が昨年の3.7倍増

せたな町管内8ヶ統あるサケ定置網のうち、漁獲量が最低だった良瑠石川近海定置網で、4基の治山ダムのスリット化後に漁獲量が1位、2位になった。せたな町管内では、昨年(2020年)の漁獲量は前年の1.8倍増。本年(2021年)は10月5日現在で昨年の3.7倍増と報道された。

せたな町では2010年から良瑠石川の治山ダムをスリット化。これを皮切りに、須築川の砂防ダムは2020年にスリット化が完了。また、同町付近では島牧村の千走川支流九助川の治山ダム、折川の砂防ダムがそれぞれスリット化され、南部の乙部町でもスリット化が行われている。

出典:2021年10月7日・北海道新聞(渡島檜山版)

北海道水産林務部・令和3年秋サケ沿岸漁獲速報10月10日:URL:https://www.pref.hokkaido.lg.jp/fs/4/3/3/8/3/8/5/_/031010-1.pdf

漁獲増はダムのスリット化と関連しているのか?!

治山ダム・砂防ダムの下流では砂利が供給されない。そのために河床低下が進行し、河岸崩壊・山脚崩壊が多発するようになる。上流でもダムの堆砂が満砂になれば流れが蛇行するようになって、山裾を浸食し、山脚崩壊を発生させる。こうして、ダムの上下流から大量の土砂が流れ出し、雨のたびに濃い泥水が流れるようになる。サケ稚魚やサクラマス稚魚が浮出する春先の雪どけ増水の泥水は酷いものだ。春先、濃い泥水が流れる川でサケ稚魚を観察したことがある。泥水を避け、川岸や細流に入り込み、身を寄せ合っている。よく見ると、体から粘液を出して身を包んでいる。粘液を体から出すには相当な体力を消耗することだろう。また、口から吸い込んだ泥は、エラから吐き出す際に微細な砂粒でエラを傷つけ炎症を起こす。体力を消耗した上に、エラの炎症で稚魚の負担は相当な筈だ。誰も知らないところで多くの稚魚が命を落としているのではないか。

ダムをスリット化すると、砂利が流れ出すので河床低下が緩和され、河岸崩壊・山脚崩壊が止まり、濃い泥水の流れ出しが抑止、低減される効果がある。春先の雪どけ増水から濃い泥水が無くなれば、サケやサクラマスの稚魚は体力を消耗すること無く、健康に育つことが出来る。つまり、生残率が向上し、元気な稚魚たちが海に下るわけで、その結果、回帰率も向上することだろう。北海道さけますふ化場は回帰率を向上させるために、丈夫な稚魚を育てることを一つの目標にしていたのだから、十分その理に適う。

昨年は前年比で1.8倍、本年は前年比で3.7倍だから、このまま3.7倍増で終漁まで続けば、1.8倍×3.7倍=6.66倍となり、2019年に比べれば、なんと6.66倍増にもなる。急激な漁獲増だ。これがダムのスリット化と関連しているかどうか、今後の推移を見守りたい。

 

サクラマス保護河川「臼別川」サクラマス稚魚(0+)調査

せたな町大成区の臼別川にある砂防ダムは、サクラマス保護河川でありながら、砂防ダムが4基(うち1基は堆砂で埋没)、最上流部に治山ダム1基が設置されている。それぞれのダムに付けられた魚道は、直ぐに閉塞して機能せず、これまで漁業者が清掃を続けて来た。魚道の維持管理は困難であり、資源回復にはダムの撤去が望ましく、遂に漁業者からダムをスリットさせる要望が出された。2021年6月15日、スリット化着手前のサクラマス稚魚(0+)調査を行った。

まず、臼別温泉上手にあるB砂防ダムの堆砂域へ下りる。ここから上流域へ進む。

右側に魚道の出口が見える。

B砂防ダムの魚道の上流側の出口。出口は堆砂の溜まり具合で水位が上下に変動するので、上下三段階の出口が設置された高価で立派な魚道だ。だが砂や泥、流木で塞がっており、機能不全状態だった。
右側のコンクリート擁護壁の四角い切れ込みが魚道の入口である。極僅かの水しか流れていないから、サクラマスが上れる筈もない。
B砂防ダムは堆砂で満砂状態。小石や砂が目立つ。B砂防ダムから流れ出すのは小さな石や砂ばかりということが読み取れる。
B砂防ダムの上流は、「小学校理科」の教科書で習った小石ばかりが目立つ中流から下流の特徴になっていた。
B砂防ダムの上流の淵は砂が目立つ。
臼別川は谷間を流れる渓流である。砂防ダムが出来ると川相が一変することが分かる。B砂防ダムの堆砂域の淵は、砂ばかりのあり得ない光景だ。
B砂防ダムの堆砂域に注ぐ小さな川。ここでアメマス稚魚(0+)を確認した。

B砂防ダムの堆砂域ではアメマス稚魚(0+)はいたものの、サクラマス稚魚(0+)は確認できなかった。

そして、C砂防ダムが目前に立ちはだかる。

このC砂防ダムに取り付けられた魚道には水が流れていなかった。フキまで生えている状況から長いこと機能していないことが分かる。

C砂防ダムの魚道の出口は土砂で埋まり、陸地になっていた。

C砂防ダムの魚道の水路は泥で埋まり、オニシモツケ、イラクサ、イタドリが繁茂していた。C砂防ダムの堆砂域は、やや石は大きくなったものの大きさは均一で、砂が多い。渓流なのに、これではどう見ても中流の様相だ。

