ダムを温存させた「魚道」では魚は増えない

知床半島、オホーツク海に注ぐフンベ川にある治山ダムが砂利を止めているため、下流一帯で河床低下が進行し、川岸の崩壊や川に面した山の崩壊が際立っている。

フンベ川の記事は下記を参照。URL:フンベ(噴辺)川 | 流域の自然を考えるネットワーク (protectingecology.org)

河床が低下し、川岸が引き倒されるように崩壊しているのが解る。撮影:2004年4月28日。
河床低下は川に面した山の基礎部を水流が浸食するようになるので、ちょうど「砂山崩し」のようにドサッと山の斜面が崩れ落ちるようになるのだ。撮影:2004年4月28日。

河床低下が著しいこのフンベ川に、治山ダムの影響を温存させたまま、魚道が建設されたという。

出典:2022年9月25日付・北海道新聞。

魚道が、さも効果があるように報道されているが、行く手をダムに遮られて上れない魚たちに、上り口をあけてやれば上るのは当然だ。だが、魚を上らせれば、魚が増えるかと言えば、必ずしもそうはならないことを知るべきである。魚道から流れ出す砂利は小ぶりの砂利ばかりだ。従って、魚道の下流側の川底の砂利は流され、魚道の上り口が掘り下がって行き、やがては魚が上れなくなる。河床の砂利の下が岩盤であれば、岩盤が露出してしまい、魚は産卵できなくなる。

治山ダムは上流にどんどん砂利を溜めていくので、V字谷が平らになり、流路は平面を蛇行し、山を浸蝕して崩壊させ、泥水を発生させる。また、治山ダムの下流では河床低下が進行して、川岸崩壊や川に面した山を崩壊させ、川はどんどん壊れていき、ちょっとした増水で泥水が流れ出すようになる。

この流れ出す「泥水」が曲者だ。泥水は川底に微細な砂やシルトをまき散らし、河床に沈澱、堆積し、石のすき間を埋めてしまう。泥水を口から吸い込んで、エラから吐き出すことを思い描けば、エラに微細な砂泥が入りこみ、魚は粘液を出して体を守ろうとすればばするほど、エラには砂泥が付着していく。その結末は死であることは容易に想像できることだ。川底に産み落とされたサクラマスやカラフトマスの卵を育てる仕組みが壊れ、繁殖不能の川にしてしまうのだ。魚は上るようになっても、やがては魚が減り、生物多様性も失われる。従って、魚道の効果は一時的な”見せかけ”に過ぎないのであって、魚が増えることにはならないことを肝に銘じてほしい。コンクリートであれ石組みであろうが見せかけに錯覚していれば、川は壊れ、やがては資源は確実に減少、失うことになる。

魚を増やしたいのなら、繁殖環境を蘇らせることだ。

魚の卵が育つ仕組み「再生産の仕組み」を知っていれば、結局、治山ダム・砂防ダム・落差工の撤去、または、スリット化するしかないことが良く分かる。河床の砂利は下流に流れ出し、河床が安定し、再生産の仕組みが蘇り、上流でも下流でも魚が繁殖できるようになり、魚は増える。また、酷い泥水が抑止されるようになれば、放流した稚魚の生残率も向上するというものだ。

他の河川の事例でも、魚道から流れてくる砂利は小降りのものばかりとなる。

魚道は万能ではない。次に事例を添える。

上の写真は、落差工に取り付けられた日本大学理工学部の安田陽一教授が考案した「台形断面型」魚道だ。魚は魚道を上ることができず、産卵場へ行くこともできず、行き場を失い、真っ黒に溜まって右往左往だ。治山ダム同様に、この落差工を温存させたために、下流域の川底の砂利が流され、粘土質の川底が露出してしまい、産卵場すら無くしてしまったのである。

なぜこんなことになったのか…?

自然の川は単なる水路では無い。川には多様な生物が生息し、それぞれに見合った暮らしがあり、最も基本的なことだが、川にはその多様な生きものたちの生命を育む「仕組み」があるのだ。この多様な生きものたちの生命を育む仕組みについての知見が欠けていたのでは魚がいなくなるばかりだ。

今回のフンぺ川治山ダムの魚道では、「コンクリートよりも自然の見た目に近い」と安田陽一教授は石組みにされたが、命を育む仕組みは何も変わらないから魚は増えない。魚は上っても再生産の仕組みは失われたままだからだ。この「自然石を使用した魚道」建設礼賛の報道をしたマスコミ記者の方にも、魚道で魚は上っても、その後の資源の増減の真実を取材して続報していただきたい。

