40年ほどにもなる毎年恒例の八雲町教育委員会主催の春の行事である遊楽部川「サケ稚魚の観察会」を、3月28日に行った。
前年に、秋から冬にかけて川に戻ってきたサケたちが産卵する様子を観察し、産み落とされた卵が、自然の川の中でふ化して、春先に泳ぎ出してくるサケの稚魚たちを確認するこの観察会を子供たちは楽しみにしている。
この観察会の”核心”は、「サケの親たちは産卵後に死んでしまって、産み落とされた卵は放置されたままになるけど、卵はちゃんと育っている。卵は、誰も面倒を見てないのに、春には稚魚になって川に泳ぎ出してくる」…即ち、親がいなくても「川には卵を育てる仕組みがある」ことに、気付いてもらうことにある。
昨年の初冬のころにも、たくさんのサケが産卵していた。
ところが…
観察会の当日、まったくサケ稚魚はいなかったのだ。40年間の観察会で、サケ稚魚が見られなかったのは初めてのことだ。
遊楽部川は、ダムの影響が無かった時代には、10万尾もの巨大な「鼻曲がり」と言われる遊楽部川固有サケが遡上する北海道屈指の川だった。サケ稚魚の観察会を始めた当初は、2月上旬に行っていたが、次第に見られなくなり、2月中旬→2月下旬→3月上旬→3月中旬に…とずらし、現在は3月下旬に行うようにしていた。4月に入ればふ化場からの稚魚の放流が始まるので、「卵を育てる川の仕組み」を学ぶという目的が無くなるからだ。
上流にある治山ダムは、下流の川底を掘り下げ、川岸を崩すので、増水時にはひどい泥水が流れる。写真のように、泥水の痕跡が川底にしっかりと残っているのがお分かりいただけると思う。川底に堆積した砂泥が、石と石のすき間を塞ぎ、川底に産み落とされたサケの卵に湧き水が届かず、卵の回りの水が入れ替わらないので酸素不足で窒息してしまい、あえなく死んでしまったと容易に想像できる。つまりは、「卵を育てる川の仕組み」が、ひどい泥水が運んで来たこの砂泥によって、壊されてしまったということだ。
「親がいなくても、卵が育つ」つまり、川底には卵を育てる仕組みがある(自然界の再生産の仕組みがある)ことを知る観察会の意味を失ってしまった。がっかりだ。この場所には、アメマス、ヤマメ、ウグイ、カジカ、ウキゴリ類、フクドジョウ、スナヤツメなど、多くの種類の魚がいたが、今ではすっかり姿を消した。川底の石をはぐっても、水生昆虫は殆ど見られなくなっている。とうとう遊楽部川は不毛の川と成り果ててしまったか…。
河川管理者に川を保全する意識は無いし、サケの専門家や大学教授たちにも、魚が棲める河川環境を保全する意識は無い。子供たちから環境教育の場を奪い、川で魚の命の営みを観察することすら奪っている。研究よりも現場の足下を見てください!足下に気がつかないと、自然財産を悉く失ってしまいますぞ~!
専門家や大学教授の先生方に、遊楽部川のほとりにある小説家・鶴田知也さんの碑にしたためられた一筆を送ります。
不遜なれば 未来の 悉くを失う 鶴田知也