C砂防ダムは、堆砂で満砂状態なので堆砂域を上流へと広げ、その上流にあるD砂防ダムの堤体を埋めていた。驚くべき堆砂量である。

C砂防ダムの堆砂によって、D砂防ダムの堤体が埋没していた。

埋没したD砂防ダムの下流側に取り付けられた魚道。当然、堆砂に埋没していた。
埋没したD砂防ダムの上流側の魚道の出口。水が溜まっていた隙間にアメマスが隠れていた。

埋没したD砂防ダムの堆砂域に注ぐ小さな川の出合いで、陸封された体長20㎝ほどのアメマスを見つけて観察した。

D砂防ダムに注ぐ小さな川ではアメマス稚魚(0+)を確認した。堆砂の影響で渓流に似つかわしくない砂利が多く堆積していた。

CからD砂防ダムへと続く堆砂域の上流にあったE治山ダム。最上流部の治山ダムさえも魚道は砂利で埋まっていた。

E治山ダム魚道は砂利で埋まり、全く機能していない。
E治山ダムと直下の淵。透明度の高い美しい水なのだが…

E治山ダムの堆砂がどこまで続いているのかを調べる為に、更に上流へと向かった。やや大きめの石が現れるが、おしなべて同じ大きさのものが多い。

E治山ダムの堆砂域の上端付近。ここから巨石が見えてきた。苔むした本来ある姿の渓流が…しかし、サクラマスはここまで来られる術が無い…。

E治山ダムの堆砂域を超えたところから、巨石が目立ち、苔むした石が多くなった。

B→C→D砂防ダム→E治山ダムの堆砂域を調べた後、A砂防ダムの堆砂域に注ぐ臼別温泉脇の小さな支流を調査した。

B砂防ダム下流の臼別温泉脇を流れる小さな支流。ところどころ石の下に手を入れると暖かい温泉水が沸き出していた。
更に進むと、そこはもう魚は上ることが出来ない「魚止の滝」となっていた。この滝壺にはサクラマスとアメマスの1+、2+が見られた。

次に、A砂防ダムの堆砂域でサクラマス稚魚(0+)を探した。魚道は、出口の方へ押し出された砂利でチョロチョロ水が注ぐ程度になっていた。これではサクラマス親魚は遡上出来ない。

A砂防ダムの上流側の出口には砂利と砂が押し寄せ、出口はほぼ塞がっていた。水はチョロチョロ程度の流れで、これではサクラマス親魚は魚道を上れない。

A砂防ダムも満砂状態で、小石と砂ばかりだ。

A砂防ダム堤体に押し寄せた堆砂は小石が目立ち、砂が目立つ。写真の左の脇を流れる水が魚道の出口に繋がっている。
サクラマス稚魚(0+)を探す。
A砂防ダムの堆砂の右岸側の小さな流れの溜まりで、ヤマメ(サクラマス2+)を見つけた。

A砂防ダムの堆砂域の細流でサクラマス稚魚(0+)を見つけることが出来た。

A砂防ダムの堆砂域の細流で確認したサクラマス稚魚(0+)たち。撮影は橋本泰子さん。

その後、A砂防ダムの下流側でも探したが、見つからなかった。

A砂防ダム下流。
A砂防ダムの下流でサクラマス稚魚(0+)を探したが見つけることはできなかった。

A砂防ダム下流の淵にはサクラマス親魚がいた。ダムの魚道は上れないので、やむなく下流で産卵するしかない。

A砂防ダム下流の淵にはサクラマス親魚がいた。ダムの魚道は上れないので、やむなく下流で産卵するしかない。

調査データを地図に落としてみると、昨年はA砂防ダム魚道は機能していたようだが、稚魚(0+)の数から、遡上したサクラマスは少なかったと思われる。また、B砂防ダムの魚道は機能していなかったことが伺える。A砂防ダムから下流では稚魚(0+)が見つからなかったことから、産卵場所がなかったのか、卵が育たなかったのか?分からない。そして、サクラマス親魚が遡上してきているのに、A砂防ダム魚道は機能していない為、上流へ上ることは出来ないでいた。サクラマス稚魚(0+)が見られたのは細流ばかりだったことから、川岸の多様な流れが必要だと分かる。砂防・治山ダムがある川では河床低下が進行するために、川岸の多様な流れが失われるので、稚魚(0+)の生育には不利となる。

今回の調査で言えることは、①砂防・治山ダムの魚道はすべての魚道が機能していなければサクラマス資源は減少する。②ダムの堆砂域は上流へと広がり、かつ、河床の透水性が萎えるので産卵場所が減少する。(B砂防ダムから上流において、アメマス稚魚(0+)が見られたが、数が非常に少ないことから、アメマスですら産卵に適した場所が無かったと伺い知ることが出来る)③ダムの下流では微細砂・シルトが河床に堆積するので、産卵が行われても卵が窒息し育たない可能性が大きい。あるいは河床に微細砂・シルトが堆積して産卵に適した場所が失われている可能性が示唆される。(A砂防ダム直下ではサクラマス稚魚(0+)が見られなかった)

以上から、砂防・治山ダムがあるだけで、サクラマス資源が減少することは明らかである。臼別川でも、サクラマス資源が激減していると言える。せたな町では釣り人と漁師たちが毎年、臼別川の魚道清掃を手がけており、何度か私たちも参加したが、魚道内の砂利のかき出し、魚道出口を塞ぐ砂利の除去、出口から流れに繋ぐ溝掘りをしなければならず、大変な労力が必要だった。汗を流して奮闘しても、その後の増水で再び塞がるのだから、まさに労あって益ナシの徒労に終わる。魚道の維持管理は極めて困難なのである。

臼別川のサクラマス資源を回復させるためには、一刻も早く5基のダム撤去が必要であり、まずスリット化することにより、サクラマス親魚が確実に遡上できるようにさせ、且つ、至る所で産卵出来るような川の仕組みを蘇らせることが必要だ。間口を広くスリットすればするほど維持管理は不要となるし、水質良好な川なのだから、改善しさえすれば、間違いなくサクラマス資源は回復し増加する。