治山ダム・砂防ダムを含めて、砂利を止める河川横断工作物の影響は深刻なものなのだ。河川横断工作物の影響の深刻さを無視し、見せかけだけの自然石を使った魚道建設を礼賛し、魚を増やすという発想は、所詮は薄っぺらな見せかけでしかない。魚の繁殖の方法や産み落とされた魚の卵が育つ仕組みを知らなければ、いくら魚を上らせても、資源が増えることはあり得ない。

魚の習性や川の仕組みを考慮されずに建設される「魚道」ほど、やっかいなものはない。日本全国の川で魚たちは繁殖出来なくなっており、水質がどんなに良くても、魚がどんどんいなくなっているのが現実である。

 

 

北海道新幹線工事現場からの排水で清流がドブ川化…

北海道新幹線工事に伴う排水で、どの河川もドブ川化が止まらない。

ルコツ川同様に、北海道新幹線トンネル工事「山崎工区」からの排水と、溶出量が国の環境基準を超えるヒ素・セレンなどを含む重金属含有残土の投棄場所からの排水で、ホタテの大規模養殖場に注ぐ山崎川は、酷いドブ川化となっている。

こんなドブ川に魚が棲めるはずがない。魚がたくさん泳ぐ清流だったのに…
ドブ化した同じ場所の写真。排水前は、川底の礫がこんなにもきれいに見えていたのに…。撮影:2020年4月25日

山崎川はドブ化し、魚の姿も見られなくなってしまった。

山崎川の橋から川を覗いたら、ドブ川化していた。魚の姿ナシ。
排水基準は遵守されているのだろうか…?
工事が始まれば、汚染は止まらない…
こうして「沈黙の川」となる。これを「影響ナシ」と言う機構の一言で、北海道の清流は悉く失われてゆく。恐ろしいものだ。

国や道の認可された事業なのに、こんな川に成り果てるのだ。魚が群れる清流は、悉く失われている。

機構は、国の環境基準の溶出量が130倍超えるヒ素含有の掘削残土を、八雲町に無断で、沢の埋め立て地に運び込んでいた。その現場を住民に見つけられたことから、その後、国家権力を行使して、力尽くで住民の目を排除するようになった。

監視カメラが設置されており、工事が休みの時でも、中に入れば、担当者がすっ飛んでくる。
問答無用の対応だ。

では、この中で彼らは何をしているのだろうか…?

八雲町「山崎工区」から掘り出された溶出量が国の環境基準を超える有害重金属含有残土の農地を利用した仮置き場。農地が汚染されることは無いのか…?

上流には環境基準超えの有害重金属含有残土の捨て場があり、排水は山崎川に流されている。ではどうなっているのだろうか…?

環境基準超えの有害重金属含有残土捨て場「黒岩B」の排水は白濁していた。

残土捨て場「黒岩B」からの排水は白濁していた。なぜ排水は白濁しているのか…?

濁水処理を行わずに、山崎川へ排水するようになっていたのである。

濁水処理施設があり、濁水処理されて排水されるようになっているが…疑わしい配管があった。
沈砂池から濁水処理施設に送られる送水管が2本ある。また、濁水処理施設を経由しない送水管が山崎川へ伸びている。

ルコツ工区の沈砂池の濁水収容量は、付近の最大雨量時に対応した規模になっているのだが、これは、沈砂池が”空”という条件だと判った。即ち、濁水処理施設を経由せずにルコツ川へ排水する送水管が設置されていたのである。これと同じ事が山崎川でも行われているのだ。

こんなことが現場の施工業者間でまかり通っていたのでは、生物多様性保全など達成出来るはずがない。SDG’sにも反しているこうした手法、状況を工事主体者である独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、しっかりと現場で行われていることを精査し、是正していただきたい。

 

北海道新幹線トンネル工事の排水が、川を殺した。

北海道新幹線トンネル工事「ルコツ工区」のその後を取材した。濁水処理施設から流される排水先のルコツ川が、ドブ化しており、以前の清流は酷い有様になっている。

URL:新幹線トンネル工事現場で、謎の配管と恫喝。 | 流域の自然を考えるネットワーク (protectingecology.org)

ルコツ工区の濁水処理施設の配管は、案の定、またおかしな配管がされていた。

ルコツ工区。白い建物が濁水処理施設。裏にルコツ川へ向けた謎の配管が2本。撮影:2023年4月28日。

ルコツ工区の下流は、清流からドブ川に変貌していた。

 

さらに下流では、濁水処理後の水を排水している。川の汚染は、排水処理が適正に行われているとは考えられない。濁水処理を行わず、送水管にも繋がっていない管から直捨てしているからだ。見つかっては、改善と再犯を繰り返す。鉄道運輸機構は業者に丸投げで汚染の事実も見て見ぬふりだ。かつて清流に群れていた魚の姿は無い。川は死に、ここで遥か昔から命を紡いできた生物は消えた。

