2015年05年20日、道南の日本海側に位置する檜山郡厚沢部川水系小鶉川にある農業用頭首工に建設された魚道のその後を取材した。
当時、渡島総合振興局の魚道設置に関わる委員会の座長であった北海道大学の中村太士教授は、頭首工に魚道を取り付ける場合、川に張り出したら影響が大きいとして、陸側に魚道を設置するという川に配慮した提案をし、委員会で可決された。
ところが、魚類の専門家と称する札幌のコンサル会社経営の瀬尾優二委員が、魚道に魚が入るためには入口に深みのあるプールが必要だと言いだし、砂防ダムと同じ構造の堰を新たに設置する提案を切り出した。更に、そのプールに魚が辿り着くまでの魚道が必要だとして、川に張り出した階段状の魚道を提案した。さらにはこの階段状の魚道の入口から魚が入るためには深みが必要だからとして堰を提案した。
妹尾委員の提案では、下流で河床低下が進行し、岩盤が露出すると指摘したが、その場では地元住民の理解が得られず、大規模な魚道建設が決定されてしまった。
こうした行政主導の委員会ではどの委員会もそうだが、異論を吟味することなく、異論を排し、行政と専門家の馴れ合いのように大規模な魚道建設が決定されてしまうのだ。タイムリーなことだが、衆院憲法審査会で専門家の人選に失敗したなどと騒がれ、裏事情が暴露されたように、行政主導の委員会の人選は行政の都合の良い専門家を委員に据えることが常態化しているのだ。
魚道が完成してから、その後を取材しているが、とうとう河床低下で岩盤が露出し、川の荒廃が進み始めた。2つの堰には砂利が溜まり、魚道にも砂利が溜まり、機能不全。それどころか…下流では、あれだけあった砂利が、すっかり失くなって岩盤が広がってしまった。
川の荒廃ぶりを見ていると、コンサルが提案した構造物が、川を壊し、そして、次の工事を生み出す布石になっているように映る。
川に大きな影響を与える委員会には、利害関係者は絶対に入れるべきではないと痛感する。そして、大学教授という公職にあり、しかも河川の専門家であるのならば、この事業を承認した責任として、川を元に戻していただきたい。当初から委員会で、河床が下がり、岩盤化するとの指摘がありながら、それを認めず、この事業を進めた責任は重たい。
取材したこの日、地元住民は「工事後に河床低下が起きている。こんなことになるとは思わなかった、元の川に戻して欲しい」と、専門家らに憤っていた。
元の川に戻すためには、即刻2つの堰と川に張り出した魚道を取り除く以外に方法は無い。同時に、流れ去った巨石を探し出して、上流に戻す必要がある。急峻な川では巨石が川底を浸食から護り、露盤化することを防いでいるのだから。
おそらく専門家らは、札幌市を流れる真駒内川と同じように、砂利が流されるのなら、砂利が流されないように新たに堰を建設すると言うかも知れない。
しかし、河床低下が起きた現実を知り、大事な故郷の川を壊された地元住民をもう欺すことは出来ない。