 

 

須築川砂防ダム・スリット化後のサクラマス稚魚調査

2021年6月3日コロナ感染対策の上、せたな町の一平会メンバーとパタゴニア・スタッフの皆さんの協力を得て、須築川でサクラマス稚魚調査を行った。【昨年の秋に親サクラマスから産み落とされた卵がふ化し、今年の早春に浮出(泳ぎ出してきた)した1才未満の稚魚】

河床低下で川底が掘り下がり、川岸が崩れて(写真左側の)河畔林の土台が抜かれて根っこが剥き出しになり、倒れそうになっていた河畔林は、流れてきた砂利で土台が復活したので、もう、倒れる心配は無い。

須築川砂防ダムの下流で進行していた河床低下は、スリットから流れ出した砂利で緩和され、川岸の崖化が抑止されつつあり、河岸崩壊や河畔林は倒れる危険を免れる傾向にあった。しかし、スリットから流れ出す砂利の粒径は小ぶりなものばかりだ。須築川の河床低下を抑止し、河床を安定させるには巨石の供給が必要だ。

スリット化した須築川砂防ダム。間口幅は3.5m。下流には砂利が供給されていたが、まだ、粒径が小さい。
スリット化した堤体を上流から見る(堆砂側)。スリット化工事で砂利を左右に振り分けたこともあり、砂利が広く抜けているが、一気に抜けるようなことはない。
右側の崖上端までダムで止めた堆砂の痕跡。泥や砂を膨大に溜めていたことが解る。つまり、砂防ダムは流れてきた土砂から、泥や砂ばかりを選り分けて貯め込み、これらが攪拌されて下流に流れ出す。そして泥水を発生させ、泥川・泥海にすることが読み取れる。

砂防ダムが止める土砂の粒径は小ぶりなものが多く、且つ、流れ込んできた土砂は上流に向かって無限に堆砂して行き、膨大な量の土砂を止めることを知っていただきたい。ダム上流の渡渉で、この膨大な量の土砂は、上端まで6~700mも続いていた事が分かった。

右側の崖になった土砂は砂防ダムが止めていた砂利。上流に向かって堆砂は続く。スリット化した堤体から上流へ向かって6~700mも堆砂域が広がっていた。膨大な量だ。この堆砂域を過ぎると景観が一変する。

そして、堆砂域の上端からは、須築川本来の苔むした巨石がゴロゴロした雄々しい渓相へと一変した。

巨石は苔むしていた。
巨石の多い川だが、所々に淵や瀬があり、サクラマスの産卵には適した環境となっていた。写真の右岸でサクラマス稚魚を見つけることができた。
サクラマス稚魚2尾を確認。スリットを乗り越えたサクラマスが上流で産卵していることが確認された。

ここで、サクラマス稚魚2尾を見つけた。稚魚を見つけられたことは、スリットをくぐり抜けて上流で産卵している証である。貴重な発見であり、今後が楽しみだ。

巨石がころがる渓相が上流へと続いていた。

さらに上流への調査は、雪融けの増水が続いていることから、次回に。皆さん、お疲れ様でした。

止めていた砂利を下流へ流す「砂防ダムのスリット化」だけで、サクラマスばかりか、沿岸の海藻、ウニ・アワビまでが育まれるようになるのだ。

須築川の橋の近く、国道229号線脇の駐車場には看板が設置されている。須築川砂防ダムのスリット化によって、漁業資源の増加を期待する願いが込められている。

 

魚道では得られないスリット化の効果

須築川砂防ダムのスリット化した間口は3.5mと狭く、流木で塞がるリスクがあるものの、2020年2月末までに8mの切り下げが完了した。そして8か月後の2020年11月6日、パタゴニア札幌スタッフたちと現地調査を行った。

堤高8mの砂防ダムの下部までスリット化を終えた須築川砂防ダム。撮影:2020年2月27日
間口は3.5mと狭いながらも8m切り下げた。今後は流木で塞がるかどうかをしっかりと見極める必要がある。撮影:2020年2月27日。

川底が掘り下がり巨石がゴロゴロしていたところは、スリットから流れ出してきた大小の石で覆われていた。自然の河床、河原が蘇ってきたのだ。

スリット化された須築川砂防ダムから流れ出した砂利が河床を覆い始めていた。川岸の落差も緩和されてきた。撮影:2020年11月6日。
大きな石ばかりで、掘り下がっていた河床は、ほぼ砂利で埋まって自然な瀬になっていた。撮影:2020年11月6日。
大きな石だけがゴロゴロしていた瀬は、砂利で埋まって歩きやすくなっていた。撮影:2020年11月6日

スリット直下のコンクリートの盤(叩き台)に穴が空き、良い深みができていたが、2月に行われた最後の切り下げの際に、この穴を塞ぎ、平らにされてしまった。

スリット化した堤体直下のコンクリート盤が露出していれば、サクラマスやサケの遡上は困難になることが気がかりであったが、現場は、スリットから流れ出した大量の砂利で、腰までの深さの淵になっていた。

堤体8m下部までスリット化が終わった直後。流れ出す水の下はコンクリートの盤だった。左右の穴よりもずっと下に水面がある。撮影:2020年2月27日。
スリットから流れ出した砂利でコンクリート盤は埋まり、深い淵が出来ていた。左右の穴まで砂利が堆積している。撮影:2020年11月6日。

スリット部は腰までの深さの淵になっていた。この淵で3尾のサケを見た。撮影:2020年11月6日。

堤高8mの堤体のスリット部は近づいて見ればその大きさが分かる。撮影:2020年11月6日。
堤体のスリット部の深い淵と自然な流れが戻った上流が見える。撮影:2020年11月6日。