私たちは機構と、工事着手前にルコツ川を汚染させない為の話し合いをして来た。担当職員は、群れる魚や川石にビッチリと産み付けられた卵を目の当たりにして「凄い。こんなに魚がいるんですね」と息をのみ、「排水は適正に行い、川を汚染させません」と言った。

誰も見に来ない。誰にも知られない。現場はやりたい放題だ。環境配慮などに、お金はかけない。そんな予算があれば、儲けることに知恵を絞る。「配慮は見せかけにやったふりしていれば儲かる」と…。莫大な血税を使って「環境影響評価(環境アセス)」のための調査が行われているのです。この環境アセスとは、いったいなんのための事業なのでしょうか…?

北海道新幹線のトンネル工事のどの現場でも、地域の自然を愛しみ関心のある住民や環境団体などの皆さんは、鉄道運輸機構に対して環境配慮の為の協議、嘆願の努力をなされて来られた筈だ。しかし、その現場が今、どうなっているのか?約束は守られているのか?このルコツ工区からの排水は、大規模なホタテ養殖場でもある噴火湾に注がれている。漁業者も無関心なんでしょうか?その後の”無関心”の怖さは、私たちの身の回りで進行しています。

環境配慮とは、約束を取り交わしたことで終わった訳ではない。配慮されているか確かめあってこそ、成立するものだ。皆さんの現場でも今一度、「排水処理は適正にされているか?水質に重金属汚染などは無いか?川に変化はないか?魚は元気か?」精査していただきたいと思います。

 

河床低下が進む十勝川の「新たな治水対策」でサケが増える?

2023年3月22日、河床低下が進む十勝川で「水害への備えと漁業資源回復の両立」を目指し、「新たな治水対策」がNHKのウエブニュースで紹介された。

出典:北海道 NEWS WEBにメモ書き加工。

https://www3.nhk.or.jp/sapporo-news/20230322/7000056134.html

つまり、この「最新の治水工事」とは「河道掘削」のことだとある。河床低下が進行している十勝川で「河道掘削」すれば、河床は更に掘り下がり、地下水位も低下し、十勝川が包容する水量が減少する一途となるのではないか。

北海道大学には十勝川に関する論文があり、下記に一部を引用する。

巻末には結論が添えられている。

今から42年も前の1981年に、「河床低下は治水上は好ましいことであるが…」との前置きで、十勝川の地下水の水位低下が進行していることを報告。十勝川の現況を危惧し、警鐘する意味で添えられているようにも読み取れる。よく考えてみよう。地下水の水位低下は十勝川の水量が減ることを意味しているのだ。

42年も前に河床低下の進行が指摘されているのに、これを無視しての「河道掘削」ということになる。河幅を広げ、砂利河床を露出させればさせるだけ、砂利が流され、川底が更にどんどん掘り下がっていく。特に、わき水が「湧き出す」川底ほど、砂利が流され易く、急速に掘り下がり、澪筋は偏っていくものである。澪筋の広がりは失われ、細く単調な流れとなり、多種多様な魚類の生息環境が消えていく。

北海道南部の太平洋に注ぐ八雲町の遊楽部川では、過去に大規模に「河道掘削」が行われ、河道が拡幅された。その後、河床低下は進行し、サケが産卵していた湧水のある川底が掘り下がり、澪筋は偏り、サケの産卵場は激減した。そればかりではない。河床低下は上流へと波及していき、広範囲で川岸崩壊を誘発するので、泥川となり、サケの産卵に適した場所が砂泥で埋まるようになり、自然産卵由来のサケ資源は風前の灯火状態になっている。まさに、不毛の川へと導く「河道掘削」である。

河道掘削の際に護岸基部の川底に敷き詰めた「護床工(コンクリートブロック)」は水面から露出し、川の方へまるで護岸のように垂れ下がってしまった。河床低下恐るべし。

ましてや、湧き水を産卵場にしているサケは、「河道掘削」で湧水が消失すれば、増えるどころか、どんどんいなくなっていくのがオチである。その場しのぎの安易な「河道掘削」は、更なるサケ資源の減少を招く。漁業者にとって死活問題である。

この治水対策議論は、河川工事を異論なく進めるためのサケ資源回復を免罪符に利用しているに過ぎない。(サケの減少は、温暖化のせいだと言っておきながら、こういう工事計画の際には、川の環境のせいだと言う)工事直後は自然が回復したように見える。しかし、「その後」、川は必ず変貌する。科学しようとする立場の人たちは、川に向き合い、魚に向き合い、地域住民や漁業者のためにも抱き合わせ商法のような謀る議論はやめて、河道掘削で起きる「その後」を、しっかり検証して現場の将来を見据えた議論をしていただきたい。

 

 

ダムをスリットしたせたな町は、4年連続でサケの漁獲好調!

