完成したサンルダム。サンル川は?サクラマスは?どうなるか。

2018年6月29日に試験湛水を開始、2019年2月11日に試験湛水が終了し、3月17日に竣工、4月から運用開始。サンルダムは完成したのである。

サンル川をせき止めたサンルダム。これでもう上流から砂利は流れて来ない。流れて来るのは泥ばかりになる。
  • 2013年11月18日

日本有数のサクラマス産卵河川として有名なサンル川に、巨大なダムが建設された。そのサクラマス資源を保全しようという魚道は、高さ46mのダム堤体に長さ440m、段差が25cmの階段が、ざっと数えて126段。更にサクラマスがダム湖に迷入しないようにダム湖を大きく迂回させて上流まで幅が3.7m、深さが1.4mの長さ7kmに及ぶ長大なバイパス水路(魚道)なのである。

サンルダム堤体からサンル川上流の魚道施設までは、延々7kmのバイパス水路(魚道)が敷設されている。
サンルダムの湛水域は広大だ。その湛水域を迂回するようにバイパス水路(魚道)が敷設されている。
サクラマスが産卵のために遡上していた支流はダム湖に水没し、その支流の上をバイパス水路(魚道)が跨いでいる。

ダム湖に注ぐ複数のサンル川支流の沢は、橋を架けてその上にバイパス水路を通しているので、サクラマスはこれらの支流で産卵することは出来なくなった。

サクラマスが産卵のために遡上していた支流の上をバイパス水路(魚道)が跨いでいる。
かつてサクラマスが産卵に上っていた多くの支流はサンルダムに水没した。つまり、本流と支流の産卵場所の多くを失ったのである。
バイパス水路(魚道)の水は、サンル川の川水を上流から取り入れた水のみだ。7kmを流れる間に水温の変動は避けられない。既に水路の底の石は泥を被っているので、水質劣化も進むだろう。魚たちは微妙な水温変化や水の臭いをかぎ分ける。この魚道を魚たちはどう判断するのか。
延長約7kmのバイパス水路(魚道)
バイパス水路(魚道)の底に敷き詰められた石。泥を被り、苔が生えている様から、水温は高いようだ。

バイパス水路(魚道)は、サンル川の上流に出口が設けられている。水路を上ってきたサクラマスは、ここからサンル川本流に入り、それぞれに産卵場へと移動して行くというシナリオだ。卵から孵化して春先に泳ぎ出し、1年の間、川で育ったサクラマス幼魚は降海するために春に川を下る。しかし、サクラマス幼魚がダム湖に入れば、ダム湖を海に見立てて、降湖型のサクラマスになってしまうのである。そこで、ダム湖に入れないようにサクラマス幼魚のすべてをバイパス水路(魚道)に導く仕掛けがされている。それは、サンル川本流の流れを堰で止め、その流れを施設に呼び込んで回転するドラムを通して、再びサンル川本流へと戻すというものだ。この回転するドラム仕掛けに、サクラマス幼魚が驚いて寄りつかないようにしているらしい。つまり、回転ドラムによって、サクラマス幼魚をふるいにかけ、バイパス水路に導くというのだ。果たして、そう上手くいくのか…?

サンル川から魚道施設に水を導くために設置された堰。上流側では、堆砂が上流に向かって溜まり始めている。増水したら容易に堰を越流するだろう。サクラマス幼魚も越流と共にダム湖に向かい、やがて湖沼型のサクラマスが出現することは目に見えている。

2019年11月2日に、この施設のすぐ上手の橋の上から観察したが、サクラマス幼魚をえり分ける施設へ本流の水を送り込むために造られた堰が、あまりにも低いもので驚いた。

サンル川上流の魚道施設に本流の水を呼び込み口。本流の水をせき止める堰の高さを見ていただきたい。低い!そして、堰の手前には堆砂が溜まっている。増水時には簡単に越流するだろうから、サクラマス幼魚は容易にダム湖に流れ込み、湖沼型サクラマスが出現することになるだろう。十分な検討がなされた施設とは思われない。

莫大な税金を投入したサクラマス資源の保全策の問題点。

1.サクラマス幼魚がバイパス水路(魚道)施設の堰を越えて、ダム湖に流れ込むことは免れない。何故ならサンル川の流れをバイパス水路(魚道)施設に呼び込むための堰には、既に堆砂が溜まっていて増水すれば、ひとたまりも無くこの堰を越流するからだ。サンルダム管理所長は「堆砂は取り除き、工事等で使用する」と言っているが、砂利を取り除くのは平水時である。だが、砂利が流れついて堆積するのは増水の時であるから、越流は免れない。サクラマス幼魚はダム湖へ流れ込むことになり、やがて降湖型のサクラマスが誕生してしまって漁獲は激減するだろう。

2.サクラマス幼魚は、1年の間、川に残り厳冬期を過ごす。越冬場所が随所に多くあったのだが、ダムの湛水によって悉く失われた。越冬環境に関する配慮はされていないのである。