スリット部の淵に3尾のサケがいた。多くのサクラマスやサケがスリットを通り抜けて上流で産卵したことだろう。産卵域が上流へと広範囲に拡大したばかりか、砂利が下流に供給されるようになったことから、ダム下流でも産卵域が蘇えった。ダムで分断されていた川の流れが一つの流れに繋がり、下流でも上流でも広い範囲でサクラマスやサケが産卵できるようになったのである。

サクラマスやサケは、1尾のメスが3,000粒前後の卵を産み落とす。スリット化によって産卵場が拡大したことから、3,4年後には爆発的に増えることが期待される。また、スリットから流れ出した砂利は、アユの産卵場も蘇らせた。地元の漁師も「見たことが無いほどの数が産卵していた」と言う。「河口の海岸は大きな石ばかりで歩きにくかったが、スリット化されてから小石化し、今ではサンダルで歩けるようになり、昔の砂浜が蘇った」「河口周辺では茎が太く背丈の高いワカメが、ヤナギの林のように密生するようになった」とも聞いた。

函館の土建業者とコンサルタント会社が立ち上げた「道南魚道研究会(現在は北海道魚道研究会と改称)」が、提案した日本大学の安田陽一教授が考案した魚道改築案を受け入れていたら、こうはならなかっただろう。そこには「ダムを撤去するしか川は蘇らず、漁獲高も望めない」という漁師たちの英断があったからだ。今後も、地元の漁業者から話しを聞き、川の変遷記録を続けていく。

須築川に建設した砂防ダムが、流れ下るべき大小の石を扞止したために、安定した自然の川の流れを狂わせ、その結果、川が変化を始め、川岸が崩れ、山が崩れ、川が荒れ、サクラマスやサケが枯渇するまでに激減してしまった。ダムをスリット化するだけで、元のように大小の石が流れ下り、産卵場が復活し魚が増え、海藻が増え、自然の仕組みが蘇る。。注目すべきは、全道でサケの漁獲が低迷しているというのに、この管内は、サケの漁獲が好調だということである。

 

青山ダムと当別ダムによる河川荒廃と危惧される当別活断層の存在

巨大ダムは、微細な砂やシルト分(泥)ばかりを選り分けて下流へ流す。だから、川は泥川になり、川から魚がいなくなる。

非灌漑期に貯水をカラにする農業用ダムの底を見れば分かる。カラになった巨大ダムの底は泥ばかりになっている。水が抜かれてカラになった石狩川支流当別川の青山ダムを取材した。

非灌漑期に水を抜いた青山ダム。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムの底は泥ばかりだ。撮影:2019年11月3日
青山ダムから流れ出る水は濃い泥水だ。撮影:2019年11月3日

青山ダムは、泥ばかりを溜め込んでいることがお分かりいただけるだろう。流れ出す水はご覧のように泥水だ。その結果、川底には微細な砂やシルト分(泥)が堆積し、魚は繁殖が出来なくなる。川底に産み落とされた卵は、微細な砂や泥を被り、窒息してしまうからだ。かつてはサクラマスやサケ、カワヤツメなど魚類が豊富な川だったというが、その面影はもう無い。そして、青山ダムの下流には更に巨大な当別ダムが建設された。

石狩川水系当別川

 

当別ダムは多目的ダムである。青山ダムで見たように、ダムの底は泥だらけ。そして、その泥が大量に下流に放流されることになるわけだ。撮影:2019年11月3日。
巨大な当別ダム。撮影:2019年11月3日

巨大な当別ダムは、溜め込んだ泥を下流に流す。その泥は、石狩川を経由して石狩湾を泥で染めることになる。そればかりか…

この当別ダムには一抹の不安がある。ダム付近に活断層とされる「当別断層」があるからだ。実際に活断層が動き、地表がずれた痕跡がある。青山中央地区にある「道民の森」公園の敷地内に当別断層の露頭があり、当別断層を直に見ることが出来る。下の写真で分かるように右側と左側で大きな段差が出来ている。これがずれた断層面である。地面には亀裂が走っている。

当別断層公園。左の平らなところと右側の一段高くなったところが当別活断層の断層面がズレたところ。.断層の露出部。撮影:2011年10月28日

この当別断層の位置がよく分かる図は、下記のサイトで見ることができる。

当別断層

https://www.jishin.go.jp/main/chousa/03nov_tobetsu/f04.htm

http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sm/ktk/bousaikaigi/zisin/08sankouzuhyou.pdf

活断層「当別断層」と「当別ダム」の位置関係が分かるように地図とGoogle Earthの衛星写真に重ねて表示してみた。

元図に加筆している。当別ダムと当別活断層の位置関係の図。
Google Earthの衛星画像と当別活断層の位置を重ねた。出典:Google Earth

当別断層とダムの位置関係を図示してみれば、ダムのこんなにも近くに断層があることが分かる。もしも当別断層が動けば、ダム湖に面した山が湖面に崩れ落ち、ダム津波が発生する。そうなった時、当別ダムの堤体は津波に耐えられるのだろうか?

地すべりで発生するダム津波の怖さは、イタリアの「バイオントダム」の事例で知ることができる。

衝撃の瞬間「ダム津波の脅威」

また、当別ダム直下の地層がずれれば、堤体そのものが崩壊するかも知れない。地図や衛星写真にダムと断層を重ねてみれば、この場所に巨大ダムを建設することが果たして適切だったのか、疑問を感じるばかりである。当別ダムの下流には住民の暮らしがある。こんな場所に巨大ダムの建設を認めるだけの安全を担保する科学的な裏付けはあるのだろうか?