2023年2月14日付けの北海道新聞記事で、檜山管内(5町)の漁獲量が、せたな町が76%「増」で、他の4町は12~52 %「減」とある。他の4町と異なるのは、せたな町だけがダムのスリット化を手がけていることである。せたな町の”一人勝ち”に見えるのは、ダムのスリット化の効果だと思わざるを得ない。

出典:2023年2月14日付・北海道新聞。

せたな町では2010年から2河川で、ダムのスリット化に着手して来た。その後、せたな町では2019年から2020年、2021年、2022年と、4年連続で、サケの漁獲量が右肩上がりに増えている。

漁獲されるサケの年齢は3年魚、4年魚だ。ということは、3~4年前の2015年か、2016年頃から、サケの稚魚の生残率が向上したと考えることができる。つまり、スリット化着手後、5年、6年を経過して、サケ稚魚の成育環境がよくなったと推察される。

2022年の秋、せたな町でダムのスリット化をした川では、沢山のサケが川に上り、産卵している姿があった。まだ、産卵環境が回復したとは言い難いが、ダムのスリット化着手前には川底に目立っていたシルト(泥)や微細な砂が無くなってきており、きれいな玉石が見られるようになった。粗い砂は沈澱しやすいので、濁りが速やかに消えて、水が澄みやすくなる。水が速やかに澄めば、人工ふ化放流のサケ稚魚も、自然産卵で生まれたサケ稚魚も、泥水のダメージが軽減され、生残率が向上する結果になる。今後、産卵環境が回復していけば、自然産卵由来のサケが急激に増加していくことだろう。

河床に堆積した砂が減り、河床の礫がサケの産卵に適した粒径になり、多くのサケの産卵が見られるようになってきた。

また、4基の治山ダムをスリット化した小河川でも、多くのサケが遡上し、あちらこちらで産卵が見られた。川岸にはヒグマの足跡が残されていた。冬眠を前にしたヒグマが、飢えて街中を彷徨うこと無くサケを食べる…本来あるべき自然の姿が蘇ろうとしている。親サケをヒグマが腹いっぱい食べても、卵が育つ川の仕組みさえあれば、その光景は未来永劫絶えることは無い。

4基の治山ダムをスリット化した小河川では、シルト分や微細砂が減り、粗い礫質の砂に変わりつつあり、多くのサケの産卵が見られた。
今後、次第に砂が減っていき、小石の目立つ川に蘇ったとき、さらに多くのサケが産卵するようになるだろう。
産卵を終え、一生を全うしたサケをカモメが啄んでいた。
サケが上るようになれば、冬眠を前にしてヒグマたちもサケを食べにくる。飢えて街中を彷徨うことも無い。川岸のあちらこちらにヒグマの足跡があった。

また、ダムをスリット化した後、河口海域では、茎が太く背丈の高いワカメが繁茂するようになり、岩のりが採れるようになったという。これは、泥水の”質”が変わったからではないだろうか。ダムをスリット化する前は、川岸や海岸では細かいシルト(泥)や微細な砂が目立っていたが、ダムのスリット化後、粗い砂に変わってきた。岩礁を覆っていたシルト(泥)や微細な砂が粗い砂になったことで、岩肌が露出するようになり、岩肌にワカメや岩のりの胞子が付着しやすくなり、発芽し、生育するようになったのではないだろうか。

一方、太平洋側の噴火湾に注ぐ遊楽部川では自然産卵するサケが消滅状態になっている。酷い泥水が流れ、河床はシルト(泥)や微細砂で覆われている。こんな川底に産み落とされたサケの卵は育つ筈もない。例え、ふ化したとしても、この酷い泥水の中をとても生きていけないだろう。もし、この酷い泥水がふ化場のサケ稚魚の養魚池に流れ込んだら、たちまちに稚魚は全滅する。それを分かっていながら、ふ化場からは、こんなに酷い泥水の中にサケ稚魚を放流しているのだ。人知れず、多くのサケ稚魚が命を落としているに違いない。生残率が低下し、その結果が漁獲量の激減になっているのであろう。

