2018年8月8日、治山ダム4基をスリットした良瑠石(ラル石)川が、その後どうなったのか?パタゴニア札幌スタッフと現地を踏査した。河川管理者は、ダムをスリット化すれば、流れ出した土砂や流木で下流の橋が被災し、その先の集落が孤立する危険があると説明していたが、本当にそうなったのか?
まず、2基の治山ダムをスリット化した支流へ入った。小さな砂利が目立つ程度で、川が荒れた痕跡は無い。巨石が挟まり合って川底を安定させていた。
支流の川は急峻だが、スリット化後にダムに貯まっていた堆砂の全量が流れ出すような事態にはなっていなかった。増水時に流れている堆砂の量は少なく、大半がそのままに残っていた。
次に本流へ入った。
砂利の流下が安定してきたところで、今度は魚道が砂利の流下を妨げるようになり、直下では僅かに河床が下がり始めている。魚道がある区間ではサケは産卵できない。撤去すればここにも産卵できるのだから、蘇った川には無用の長物である。
河川管理者は、ダムをスリット化すれば「堆砂の全量が流れ出すから危険だ」、「流木が橋を壊す」と説明していたが、橋を壊すような流木も無ければ、土砂災害を発生させるような土砂も流れてきていない。むしろ、砂利が流れるようになって川は安定し、元の自然の川に蘇っていた。
ダムのスリット化で川が蘇ったことで、サケやサクラマスの産卵域が広がり、水産資源が増大している。地元の漁師は「サケの漁獲が落ち込んでいるのに、この地区では漁獲量が増えた」と言う。そして「泥水が流れなくなったので、海藻の育ちがよく、良質なコンブが採れ、ウニが大ぶりになって実入りがよい」と言う。現場の漁師が実感しているスリット化の効果は絶大だ。この川にあった砂利の流れる仕組みが蘇るだけで、サケ・サクラマスの再生産の仕組みが復活し、沿岸の海藻も育ちがよくなり、水産資源が増大することが証明された。ダムのスリット実現まで苦悩した漁師や釣り人の功績である。この川が教えてくれることは絶大だ。