当別断層が動く確率は低いと言われても、福島第一原発事故や熊本地震のように事後になって「未知の断層」が動いた「想定外」だとして始末される。一昨年の2018年9月6日未明には、胆振東部で震度7の地震(平成30年北海道胆振東部地震)が発生し、JESEA地震科学探査機構「MEGA地震予測」のホームページには、この地震の前に苫小牧から札幌にかけての地表が沈降する現象が見られ、震源となった胆振地方では沈降と隆起が見られたとある。この地震でも、震度や震源が事前に予測された訳ではない。

https://www.jesea.co.jp/earthquake/003/

https://shizensaigaichosashi.jp/higashinihon-zishinhasseikikendo-katsudansou/

https://www.jishin.go.jp/main/chousa/03nov_tobetsu/index.htm

科学的な地震予知が確立されていないのに、巨大な当別ダムを当別断層と接するような位置に建設したことは、大きな過ちを犯したのではないか?

「人間の愚かさ、自然への理解の欠如、管理の失敗」

人間の過信が引き起こす人災は、日本の巨大ダムでも起き得る。

ダムは安易に建設してはいけない。

 

 

ダムの影響がよくわかる暑寒別川

北海道北部の増毛町にある「サクラマス保護河川」の暑寒別川は、ダムの影響がよくわかる。1号砂防ダムは、もう砂利で満杯で、川水は堤体を乗り越えて流れている。ダム下流は、砂利の殆どが流されてしまい、川底の岩盤が剥き出しになっている。これがダムの影響の典型的な姿である。そして、川岸は浸食されて垂直の崖化し、川岸の土砂・巨石が立木もろとも流されて、川幅が異常に広がっている。

暑寒別川1号砂防ダムの下流は砂利が流されて岩盤が露出し、川岸まで流されて川幅が広がっている。撮影:2019年11月3日

「土石流防止」の砂防ダムが、その下流で新たに土砂を産出して土石流や流木を発生させている。そうして流された砂利はすぐ下流の頭首工に溜まっている。その為、頭首工から流れ出す砂利の量が極めて少なく、下流側は岩盤の露出が広がっている。

1号砂防ダムの下流の頭首工のところで、砂利が止まり、下流側に砂利が流れる量がごく僅かになっているのが分かる。撮影:2019年11月3日
頭首工の直下ではたくさんのコンクリートブロックが敷き詰められているが、土台の砂利が流されてしまったので、バラバラに壊れている。撮影:2019年11月3日
頭首工の下流側は砂利が流れてこないので、岩盤の露出が広がっている。巨石を組んで砂利を食い止めようとした痕跡があるが、悉く失敗して流されている。撮影:2019年11月3日
コンクリートブロックを敷いて、川底の砂利を止めようとした工作物があるがご覧の通りに壊れている。ダムで砂利が止められると、何をやっても壊されるのだ。税金がこうして無駄に失われている。撮影2019年11月3日
川底の砂利が失われ、川底は下がり続ける。川岸の崩壊を防ぐために自然石の護岸やコンクリート護岸にしていたが、すべて壊された。川岸の崩壊はさらに拡大している。撮影:2019年11月3日
頭首工の下流側は、川岸崩壊を防止するためのコンクリートブロックが水面のはるか上部にあり、壊されているのが分かる。川岸が崩壊すれば土砂・流木が流れ出し、災害を生み出すダムの影響は深刻である。撮影:2019年11月3日
ダムの下流では砂利が流されて、川底が下がり、さらに岩盤が露出してしまっている。川底が下がるのだから、川岸が崩壊して、そこから土砂・流木が流れ出し、下流に災害をもたらすことになる。撮影:2019年11月3日

暑寒別川は、サクラマスやサケの資源保護の為の禁漁河川である。勿論、釣りは出来ない。でも、考えていただきたい。保護を目的に釣り人を排除しているが、こんな川の状況にしておいて、サクラマスやサケの資源を保護していると言えるのだろうか?そもそも岩盤が露出した処でサクラマスやサケが繁殖出来るとでも言うのだろうか?川がこのような状況になっているのに、河川管理者は1号砂防ダムの上流に、更に複数の床固工(堤高の低いダム)を建設した。これで川全体でサクラマスやサケが産卵できないようにしてしまったのである。

釣り人が、この川でヤマメを1尾でも釣りあげれば逮捕!処罰される。しかし、河川管理者が造ったダムの影響でサクラマスやサケの資源が根こそぎ失われることになっても、誰かが罰せられることは無い。

暑寒別川

魚道を取り付けていても、産卵する場所がなければ、魚道を上っても役に立たない。ダム下流では卵を産み落としても卵が砂利ごと流されるのだから、魚が減るのは当然だ。川岸崩壊で流れ出す泥(微細な砂)やダムから流れ出す微細な砂を被り、卵は窒息して死んでしまう。

何度も言うが、この川は「サクラマス保護河川」だ。河川管理者のやるべきことは、釣り人に責任転嫁するのではなく、卵が育つように川の仕組みを蘇らせることではないか。

北海道南部せたな町「良瑠石川」や「須築川」に学ぶべきだ。

良瑠石川のスリット化は…効果絶大!