遊楽部川では春先、こんなに酷い泥水の中にサケ稚魚が放流される。生き残れる筈もない。撮影:2023年3月10日。
かつては、あちらこちらに、綺麗な水が湧き出す浅い水辺があった。河床低下が進行し、地下水位が低下した為に、水が湧き出す流れも途絶え、増水時には酷い泥水が流れるようになった。サケ稚魚の逃げ場も無くなってしまった。撮影:2023年3月10日。
出典:2022-年12月13日付・北海道新聞

 

出典:2022年12月16日付・北海道新聞。

 

 

ダムを温存させた太平洋側噴火湾とダムをスリットさせた日本海側せたな町の河川環境とサケの漁獲量の推移を、これからも見守り続けていく。

 

 

 

沙流川の支流に、とうとう「平取ダム」竣功…

2022年11月26日、平取町民体育館に於いて平取ダム竣工式が行われた。治水・用水・発電の多目的ダムとして二風谷ダムと合わせて2ダム一事業として平取ダムは建設された。

平取ダムは、沙流川支流の額平川と宿主別川の合流点に建設された。堤高55m、堤長350m、貯水量4,580万㎥。

額平川と宿主別川の合流点の淵では、故萱野茂さんが、「棒を投げたら、棒が倒れないほど沢山のサクラマスがひしめき合っていた」と話されていた。

試験湛水で、既に粘土のような泥が大量に溜まっている。

流域一帯を覆った木々は、溺死…川の潤いで均整された自然は人の手で一瞬に破壊される。

試験湛水で、もうこの有様だ。川岸が崩れ、木が倒れ込んでいる。2003年8月10日に起きた豪雨による二風谷ダム決壊危機は、大量の流木がゲートに挟まれて操作不能になった。このような大量の流木が、再び平取ダムにも押し寄せることになるだろう。過去の教訓を無視し、自然の摂理を無視したしっぺ返しは多大だ。

 

鵡川のシシャモ、過去最低1.4トンから僅か64㎏に。

「鵡川と言えばシシャモ。シシャモと言えば鵡川」というほどに有名なシシャモの産地が記録的な不漁だ。

道立総合研究機構栽培水試(室蘭)は、「昨夏の高い海水温の影響で多くが稚魚段階で死んだ」と分析。本当だろうか…?道南の太平洋側、八雲町の遊楽部川には分布の南限とするシシャモがいた。しかし、2005年頃には姿を消し、絶滅。大繁殖から絶滅までの経緯を、その現場を見てきた者としては、この水試の見解は疑問だ。

遊楽部川のシシャモ絶滅原因の最初の一歩は、河川事業でシシャモの大産卵場が壊され、資源量を減らすことにはなったが、絶滅の主因ではない。シシャモの卵は湧水に抱かれて育ち、早春に孵化した稚魚は川から海へ下り、沿岸で生活を始める。しかし、春先の雪解け増水の酷い泥水を吸わされた稚魚たちの多くが命を落とし、絶滅に至ったの真相だ。それ以外の要因はない。

産卵場のシシャモの群。産卵場は粗い砂礫だ。シルト分や微細砂は無い。

シシャモが産卵する川底の砂礫はシルト分や微細な砂は見られず、さらさらとした「粗い礫」となっている。しかも、川底から湧水が出ている場所だ。ところが、遊楽部川には治山ダムや砂防ダムが数多くあり砂利が止められているため、ダムの下流は川底の砂利が流され、川底がどんどん堀下がった。その上、湧水が豊富なので、噴き出す川底は容易に掘り下がるから、川岸、護岸も崩れて災害が多発。河川管理者は護岸を守るために、このシシャモの大産卵場に袋体床固工(漁網に石を詰め込んだもの)を敷き詰めて、産卵できなくしてしまったのである。主たる産卵場を失ったシシャモは、それでもかろうじて別の場所で産卵していたが、あちこっちで崩れた川岸から流れ出す酷い泥水の影響を受け、息の根を止められてしまったのである。

河川事業で、シシャモの産卵場は袋体床固工で覆われ、消滅した。

この酷い泥水を抑止しなければシシャモ資源は残せない。シシャモ資源を残すために道立水産孵化場に調査を依頼したものの、残念ながら2005年にはシシャモの姿が見えなくなり、シシャモ資源の保全策の提言もされぬまま、調査は打ち切り。かくして、遊楽部川のシシャモは絶滅したのである。

遊楽部川のシシャモ調査。見えるのはJR橋。
調査で捕獲された遊楽部川のシシャモ。

鵡川のシシャモの不漁の原因は、遊楽部川のシシャモ絶滅の経緯から、酷い濁り水であることに間違いない。しかし、サケの漁獲量減少の説明同様に「温暖化」としか言わない。「酷い泥水の影響」だと言及する専門家は、不思議なことに誰一人としていないのである。

