せたな町大成区の臼別川にある砂防ダムは、サクラマス保護河川でありながら、砂防ダムが4基(うち1基は堆砂で埋没)、最上流部に治山ダム1基が設置されている。それぞれのダムに付けられた魚道は、直ぐに閉塞して機能せず、これまで漁業者が清掃を続けて来た。魚道の維持管理は困難であり、資源回復にはダムの撤去が望ましく、遂に漁業者からダムをスリットさせる要望が出された。2021年6月15日、スリット化着手前のサクラマス稚魚(0+)調査を行った。
まず、臼別温泉上手にあるB砂防ダムの堆砂域へ下りる。ここから上流域へ進む。
右側に魚道の出口が見える。
B砂防ダムの堆砂域ではアメマス稚魚(0+)はいたものの、サクラマス稚魚(0+)は確認できなかった。
そして、C砂防ダムが目前に立ちはだかる。
このC砂防ダムに取り付けられた魚道には水が流れていなかった。フキまで生えている状況から長いこと機能していないことが分かる。
C砂防ダムの魚道の水路は泥で埋まり、オニシモツケ、イラクサ、イタドリが繁茂していた。C砂防ダムの堆砂域は、やや石は大きくなったものの大きさは均一で、砂が多い。渓流なのに、これではどう見ても中流の様相だ。
C砂防ダムは、堆砂で満砂状態なので堆砂域を上流へと広げ、その上流にあるD砂防ダムの堤体を埋めていた。驚くべき堆砂量である。
C砂防ダムの堆砂によって、D砂防ダムの堤体が埋没していた。
埋没したD砂防ダムの堆砂域に注ぐ小さな川の出合いで、陸封された体長20㎝ほどのアメマスを見つけて観察した。
CからD砂防ダムへと続く堆砂域の上流にあったE治山ダム。最上流部の治山ダムさえも魚道は砂利で埋まっていた。
E治山ダムの堆砂がどこまで続いているのかを調べる為に、更に上流へと向かった。やや大きめの石が現れるが、おしなべて同じ大きさのものが多い。
E治山ダムの堆砂域の上端付近。ここから巨石が見えてきた。苔むした本来ある姿の渓流が…しかし、サクラマスはここまで来られる術が無い…。
B→C→D砂防ダム→E治山ダムの堆砂域を調べた後、A砂防ダムの堆砂域に注ぐ臼別温泉脇の小さな支流を調査した。
次に、A砂防ダムの堆砂域でサクラマス稚魚(0+)を探した。魚道は、出口の方へ押し出された砂利でチョロチョロ水が注ぐ程度になっていた。これではサクラマス親魚は遡上出来ない。
A砂防ダムも満砂状態で、小石と砂ばかりだ。
A砂防ダムの堆砂域の細流でサクラマス稚魚(0+)を見つけることが出来た。
その後、A砂防ダムの下流側でも探したが、見つからなかった。
A砂防ダム下流の淵にはサクラマス親魚がいた。ダムの魚道は上れないので、やむなく下流で産卵するしかない。
調査データを地図に落としてみると、昨年はA砂防ダム魚道は機能していたようだが、稚魚(0+)の数から、遡上したサクラマスは少なかったと思われる。また、B砂防ダムの魚道は機能していなかったことが伺える。A砂防ダムから下流では稚魚(0+)が見つからなかったことから、産卵場所がなかったのか、卵が育たなかったのか?分からない。そして、サクラマス親魚が遡上してきているのに、A砂防ダム魚道は機能していない為、上流へ上ることは出来ないでいた。サクラマス稚魚(0+)が見られたのは細流ばかりだったことから、川岸の多様な流れが必要だと分かる。砂防・治山ダムがある川では河床低下が進行するために、川岸の多様な流れが失われるので、稚魚(0+)の生育には不利となる。
今回の調査で言えることは、①砂防・治山ダムの魚道はすべての魚道が機能していなければサクラマス資源は減少する。②ダムの堆砂域は上流へと広がり、かつ、河床の透水性が萎えるので産卵場所が減少する。(B砂防ダムから上流において、アメマス稚魚(0+)が見られたが、数が非常に少ないことから、アメマスですら産卵に適した場所が無かったと伺い知ることが出来る)③ダムの下流では微細砂・シルトが河床に堆積するので、産卵が行われても卵が窒息し育たない可能性が大きい。あるいは河床に微細砂・シルトが堆積して産卵に適した場所が失われている可能性が示唆される。(A砂防ダム直下ではサクラマス稚魚(0+)が見られなかった)
以上から、砂防・治山ダムがあるだけで、サクラマス資源が減少することは明らかである。臼別川でも、サクラマス資源が激減していると言える。せたな町では釣り人と漁師たちが毎年、臼別川の魚道清掃を手がけており、何度か私たちも参加したが、魚道内の砂利のかき出し、魚道出口を塞ぐ砂利の除去、出口から流れに繋ぐ溝掘りをしなければならず、大変な労力が必要だった。汗を流して奮闘しても、その後の増水で再び塞がるのだから、まさに労あって益ナシの徒労に終わる。魚道の維持管理は極めて困難なのである。
臼別川のサクラマス資源を回復させるためには、一刻も早く5基のダム撤去が必要であり、まずスリット化することにより、サクラマス親魚が確実に遡上できるようにさせ、且つ、至る所で産卵出来るような川の仕組みを蘇らせることが必要だ。間口を広くスリットすればするほど維持管理は不要となるし、水質良好な川なのだから、改善しさえすれば、間違いなくサクラマス資源は回復し増加する。