須築川ダムのスリット経過報告会と現地視察

 

 

須築川ダムのスリット経過報告会と現地視察

2020年2月14日、函館建設管理部による関係機関と協議会員を対象とした「須築川砂防えん堤報告会」が開催され、パタゴニア札幌スタッフの方と参加しました。

これまでスリット化が進むにつれ、現地を経過観察していた私たちの予想通り、報告会ではサクラマスが遡上し、上流で産卵していたことが明らかにされました。スリット化の効果が認められた訳です。スリットの間口は3.5m、切り込みの深さは6.75m。

撮影:2019年11月4日

ダムの堆砂は、スリット化によって流れ出したものの、粒径は全体に小ぶりなものばかりで、下流の国道276号線(229号線)までは河床が上昇するような量には到達していないとの事。また、心配された土砂災害も無く、泥水の影響もヘドロによる水質の劣化も無いことが報告されました。

国道276号線(229号線)橋。河床低下が進行しているために、橋脚の基礎は剥き出しのまま。まだ、ここまでは十分な量の砂利が到達していない。撮影:2019年12月19日

報告会の後、段階的スリット(少しずつ切り下げていく)次の工事着手直前の現場を視察しました。

須築川砂防ダムのスリット化工事現場視察。撮影:2020年2月14日
澪筋を切り替えて、更なるスリット化工事が進められている。堤体は塗り付けたコンクリートで厚みを増していた。撮影2020年2月14日。
間口3.5mのスリット部からダム上流側へ。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの上流側(堆砂側)からスリット部を見る。左右の管は須築川の川水を送水する管。撮影:2020年2月14日。
須築川砂防ダムの堆砂は徐々に抜けていたが、堆砂は樹林化し陸地化しているので、全量が一気に出るような心配は無かった。撮影:2020年2月14日。
堆砂の中の腐葉土などの有機質は押し固められ、ちまちまと浸蝕されて流れ出した痕跡が認められた。大量の泥やヘドロの影響が無かったのはこのためと思われる。撮影:2020年2月14日。
大きな石がゴロゴロしていた河口は、普通の砂浜のように砂礫の渚が蘇ってきている。漁港の出入口が、スリット化によって須築川から流れてきた砂利で閉塞すると言われていたが、現在その兆候は無い。撮影:2020年1月10日。

ダムのスリット化で砂利が流れてきたので、「サケがあちらこちらで産卵していたし、今まで見たことが無かったアユがたくさん産卵していた」と地元の漁師が語った。また、河口付近の海域ではスリット化が始まってから海藻の育ちがよくなり、今までにない大型のワカメが育ち、ホンダワラが密生するようになってきたとも言う。

私たちは、これからもドローン空撮による河口域の海藻の回復状況も含め、自然河川の復活、水産資源の回復など取材を続け、ダムのスリット化の効果を検証します。

 

 

完成したサンルダム。サンル川は?サクラマスは?どうなるか。

2018年6月29日に試験湛水を開始、2019年2月11日に試験湛水が終了し、3月17日に竣工、4月から運用開始。サンルダムは完成したのである。

サンル川をせき止めたサンルダム。これでもう上流から砂利は流れて来ない。流れて来るのは泥ばかりになる。
  • 2013年11月18日

日本有数のサクラマス産卵河川として有名なサンル川に、巨大なダムが建設された。そのサクラマス資源を保全しようという魚道は、高さ46mのダム堤体に長さ440m、段差が25cmの階段が、ざっと数えて126段。更にサクラマスがダム湖に迷入しないようにダム湖を大きく迂回させて上流まで幅が3.7m、深さが1.4mの長さ7kmに及ぶ長大なバイパス水路(魚道)なのである。

サンルダム堤体からサンル川上流の魚道施設までは、延々7kmのバイパス水路(魚道)が敷設されている。
サンルダムの湛水域は広大だ。その湛水域を迂回するようにバイパス水路(魚道)が敷設されている。
サクラマスが産卵のために遡上していた支流はダム湖に水没し、その支流の上をバイパス水路(魚道)が跨いでいる。

ダム湖に注ぐ複数のサンル川支流の沢は、橋を架けてその上にバイパス水路を通しているので、サクラマスはこれらの支流で産卵することは出来なくなった。

サクラマスが産卵のために遡上していた支流の上をバイパス水路(魚道)が跨いでいる。
かつてサクラマスが産卵に上っていた多くの支流はサンルダムに水没した。つまり、本流と支流の産卵場所の多くを失ったのである。
バイパス水路(魚道)の水は、サンル川の川水を上流から取り入れた水のみだ。7kmを流れる間に水温の変動は避けられない。既に水路の底の石は泥を被っているので、水質劣化も進むだろう。魚たちは微妙な水温変化や水の臭いをかぎ分ける。この魚道を魚たちはどう判断するのか。
延長約7kmのバイパス水路(魚道)
バイパス水路(魚道)の底に敷き詰められた石。泥を被り、苔が生えている様から、水温は高いようだ。

バイパス水路(魚道)は、サンル川の上流に出口が設けられている。水路を上ってきたサクラマスは、ここからサンル川本流に入り、それぞれに産卵場へと移動して行くというシナリオだ。卵から孵化して春先に泳ぎ出し、1年の間、川で育ったサクラマス幼魚は降海するために春に川を下る。しかし、サクラマス幼魚がダム湖に入れば、ダム湖を海に見立てて、降湖型のサクラマスになってしまうのである。そこで、ダム湖に入れないようにサクラマス幼魚のすべてをバイパス水路(魚道)に導く仕掛けがされている。それは、サンル川本流の流れを堰で止め、その流れを施設に呼び込んで回転するドラムを通して、再びサンル川本流へと戻すというものだ。この回転するドラム仕掛けに、サクラマス幼魚が驚いて寄りつかないようにしているらしい。つまり、回転ドラムによって、サクラマス幼魚をふるいにかけ、バイパス水路に導くというのだ。果たして、そう上手くいくのか…?

