須築川砂防ダムの段階的スリット検証①

須築川砂防ダムのスリットについて、河川管理者の函館建設管理部は「一気に切り下げれば、堆砂が全部流れ出すから危険」という理由で、2017年3月にやっと着手されたスリットは、間口3.5m✕深さ3mを切り下げただけである。狭いスリットからは、小さな砂利ばかりが大量に流れ出している。段階的に切り下げるスリットで起こる川の変遷を記録するために、2017年9月13日に空撮での現地取材を行った。

ようやくスリット化が実現したが、間口は狭い。須築川砂防ダム。
段階的に切り下げるにしても、幅も深さも小さすぎるスリット。
須築川砂防ダムの間口3.5mのスリット。スリット間口6mでも流木は引っ掛かる事象がある。即ち、河川管理者は流木で塞がってしまうことを承知で、間口3.5mにした訳だ。メンテナンスには莫大な予算がかかる。

 

このダム堤体の長さで間口3.5mの狭いスリットでは、下流の河床低下を補う効果は薄い。増水時には、鉄砲水のように水が激しく噴き出して川を荒らす役割をすることになる。
ダム上流からスリット部を見る。こんな小さなスリット間口から、これだけの堆砂が都合よく流れ出すだろうか?
ダムの堆砂域では水が蛇行して流れるようになる。山の斜面を浸食する起因をダムが起こす。砂防ダムとは悪果を招くトラップのようなものだ。
ダムは砂利で一杯になると平に広がり、その上を水は蛇行するようになる。山斜面に流路が当たって浸食するようになり、新たな土砂・流木を発生させる。
ダムの堤体から直下を見る。スリット直下は小さな砂利だけ。
狭いスリットから流れ出す石は、小さな砂利ばかりだ。
須築川は急流河川であり、もともと巨石がゴロゴロとあった。狭いスリットでは、小さな砂利ばかりが大量に流れ出すばかりで、元の川底には戻らない。
パタゴニアスタッフに、流域の自然を考えるネットワーク代表:宮崎司が砂防ダムの影響について解説。

地元漁師は、「須築川に砂防ダムができてから、川底が掘られて川が荒れるようになり、サクラマスがいなくなった。早くダムを撤去して元に戻してくれ」と何年もの間、切実に訴えてきた。

須築川は、北海道が指定する禁漁河川(サクラマスの保護河川)である。サクラマスが大挙して産卵に遡上する。こうした再生産の場が資源の豊かさを支える。しかし、砂防ダムが建設されてからサクラマス資源は枯渇したのである。

ダムが出来る➡大きな石も砂利もダムで留まる➡ダム下流は砂利不足になる➡被覆を失った川底はどんどん下がる➡河床が掘られて川岸が崩れる➡河岸や山の斜面がズリ落ちる➡そこから大量の泥が川に流れ出るようになる➡その結果、川底には微細な砂が沈澱して川底の石の間を埋め尽くすことになる。これはサクラマスの卵にとっては致命的なことだ。河床に産み落とされたサクラマスの卵は、泥に埋もれて窒息してしまうからだ。水質は何ら問題の無い清流から資源が枯渇した理由が、ここにある。

この渓流河川に見合った大小様々な石が流れ出すようなスリットをしなければ、回復は見込めない。一刻も早く河床低下を止めて、河岸崩壊や山の斜面のずり落ちを食い止めなければならない。しかし、河川管理者の函館建設管理部は「堆砂の全量が流れ出すから危険」というばかりで、根拠のない言い訳ばかりで頑なに応じようとしない。こんな管理者が、川の回復を妨げ、再生産の仕組みを壊し、自然資源を枯渇させ、漁師を泣かせ、生態系を攪乱し、捕食動物から餌資源を奪い、私たちからも豊かな食卓を奪っている。