左がサンル川。右に見えるのがバイパス水路(魚道)。サンル川の川岸にはアシヨシが張り出し、魚の越冬場所がたくさん見られていた。また、沼地や湿地があり、湧き水が多いことから、サクラマス幼魚の一大越冬場所になっていた。そこが水没してしまった(下の写真)のである。
良好な越冬場所(上の写真)が湛水域になり、水没してしまった。もっとも、サクラマス幼魚はこの場所への立入が禁止されている訳で、入ることは出来ない。
  • 撮影:2017年7月31日

3.サンルダムの126段もの階段魚道をどのくらいの数のサクラマスが上るのだろうか。魚道の下に100きたものが、100上がれば魚道の効果ありと言えるだろうが、それは誰も確認出来ない。魚道を上れなかったサクラマスや上らなかったサクラマスが、ダム直下にある一の沢川に押し寄せて産卵することになるだろう。そこには太古から繰り返し産卵を営むサクラマスがいるのに、新参者と競合し重複産卵し、互いに減らし合う事になるから資源は減少することになる。共にダム下の本流で産卵しているサクラマスも、重複産卵によって減少することになるだろう。

サンルダム直下。魚道の入口は左側の隅っこにある水路だ。サクラマスが100来たものが100上るという裏付けは全くない。1尾でも上れば効果有りと容認されるのだ。おかしな科学がまかり通る今流行の「忖度」魚道そのものである。上らない、上れないサクラマスは、やむを得ず付近で産卵する。他のサクラマスと産卵が競合し、互いに減らし合うことになる。大きな問題なのだが、何故か誰からも声が上がらない。
橋から見た一の沢川。水辺はなだらかで、石は苔むしている。しかし、ダムの影響で川底の砂利が流れ出すようになり、川底は下がり、川岸に段差が出来て崩れるようになっていくことだろう。ここもサクラマスの産卵場所は不安定になり、資源は減少することになるだろう。
水面までなだらかな水辺の一の沢川。サンル川の川底の砂利の減少と共に、河床の砂利が失われ、段差が出来てくるだろう。また、苔むした石もなくなる。こうした変化はダムの影響の特徴なので、ぜひ着目していただきたい。
サンル川と一の沢川の合流点。一の沢川の河床の砂利が流れ出すようになると橋と道路の取り付け部にある「橋台」の基礎部が次第に剥き出しになってくる。また、川岸にも段差が表れてくる。河床低下を視覚的に捉えることができるので、ぜひ、着目していただきたい。

サンル川は濁りの少ない川である。岩盤の上の砂利がサクラマス資源を支える要になっている。ダムによって下流に流れる砂利は、完全に止められてしまった。しかし、ダム下流の流れは砂利を運ぶ「掃流力」があるので、ダム下流の本流の川底の砂利が持ち去られることになる。岩盤の川であれば、露盤化し、そこに支流があれば、支流の砂利まで抜かれていくことになる。ダム管理者が「堰に溜まった堆砂は取り除き、工事等で使用する」と言っていることは、川の砂利がサンル川の河床を安定させる役割を担っていることに気が付いていないと言う事である。こうした意識でいる限り、やがてサンル川には、続々とコンクリート構造物が造られることになり、川は壊されていくだろう。

サンル川が注ぐ名寄川の合流点付近の川岸に堆砂している礫は、微細な砂やシルト分が見られず、粗い礫になっている。

サンルダムの下流、名寄川との合流点付近。サンル川の方には大小の砂利が多く見られるが、合流地点の名寄川は岩盤が露出しているところが多い。
サンル川と名寄川の合流点から100mほど下流の名寄川の右岸。学生がいる側がサンル川の流れが強く影響し、ここにある砂礫はサンル川から流れてきたものと思われる。
水辺の砂を一握り採取してみた。微細な砂やシルト分は全くない。粗い礫砂で、さらっとしている。
近くの川で、水辺の砂を見てほしい。こんなにもさらっとした礫砂はどこにもないだろう。微細な砂やシルト分が見られない良質な川だ。
流れる水にはうっすらとお醤油を薄めたような色が。流域の林床土壌を抜けてきた栄養分豊富な水。川の幸、海の幸を支える大切な水質だ。

サンル川の良さは、微細な砂やシルト分が少なく、森林土壌を抜けてきた栄養豊かな水が流れているところにある。サンル川が育むサクラマスは豊穣な川の証でもある。そこにサンルダムを建設してしまったことは、取り返しがつかぬ失政である。サクラマスが減少するばかりか、巨大なダムの底には膨大な泥が溜まり続け、ひいては名寄川から天塩川、沿岸に至るまで広域に影響を与え、不毛の川に変えてしまうことだろう。近年、毎年のように想定を超える豪雨があり、各ダムは「異常洪水時防災操作」による緊急放流を行い、その下流を水没させて人命財産を奪っている。川の水は集めず分散させればエネルギーは小さく被害は軽微で済むが、その水のエネルギーを膨大に集めて、わざわざ破壊力を高めてから緊急放流する。すなわち「異常洪水時防災操作」によって流入量と同じ量を短時間に放流するため、下流では水位が急激に上がるので、破壊力が増大するのだ。ダムは、まさに百害あって一利無しのやっかいな代物である。