サンル川から魚道施設に水を導くために設置された堰。上流側では、堆砂が上流に向かって溜まり始めている。増水したら容易に堰を越流するだろう。サクラマス幼魚も越流と共にダム湖に向かい、やがて湖沼型のサクラマスが出現することは目に見えている。

2019年11月2日に、この施設のすぐ上手の橋の上から観察したが、サクラマス幼魚をえり分ける施設へ本流の水を送り込むために造られた堰が、あまりにも低いもので驚いた。

サンル川上流の魚道施設に本流の水を呼び込み口。本流の水をせき止める堰の高さを見ていただきたい。低い!そして、堰の手前には堆砂が溜まっている。増水時には簡単に越流するだろうから、サクラマス幼魚は容易にダム湖に流れ込み、湖沼型サクラマスが出現することになるだろう。十分な検討がなされた施設とは思われない。

莫大な税金を投入したサクラマス資源の保全策の問題点。

1.サクラマス幼魚がバイパス水路(魚道)施設の堰を越えて、ダム湖に流れ込むことは免れない。何故ならサンル川の流れをバイパス水路(魚道)施設に呼び込むための堰には、既に堆砂が溜まっていて増水すれば、ひとたまりも無くこの堰を越流するからだ。サンルダム管理所長は「堆砂は取り除き、工事等で使用する」と言っているが、砂利を取り除くのは平水時である。だが、砂利が流れついて堆積するのは増水の時であるから、越流は免れない。サクラマス幼魚はダム湖へ流れ込むことになり、やがて降湖型のサクラマスが誕生してしまって漁獲は激減するだろう。

2.サクラマス幼魚は、1年の間、川に残り厳冬期を過ごす。越冬場所が随所に多くあったのだが、ダムの湛水によって悉く失われた。越冬環境に関する配慮はされていないのである。

左がサンル川。右に見えるのがバイパス水路(魚道)。サンル川の川岸にはアシヨシが張り出し、魚の越冬場所がたくさん見られていた。また、沼地や湿地があり、湧き水が多いことから、サクラマス幼魚の一大越冬場所になっていた。そこが水没してしまった(下の写真)のである。
良好な越冬場所(上の写真)が湛水域になり、水没してしまった。もっとも、サクラマス幼魚はこの場所への立入が禁止されている訳で、入ることは出来ない。
  • 撮影:2017年7月31日

3.サンルダムの126段もの階段魚道をどのくらいの数のサクラマスが上るのだろうか。魚道の下に100きたものが、100上がれば魚道の効果ありと言えるだろうが、それは誰も確認出来ない。魚道を上れなかったサクラマスや上らなかったサクラマスが、ダム直下にある一の沢川に押し寄せて産卵することになるだろう。そこには太古から繰り返し産卵を営むサクラマスがいるのに、新参者と競合し重複産卵し、互いに減らし合う事になるから資源は減少することになる。共にダム下の本流で産卵しているサクラマスも、重複産卵によって減少することになるだろう。

サンルダム直下。魚道の入口は左側の隅っこにある水路だ。サクラマスが100来たものが100上るという裏付けは全くない。1尾でも上れば効果有りと容認されるのだ。おかしな科学がまかり通る今流行の「忖度」魚道そのものである。上らない、上れないサクラマスは、やむを得ず付近で産卵する。他のサクラマスと産卵が競合し、互いに減らし合うことになる。大きな問題なのだが、何故か誰からも声が上がらない。
橋から見た一の沢川。水辺はなだらかで、石は苔むしている。しかし、ダムの影響で川底の砂利が流れ出すようになり、川底は下がり、川岸に段差が出来て崩れるようになっていくことだろう。ここもサクラマスの産卵場所は不安定になり、資源は減少することになるだろう。
水面までなだらかな水辺の一の沢川。サンル川の川底の砂利の減少と共に、河床の砂利が失われ、段差が出来てくるだろう。また、苔むした石もなくなる。こうした変化はダムの影響の特徴なので、ぜひ着目していただきたい。
サンル川と一の沢川の合流点。一の沢川の河床の砂利が流れ出すようになると橋と道路の取り付け部にある「橋台」の基礎部が次第に剥き出しになってくる。また、川岸にも段差が表れてくる。河床低下を視覚的に捉えることができるので、ぜひ、着目していただきたい。

サンル川は濁りの少ない川である。岩盤の上の砂利がサクラマス資源を支える要になっている。ダムによって下流に流れる砂利は、完全に止められてしまった。しかし、ダム下流の流れは砂利を運ぶ「掃流力」があるので、ダム下流の本流の川底の砂利が持ち去られることになる。岩盤の川であれば、露盤化し、そこに支流があれば、支流の砂利まで抜かれていくことになる。ダム管理者が「堰に溜まった堆砂は取り除き、工事等で使用する」と言っていることは、川の砂利がサンル川の河床を安定させる役割を担っていることに気が付いていないと言う事である。こうした意識でいる限り、やがてサンル川には、続々とコンクリート構造物が造られることになり、川は壊されていくだろう。

サンル川が注ぐ名寄川の合流点付近の川岸に堆砂している礫は、微細な砂やシルト分が見られず、粗い礫になっている。

サンルダムの下流、名寄川との合流点付近。サンル川の方には大小の砂利が多く見られるが、合流地点の名寄川は岩盤が露出しているところが多い。
サンル川と名寄川の合流点から100mほど下流の名寄川の右岸。学生がいる側がサンル川の流れが強く影響し、ここにある砂礫はサンル川から流れてきたものと思われる。
水辺の砂を一握り採取してみた。微細な砂やシルト分は全くない。粗い礫砂で、さらっとしている。
近くの川で、水辺の砂を見てほしい。こんなにもさらっとした礫砂はどこにもないだろう。微細な砂やシルト分が見られない良質な川だ。
流れる水にはうっすらとお醤油を薄めたような色が。流域の林床土壌を抜けてきた栄養分豊富な水。川の幸、海の幸を支える大切な水質だ。

