砂蘭部川1号砂防ダムのスリット化をする前に、堤体の肉付け工事が始まった。ダムの間口7.6m、深さ4mでスリット化すると、堤体が軽くなるので、その重量分をコンクリートで肉付けて補う必要な工事であると河川管理者は説明している。(下図の赤斜線部分を肉付けする)
この砂防ダムの堆砂は樹林化して、もはや陸地となっており、スリット化しても堤体はもともと十分な重量がある。下流側の堤体の基礎が掘られない限りは倒れることなどあり得ない。スリット化後の堆砂は川岸となり、一部は流れ出し、堤体に現状以上の加重はかからない。スリットで水位も大幅に下がり、堤体にかかる水圧は大幅に減少する。従って、堤体の補強は不要であり単なる税金のムダ使いである。
せたな町の「良瑠石川」では、4基の治山ダムの堤体を補強せずにスリット化している。その後、堆砂は樹林化して陸地になり、安定した川岸になっている。川や沿岸は良好に回復し、地元は大きな恩恵を受けている。堤体が倒壊する心配など微塵もない。砂蘭部川河床低下対策検討委員会に於いて、現地視察の申し入れをしたが、拒否された。ダムのスリット化で川が安定した現場を委員に見られたくなかったのだろう。
ダム堤体の強度は過剰なほどに強力なものだ。しかし、函館建設管理部は、「肉付けしなければスリット化はできない」と説明する。堤体の補強の必要性など単なる飾り文句であって、「税金のムダ使いをさせなければ、スリットしてやらないぞ」という町民に対する一種の脅しのようなものである。河床低下がどんどん進んでいる中で、ダムにスリットを入れて砂利を供給する必要があると決断されてから、検討委員会で時間ばかりを稼ぎ、スリット化を1年、また、1年と先送りしてきた。その間にも河床低下は進行し、下流で被害が起きている。その度に支出される国からの災害復旧費は莫大なものだ。ダムのスリットが遅れれば遅れるほど、税金は事業者の采配に委ねられる。
下流の町道護岸や砂蘭部橋の崩壊の危機が迫る中、何度も補修を繰り返している。これが地方の現実である。公共事業の評価委員会が機能していないから、やりたい放題になっている。砂蘭部川河床低下対策検討委員会には河川学の専門家2人が専門委員として参加している。科学を志す気持ちがあるのなら、真摯に現場を科学してほしいものだ。
河川管理者は、町民の生命財産を脅かし、資源をも奪う。
始まったこのダム堤体肉付け工事を取材すると、サクラマスの産卵床を重機や資材を置いて潰されようとしていた。函館建設管理部は、これまでコンサルにサクラマスの産卵床調査をさせている。にも拘らず、毎度のことのように、調査データを活用しないのである。コンサルに税金でわざわざ調査させた目的は何なのだろうか?現場工事のおじさんが、「着手前に函館建設管理部の責任者が立ち会ったけど、サクラマスの産卵床への配慮は何も言われなかった」と言う。
サクラマスの稚魚が川底から出てくる間に、当該工事で泥が流れれば、川底の石のすき間が泥で塞がる。サクラマスの子どもたちは窒息して全滅である。北海道は生物多様性保全条例を策定し、資源が乏しくなっているサクラマスを危惧しながら、現場では枯渇させるようなことをしている。これから孵化に向けて育まれるサクラマスの卵を潰してまで、この時期の今、工事に着手する判断をした函館建設管理部。こんなことを北海道の河川管理者が繰り返しているから、遊楽部川の南限のシシャモやキュウリウオも、北限の尺鮎も絶滅させてきた。環境破壊を続ける反省無き集団、河川管理者。あなた方の子々孫々の財産をも失っていることをわかっていますか?
着手された工事に不備があって、その不備を事業者に指摘すれば、工事日程が狂い、業者が困ることになる。河川管理者は、自らの不手際を認めず、「保護団体が口出したからだ」と説明し、業者の不満の矛先を私たちに向けさせる。こうして、私たちは業者から敵視され、悪者にされていく。行政は自らの不手際の責任は取らない。それどころか切羽詰まれば、業者に責任を転嫁して業者を処分するのである。
【参考】もしもあなたが、善意から、事業の不備を行政に指摘したとします。指摘したあなたは、あなたが知らない間に、業者間で悪者にされているかも知れません。あってはならないことですが、行政とはいっても担当者も人間ですから、保身のためにはあなたの個人情報をも業者に漏洩しますので、くれぐれもご注意ください。現場の業者は、工事の発注者の指示通りにしますので、業者側に責任が無い場合が多いのです。行政は指導・監督・検査の責任があるので、問題が生じた場合、適切に業者を指導しなかった行政の手落ちの場合が殆どだと思ってよいでしょう。行政に指摘するだけでなく、業者側の人にも、行政の手落ちや不備を説明した方が、後々によいでしょう。