沿岸にシシャモ稚魚がいる時期に、この写真のような酷い泥水が流れ出せば、その影響を無視することはできない筈だ。

沙流川ではシシャモの産卵場造成事業が行われている。シシャモの産卵条件や卵が育つ仕組みを知らぬままに、単に、産卵に適した砂礫が集まるようにすれば良いと勘違いし、川底にコンクリートの柱を打ち込み、砂利が集まるようにしたものが作られている。沙流川が泥川と化してからはシルト分や微細な砂が溜まる一方で、シシャモが寄りつく気配は無い。この泥川にした根源である二風谷ダムによって、川底が掘り下がり、各所で川岸が崩れ、川岸から多くの立木が倒れ込む。そうした流木は、このシシャモの人工産卵場に引っかかるのである。労して益無しのシシャモ人工産卵場である。

沙流川の川底にコンクリートの柱を打ち込んだシシャモの人工の産卵場。
砂利で埋没した二風谷ダムからは酷い泥水が吐き出される。

鵡川も、沙流川も、酷い泥水が流れ出続ける限り、自然産卵由来のシシャモ稚魚は勿論、いくら放流しても稚魚が育つことはない。川底が掘り下がれば、地下水が減少し、川底から湧き出す水量が減る。湧水は多くの魚たちが越冬にも利用していることから、サクラマス幼魚やウグイなど、他の多くの魚種も減ることになる。

湧水の所在は、厳冬期の川を見ればすぐに分かる。川面が結氷しているのに、一部、川面が開いていたり、川岸の砂利が露出しているからだ。沙流川では湧水豊富なところでシシャモが産卵していた。遊楽部川でも然り、湧水はシシャモの卵の生育に大事な役割を担っている。

厳冬期、川面が結氷しているのに一部が開いている。沙流川、富川地区親水公園付近。撮影:2006年1月21日。
近づいて見れば、川面が開き、砂利も露出している。暖かい湧水で、氷がとけ、雪がとけている。沙流川、富川地区の親水公園。撮影:2006年1月21日。

道立総合研究機構栽培水試(室蘭)は、公の機関であり専門家がいるのだから、「海水温が高かったから稚魚が死んだ」という前に、鵡川や沙流川の、目の前で起こっている春先の雪解けの酷い泥水が、シシャモ稚魚に与えている影響をこそ、重要な課題として検証していただきたいものだ。暖かい湧水で卵が育ち、川から海へ泳ぎ出し沿岸で生活を始める頃、雪どけ増水の酷い泥水にか弱いシシャモの稚魚たちは晒され、泥水を吸わされ死んでいく。いくら人工孵化放流したシシャモ稚魚であってもだ。

ネイティブなシシャモが「幻」と化すのは、そう遠くは無い…いや実はもう、鵡川固有のシシャモはいなくなっているのかも知れない。こんなに不漁だという中、鵡川での人工孵化放流用のシシャモの卵は採れているのだろうか…?

 

せたな町の秋サケ、昨年に引き続き漁獲好調1.8倍。

北海道南部の日本海側ひやま漁業協同組合管内のせたな町では、昨年に続き、今年も秋サケの漁獲は好調という。漁期途中ながら、昨年の1.8倍と報道された。

渡島・桧山「ローカル版」誌面で報道されたのみだが、全道版、全国版で報道していただきたいものである。

地球温暖化の影響で秋サケの来遊数が減少し、漁獲が低迷していると専門家が解説している中、せたな町では2019年、2020年、2021年と連続で右肩上がりで増加し、2022年の今季は途中経過ながら、昨年の1.8倍と好調だ。

ひやま漁業協同組合は「せたな町・八雲町・乙部町・上ノ国町」の各漁協(支部)で構成されているが、驚くことに全量の8割が、せたな町での漁獲なのである。

何故、せたな町だけで漁獲量が多いのか?

せたな町が他町と違う点は、せたな町の2河川で、2010年から治山ダムと砂防ダムのスリット化を行ってきたことである。

北海道の保護河川「須築川」のスリット化した砂防ダム。撮影:2022年10月20日。
この川では4基の治山ダムをスリット化した。撮影:2022年10月24日。
スリット化した4基の治山ダムのうちの一つ。上流と下流がきれいにつながっている。撮影:2022年10月24日。

治山・砂防ダムのスリット化で砂利が流れ出し、河床低下が緩和され、川岸の崩壊のリスクが減少した。つまり、ダムの影響が取り除かれて、酷い泥水が抑止、低減されたのである。

