増水時の現場は?スリット化した砂蘭部川1号砂防ダム

地図の出典:電子国土地理院

北海道南部、遊楽部川支流の砂蘭部川にある2基の砂防ダムのスリット化が決まってから11年の歳月を経て、上流側の1基のスリット化が2024年3月に終了した。

砂蘭部川1号砂防ダム。スリット化が決まってから11年目にして、2024年3月までに実現した。
スリット化後、砂防ダムの堆砂は少しずつ流れ出している。砂防ダムの宿命は流れて来る大小の砂利を上流に向かって止めども無く貯めていくことにあり、上流のV字谷を埋めて、流路が左右に蛇行するような暴れ川にすることにある。そのため、山裾が浸蝕され、立木もろとも山の斜面が崩れ落ち、土砂・流木を発生させるようになる。撮影:2024年7月16日。
撮影:2024年5月14日。

2024年7月29日、24時間雨量が70㎜ほどの降雨で、川は増水し、砂蘭部川も酷い泥水が流れ出した。その様子をご覧頂きたい。堤体に開けられたスリットの間口は7.6mだが、堤体部で水位が上昇しており、砂利が正常に流れ出すことを考えれば、間口は狭い。

撮影:2024年7月29日。
撮影:2024年7月29日。
撮影:2024年7月29日。
スリット化した砂蘭部川1号砂防ダムの下流側。

この砂蘭部川の上流には、さらに国有林内に1基の治山ダムがある。砂利を止める治山ダム・砂防ダムの影響で、V字谷が砂利で埋まり、流路が暴れて山の斜面をズリ落とし、下流では河床を掘り下げて山の斜面がズリ落ちる。そして川岸は崩壊し、根っこ付きの流木が流れ出す。崩れた山や川岸から土砂が流れ出し、このように、ひどい泥水が流れ出すようになるのだ。

撮影:2024年7月29日。
砂蘭部川2号砂防ダム。上流からの砂利の供給を絶たれ、2号砂防ダムの下流の砂利はすべて流され、軟弱な岩盤が露出し、河床は浸食され、細く溝状に堀下がり続けている。
コンクリートブロックは水面下にあり、巨石ゴロゴロの河原だったのに…砂利がすべて流され、軟弱な岩盤が露出し、どんどん浸食されて河床が下がっていく。撮影:2024年7月17日。
川底が下がれば、「砂山くずし」的に山が崩れ、川岸が崩れていく。撮影:2024年7月17日。
河床低下は「砂山くずし」の原理で、次々に山や川岸を崩壊させていく。放置しているから災害が多発化、災害規模が拡大していくばかりになっている。撮影:2024年7月17日。

河床低下は全国津々浦々の河川で、確実に進行している。それを多くの人たちは知らない。河川管理者や川の専門家には、昔の川、本来の川の姿を知っている人がいるのだろうか?川の現場を見る限り、川を読み解ける専門家は皆無だ。

川のそばで暮らし、時には川からひどい目に遭わされながらも、それでも、川の恵みを知り、川の生理を読み解き、川に助けられ、川と共に生きてきた人は、今ではすっかりいなくなってしまった。

「雨が降れば濁るのがあたりまえ…」…すっかり洗脳され、誰もがそう思い込んでしまった。この”事実誤認”が、極めて危険な時代に突入していると言えよう。