大千軒岳のヒグマ事故…「ヘア・トラップ」調査の実態

2023年10月29日大千軒岳登山に向かった大学生、10月31日に捜索の下見に出かけた消防隊員が共に、登山道で同一のヒグマに襲われる事故が発生した。

出典:北海道新聞(2023年11月10日付)。

「北海道のヒグマ問題を考える会」が調べたところ、大千軒岳周辺で、大規模に「ヘア・トラップ」調査が行われていることが解った。

R5入札公告文_北海道告示第10737号

R5道総研・業務処理要領(案)

R5業務処理要領(案)【別添1手順書】

R5業務処理要領(案)【別添1-1 平面図、立面図】

出典:R5業務処理要領(案)【別添 位置図】大千軒岳

更に、北海道渡島総合振興局のホームページに、ヘア・トラップ調査実施中の記事が添えられているが、このような記事が公表されていたことに気付いていた方はいますか?こんなに数多く設置されていたことを知っていましたか?

出典:北海道渡島総合振興局ホームページ

この「ヘア・トラップ」調査は、ヒグマをおびき出すために「誘引物質」を設置して、やってきたヒグマから”体毛”を採取して、DNAデータを得ようというものである。

「ヘア・トラップ」の仕組みは、クレオソートを塗った柱にバラ線を巻き付け、さらにバラ線で囲いを設けて、クレオソートの香りに惹きつけられてやって来たヒグマがバラ線を巻いた柱に背中をこすりつけるのを期待して、このバラ線に体毛を引っかけて採取しようというものである。

このヒグマをおびき出す「誘引物質」とは、家屋の木材の防腐剤にも使われる「クレオソート」で、この香りでヒグマをおびき出す調査手法なのだが、これは「ヒグマの餌付け」行為と何ら変わりない。撮影では御法度の代物だ。何故なら、ヒグマの普段の行動を撹乱することになり、撮影後にヒグマの行動がどのように変わるのか予測がつかず、その結果、そこで暮らす人たちを危険に曝すことにもなりかねないからだ。ご存じのように、ユーチューバーがピザパイでヒグマをおびき出した事例もあり、餌付け行為は、危険極まりない行為だ。

「餌付け」は絶対にやってはいけない。

北海道や研究者たちは、住民に対してはヒグマを誘引するようなものは外に置かないように広報、指導している一方で、行政自らが、研究者たちと手を組んで、餌付けでヒグマをおびき出して調査研究を行っている。本末転倒極まりない。

大学生と消防隊員が襲われた大千軒岳周辺で行われている「ヘア・トラップ」設置箇所を、登山道図や国土地理院の地図に書き込んで見た。

出展:渡島総合振興局のホームページ。この図に、ヘア・トラップの設置箇所を書き込んだ。
出展:電子国土地理院の地図に、ヘア・トラップ設置箇所を書き込んだ。

設置した箇所は赤丸、2023年度には設置しなかった箇所は白抜きの赤丸で表示している。設置箇所について、渡島総合振興局に確認したところ、事故地点で今回は設置しなかったと言うが、「誘引物質」でおびき出されたヒグマは新たにこの「誘引物質」を索餌する行動が励起されることになり、今まで行くことがなかった場所まで行動を拡大することが容易に想定できる。

「誘引物質」の香りの味をしめたヒグマが行動域を拡大するのは明らかなことだ。事故ではなく、事件の可能性もあり得ると言えよう。ヒグマの出没、事故件数が増え始めたのも、2008年頃から始まった北海道と研究者が行う「ヘア・トラップ調査」の時期に符合しているではないか。今後、環境省からもヘア・トラップに関する予算が付くようなので、更に広域で大規模なヘア・トラップ調査が展開されるだろう。

現在、ヘア・トラップ調査は、渡島半島の鹿部周辺、富良野、知床、興部、札幌市、旭川など、広域で、大規模に行われている。釣り人、登山者、ハイカー、山菜・きのこ採り、草花を愛でに散策するために川や山林に入る人たちが、これまで以上に、ヒグマに遭遇する可能性が高まるだろう。調査研究のために、私たちは「危険に曝されるようになる」ことを肝に銘じていただきたい。