2019年6月19日、当会のHPに以下の投稿が寄せられた。
「先日,厚沢部の小鶉川に行ったところ,取水堰堤の下流でグランドキャニオン化が進んでいて驚きました。今後どうなっていくのか不安です。良い渓流なのに残念です…」
頭首工の魚道建設から10年。厚沢部町の鶉川支流「小鶉川」の今を取材した。
当時、魚道建設の検討会で砂防学の中村太士・大学教授は、「河道に張り出すような魚道建設は止めよう」と発言していたが、魚類の専門家と称する妹尾優二氏が、砂利が溜まらないという安田式台形断面型魚道と、その魚道に上らせるためのダム(プール)建設が必要だと提案し、北海道檜山振興局はそれを採用して2009年に建設した。
役に立たない魚道が残り、その魚道に上らせるために必要として建設されたダム(プール)は、砂利を止めてしまった。その結果、下流側では川底の砂利が失われ岩盤の露出は広がり、サケもサクラマスも産卵する砂利も場所も失ってしまった。
サクラマス資源の保護目的の魚道に加え、ダムを建設したのだから、他の川同様に、ダムの下流で砂利が失われて岩盤が露出することは目に見えていた。それを知らない筈は無いと思うのだが、見事に岩盤を露出させ、産卵場を消滅させた魚の専門家と称する妹尾優二氏。魚の産卵の仕組みや魚の産卵場を形成する川の仕組みを知っているとは到底思われない。多くの川でダムの下流を観察していれば、こうなることは事前に予測できることだ。行政に”忖度”する専門家恐るべしだ。このままではサクラマスはいなくなるし、川岸が崩壊し、土砂・流木災害発生の兆しすら見える。サクラマスや川からしっぺ返しを受けるのは魚の専門家ではなく、他でもない地元の人たちなのだ。
露盤化してサクラマスが産卵できなくなったばかりではない。川底が掘り下がり、左右岸から砂利が転がり出しはじめている。このままでは大雨の時には川岸が「砂山くずし」のように崩壊するのは目に見えている。サクラマス資源を減らすばかりか、土砂・流木がこうして流れ出し、土石流災害や流木災害を発生させることになり、流域の住民の生命財産を脅かすことになるのだ。
ではどうすればよいのか?魚道に魚を上らせるとして建設したダム(プール)が砂利を止めているのだから、この2つのダムを撤去することが必要だ。小さな構造物だと思われるかも知れないが、写真で見てお分かりのように、小さな作用が「チリも積もれば山となる」の例え通り、下流側の砂利を一掃し、岩盤を露出させた。今後は河岸が崩壊し、土砂流木が流れ出す。災害を起こす前に一刻の猶予もない。
まずは事業者による現地確認が必要である。そのために北海道檜山振興局に現地調査を申し入れたが、「事業が終了し、厚沢部町に移管されており、現地調査することなど出来ない」と回答。こんな対応では道民の生命財産を守ることなど出来ないし、基幹産業の水産資源すら守ることも出来ない。北海道としてこうした対応が適切かどうかについて更に説明を求めたが、「当方が行う事業では、譲与後においては、構造物などに関する全ての権限が譲与先に移りますため、道には現地調査の要否判断を含め、一切の権限がないことをご理解いただきたいと存じます」と言う事だ。しかし、構造物の所有・管理の面ではなく、構造物の影響によって下流で発生している「河床低下」及び「路盤化」については別事象である。構造物との因果関係の面から調査するべきではないのか。