サケ稚魚は酷い泥水の中で生きてはいけない。ふ化場の池に泥水が流れ込むと、サケ稚魚は壊滅的な被害を受けることからも、お分かりいただけるだろう。泥水が流れ続けているような河川では、放流サケ稚魚も自然産卵由来のサケ稚魚も、人知れず、多くが命を落としている。つまりは、生残率が低下しているので、サケの漁獲が減少するのである。

ダムのスリット化後、年々、川底に堆積している砂が粗めの砂礫に変わり、石と石のすき間ができ、川底を水が通り抜ける透水性が回復している。こうなれば、魚の繁殖できる場所がどんどん増えていく。益々、自然産卵するサケやサクラマスが増加していくことだろう。せたな町では秋サケ以外にも、サクラマスの漁獲が2021年、2022年と好調という。これは、繁殖環境の回復を示唆していることに違いない。その上、河口周辺の海域では、背丈の高いワカメが林のように繁茂するようになり、岩のりが採れるようになり、ウニが大型に育ち、数もたくさん採れるようになった。これはシルトや微細砂の酷い泥水が低減され、粗い砂礫に代わり、海藻の胞子が育つようになってきたからだ。粗い砂礫が岩礁を洗い、海藻の胞子が付着し易くなったり、岩礁の表面を覆っていたシルトや微細砂が無くなり、胞子が発芽しやすくなったためと考えられる。

一方、治山・砂防ダムの影響で、川底が下がり、川岸が崩れ、災害が多発するなど、相変わらず酷い泥水が流れ続けている太平洋側八雲町の遊楽部川では、本流、支流共に自然産卵するサケが殆ど見られなくなっている。自然産卵するサケがいないことは、ホッチャレサケを食べに飛来するオオワシ・オジロワシが激減していることからも明らかである。

2022年4月12日の遊楽部川。この酷い泥水の中に、ふ化場からサケ稚魚が放流されている。小さなサケの子どもたちは生きていけるのだろうか…?

春先、遊楽部川はこんな酷い泥水が流れている。この泥水に孵化場は、サケ稚魚を放流しているのである。泥水の中に放り込まれたサケ稚魚たちは、口からシルト分や微細な砂粒を吸い込んで、繊細なエラ組織を通して吐き出し、エラ呼吸している。繊細なエラ組織を傷つけ、エラ組織のすき間に付着したらどうなるかなど、サケ稚魚の身を案じもしない。孵化事業とは、命を紡ぐ仕事でもあるのではないのか。

こうした酷い泥水を発生させるダムの影響は、深刻なものなのである。

この現実に、サケ専門家たちは言及せず、サケ資源が減少したのは、「地球温暖化で海水温が上昇したからだ」とか、「海流の流れが変わったからだ」とか、はたまた、「北太平洋のどこかで異変が起きており、そこで若いサケが死んでいるのではないか」などと、もっぱら海洋での異変について解説している。しかし、現場を見れば、川から海へ降海する前の段階、つまり、川にいる段階で生残率が低下しているのが真実ではないのか。海洋異変の話に転嫁する前に、まずはサケとはどんな魚なのか、基本的知識に立ち返り、ご自分の足で現場に出向き、再生産の場である川をしっかりと観察され検証し、恥ずかしくない解説をしていただきたいものだ。

 

北海道南部太平洋側へ注ぐ八雲町の遊楽部川は大雨で増水した

8月15日から16日にかけて、北海道南部の八雲町では久しぶりのまとまった雨が降り、遊楽部川は増水した。

8月15日14:00~8月16日16:00にかけての雨量は八雲町八雲で164㎜と発表された。16日は、早朝から携帯や町内アナウンスで避難勧告の騒ぎ。遊楽部川の堤防が決壊すれば我が家は水没、流される。家が流されるかも…と、覚悟はしたが、断続的に激しい雨が降る中、まずは、遊楽部川の水位を確認することにした。

久しぶりに高水敷まで水が上がっていた。
根っこ付きの流木が目立ち、JR橋の橋脚に引っかかっていた。
JR橋の橋桁に迫る水位。大量の流木が引っかかれば流される可能性もありかも。
なぜか、JR橋のところだけ、堤防の高さが低くなっている。堤防から越流すれば、住民は避難路を断たれることになる。堤防の嵩上げが必要な箇所だ。
JR橋付近から少し離れたところでは、堤防にはまだ余裕がある。
住宅側の川の排水口「樋門」は逆流防止のために閉じられ、かつ、住宅側の川水はポンプ場で吸い上げて、落差を利用して、遊楽部川へ排水。ポンプ場のおかげで、内水氾濫は回避された。
7月に遊楽部川の河原をヒグマが歩いていたということで、堤防周辺の草刈りが行われた。効果の裏付けが無いのに…。堤防の草刈りがされると水流が入り込めば、速い流れが堤防法面に当たるので、堤防法面が浸蝕され、堤防決壊に到る可能性が高まる。草刈りは止めるべきだ。
堤防の法面の草刈りをしたところは、速い流れが当たり、浸蝕される。草刈りをしていなければ、草がなぎ倒されて、堤防法面を覆うので、水流による浸蝕を防ぐことができるのだ。増水後の堤防をしっかりと観察してもらいたいものだ。