サンル川の良さは、微細な砂やシルト分が少なく、森林土壌を抜けてきた栄養豊かな水が流れているところにある。サンル川が育むサクラマスは豊穣な川の証でもある。そこにサンルダムを建設してしまったことは、取り返しがつかぬ失政である。サクラマスが減少するばかりか、巨大なダムの底には膨大な泥が溜まり続け、ひいては名寄川から天塩川、沿岸に至るまで広域に影響を与え、不毛の川に変えてしまうことだろう。近年、毎年のように想定を超える豪雨があり、各ダムは「異常洪水時防災操作」による緊急放流を行い、その下流を水没させて人命財産を奪っている。川の水は集めず分散させればエネルギーは小さく被害は軽微で済むが、その水のエネルギーを膨大に集めて、わざわざ破壊力を高めてから緊急放流する。すなわち「異常洪水時防災操作」によって流入量と同じ量を短時間に放流するため、下流では水位が急激に上がるので、破壊力が増大するのだ。ダムは、まさに百害あって一利無しのやっかいな代物である。

 

「良い渓流なのに残念です…」小鶉川の今。

2019年6月19日、当会のHPに以下の投稿が寄せられた。

「先日,厚沢部の小鶉川に行ったところ,取水堰堤の下流でグランドキャニオン化が進んでいて驚きました。今後どうなっていくのか不安です。良い渓流なのに残念です…」

頭首工の魚道建設から10年。厚沢部町の鶉川支流「小鶉川」の今を取材した。

撮影:2006年10月4日 
砂利がたくさんあったのに、すっかり流されて岩盤が露出した。撮影:2019年6月26日
撮影:2006年8月1日  ↓
魚道とダム(プール)で砂利が止められると、見事に砂利が流され、岩盤が露出してしまった。撮影:2019年6月26日
撮影:2006年10月4日 ↓
「ここにあった砂利ないよ~。これじゃサクラマス産卵できねぇじゃん」小作ブツブツ…。撮影:2019年6月26日

当時、魚道建設の検討会で砂防学の中村太士・大学教授は、「河道に張り出すような魚道建設は止めよう」と発言していたが、魚類の専門家と称する妹尾優二氏が、砂利が溜まらないという安田式台形断面型魚道と、その魚道に上らせるためのダム(プール)建設が必要だと提案し、北海道檜山振興局はそれを採用して2009年に建設した。

厚沢部川水系小鶉川

 

砂防学の専門の大学教授が提案した河道に張り出さないコの字型魚道がすでに取り付けられてあるのに、魚の専門家はそれでは不足としてダムを2つも建設させたのだ。

役に立たない魚道が残り、その魚道に上らせるために必要として建設されたダム(プール)は、砂利を止めてしまった。その結果、下流側では川底の砂利が失われ岩盤の露出は広がり、サケもサクラマスも産卵する砂利も場所も失ってしまった。

この石が下流で必要とされるのに、魚道で止められた。撮影:2019年6月26日
流れ下っていた砂利が、さらに下流のダム(プール)で止められてしまった。撮影:2019年6月26日

サクラマス資源の保護目的の魚道に加え、ダムを建設したのだから、他の川同様に、ダムの下流で砂利が失われて岩盤が露出することは目に見えていた。それを知らない筈は無いと思うのだが、見事に岩盤を露出させ、産卵場を消滅させた魚の専門家と称する妹尾優二氏。魚の産卵の仕組みや魚の産卵場を形成する川の仕組みを知っているとは到底思われない。多くの川でダムの下流を観察していれば、こうなることは事前に予測できることだ。行政に”忖度”する専門家恐るべしだ。このままではサクラマスはいなくなるし、川岸が崩壊し、土砂・流木災害発生の兆しすら見える。サクラマスや川からしっぺ返しを受けるのは魚の専門家ではなく、他でもない地元の人たちなのだ。

川底の砂利が失われ、岩盤が露出している。ご覧のように水流を受ければ、基礎が抜かれ「砂山くずし」のように川岸が崩れることになる。大雨が降れば土砂流木が流れ出し。災害が発生することになる。こんな現場があちらこちらの川で見られる。撮影:2019年6月26日

露盤化してサクラマスが産卵できなくなったばかりではない。川底が掘り下がり、左右岸から砂利が転がり出しはじめている。このままでは大雨の時には川岸が「砂山くずし」のように崩壊するのは目に見えている。サクラマス資源を減らすばかりか、土砂・流木がこうして流れ出し、土石流災害や流木災害を発生させることになり、流域の住民の生命財産を脅かすことになるのだ。

ではどうすればよいのか?魚道に魚を上らせるとして建設したダム(プール)が砂利を止めているのだから、この2つのダムを撤去することが必要だ。小さな構造物だと思われるかも知れないが、写真で見てお分かりのように、小さな作用が「チリも積もれば山となる」の例え通り、下流側の砂利を一掃し、岩盤を露出させた。今後は河岸が崩壊し、土砂流木が流れ出す。災害を起こす前に一刻の猶予もない。

まずは事業者による現地確認が必要である。そのために北海道檜山振興局に現地調査を申し入れたが、「事業が終了し、厚沢部町に移管されており、現地調査することなど出来ない」と回答。こんな対応では道民の生命財産を守ることなど出来ないし、基幹産業の水産資源すら守ることも出来ない。北海道としてこうした対応が適切かどうかについて更に説明を求めたが、「当方が行う事業では、譲与後においては、構造物などに関する全ての権限が譲与先に移りますため、道には現地調査の要否判断を含め、一切の権限がないことをご理解いただきたいと存じます」と言う事だ。しかし、構造物の所有・管理の面ではなく、構造物の影響によって下流で発生している「河床低下」及び「路盤化」については別事象である。構造物との因果関係の面から調査するべきではないか。