市街地を抜けて、少し上流へ行った。上流に旧道の橋があるが、なんと、流木が引っかかって、橋脚基礎部の河床が洗掘され、橋脚が沈み込んでいた。

上流の治山ダム・砂防ダムが砂利を止めているので、下流一帯では、河床の砂利が流され、河床低下が進行。砂利で埋まっていた橋脚の基礎が剥き出しになり、そして、流木によってさらに洗掘されて被災したというわけだ。

治山ダム・砂防ダム ⇒ 河床低下 ⇒ 橋の基礎が根上がり ⇒ 橋の上流では河床低下で川岸が崩壊し、立木もろとも流れ出した ⇒ この流木が橋脚に引っかかった ⇒ 橋脚基礎を洗掘 ⇒ 橋脚が沈み込んで、被災した。まさに、自作自演の災害だ。

河床低下であっちこっちで川岸が崩れ、流木が流れ出し、酷い泥水が流れ出す。魚たちは、生きていけるのだろうか…
おお、橋が逆”へ”の字になっている。
河床低下がこうした被災を生み出すのだ。橋が倒れ流されたら…、通行中の車があったら…。河床低下の怖さを知っていただきたい。

8月16日、この日、幸いに雨が小降りになり、その後雨が止んだ。堤防天端まで2mほどを残して、水位の上昇は止まった。

さて、酷い泥水、根っこ付き流木がホタテ養殖場である噴火湾に流れ込んだ。養殖施設に被害が及ぶばかりか、酷い泥水でホタテの斃死も発生したことだろう。

河川管理のあり方を、本気で考えてほしいものだ。

また、専門家という人たちは、真摯に現場に向き合い、当たり前の科学を全うしていただきたいものだ。エセと保身が多すぎる。科学とは現場に返すものだ。

真っ当な科学がされない背景には、増水後を見ればよく分かる。

被災した。
被災した。
被災した。
被災した。

被災した後、災害申請すれば、災害補修事業が創出される。つまりは、地元に国や北海道から、お金を取り込めるというわけだ。まさに、大雨を待っていれば、労無くして、お金が手に入る…これが地方の現実…。科学が口出し出来ないのはこのためかも知れない。

こうして、何もしなくても湧くようにたくさんいた遊楽部川のシシャモ資源が失われ、キュウリウオやアユを無くし、サケやサクラマスまでもいなくしてきているのだ。

そして、挙げ句は、北海道新幹線のトンネル工事で掘り出される、溶出量が国の環境基準を遙かに超える有害重金属含有の膨大な量の残土のゴミ捨て場にされている。なさけないものだ。なんとかしたいのだが…。

檜山管内でサケ漁獲高が、1958年以来最高を記録

2022年2月8日、北海道新聞「渡島檜山版」に、檜山管内のサケ漁獲好調、統計を取り始めた1958年以来「最高を記録」したと報道された。北海道南部・日本海側にある治山ダム・砂防ダムのスリット化が進む中でのニュースである。

出典:北海道新聞:サケの漁獲尾数減少している中で、真逆のことが起きている。

北海道の研究機関が発表している2021年度の全道へのサケの来遊尾数予測と実績値をグラフ化したところ、日本海南部だけが予測に反して、実績値が上回っていた。これが何を意味するのか?

出典:北海道立総合研究機構さけます内水面水産試験場さけます資源部

専門家は、サケの漁獲尾数減少の理由を「地球温暖化で海水温の上昇や海流の変動によってサケが戻って来れない」とか、「北太平洋で何かが起きてサケが生活できなくなっているのではないか」、挙句は「ロシアが日本近海で横取り漁獲している」などと減少の見解を述べている中で、日本海南部だけが、真逆のことが起きているのはどうしたことか?

専門家の説明に反して摩訶不思議なことが起きているが、専門家たちは、サケやサクラマスが河川で再生産するという肝要な事を、忘れたとでも言うのだろうか?私たちは、檜山管内で進むダムのスリット化後のサクラマス稚魚0+の分布調査で、産卵域が拡大していることを確認している。サケの来遊尾数が増加していることは、ダムのスリット化による河川環境の改善で産卵域が拡大し、再生産の仕組みが蘇った効果であると言えるのではないだろうか。