NHKが報道した芽室川の災害の現場…①

2018年7月3日、大雨に備えて災害復旧工事が中断されていた芽室川3号砂防えん堤を取材した。昨年、2017年9月1日放送のNHK「北海道クローズアップ」で、大学教授が芽室川3号砂防えん堤の直下で川底が深く堀下がった河岸に立ち、「川底に堆積していた土砂が大雨で流されて下流で土砂災害を発生させた」と解説していたその現場だ。NHKは大学教授の説を追認するようにアニメーションを作成して解説している。

十勝の災害・現場の取材を怠り、専門家任せで真相が見えないNHK記者

芽室川3号砂防えん堤直下では災害復旧工事が行われていた。元の川底の位置に戻すのではなく、深く掘り込んだ川底の位置に合わせて周辺を大規模に掘削する工事が行われていた。撮影:2018年7月3日。
大雨に備えて、工事が中断されている現場には誰もいない。撮影:2018年7月3日。

NHKの番組映像では、芽室川3号砂防えん堤の直下の川底は、細く深く堀下がっていた。その後の災害復旧工事の現場は、川底が深く堀下がった河床レベルに合わせるように、周辺を大規模に掘削して川幅を広げ、コンクリートでガッチリ固める工事をしていた。川底が深く堀下がった堤体の下流部はダム特有の河床低下の姿だ。専門家の解説は、川底に大量に溜まっていた土砂が流されたというのだが…現場を見る限り、どこに、土砂が大量に溜まっていたのだろうかと疑問を抱く。なぜなら、川底の地層そのものが深く浸蝕されていたからである。

元々の河床(川底)はかなり上だ。写真のように水が流れているのは深く堀下がった遙か下方になっている。ここに膨大な土砂が溜まっていたというのだ。信じがたい説明だ。 撮影:2018年7月3日。

川底が堀下がった両岸には元の河床(川底)の位置を示す大小の石が堆積した地層が見えている。大小の石の層の下の地層が侵食されて深く掘り込まれている。そしてその地層の両岸が崩れ落ちたり、立木が倒れ込んでいるのだった。ドローンで上空から3号砂防えん堤の前後を調べた。

芽室川3号砂防えん堤の堆砂域は上流へ上流へと広がっており、川幅は異常なほど広く、平になっている。この平になった堆砂面を流路が左右に暴れ回って、左右両岸を浸食しているのがわかる。撮影:2018年7月3日。
手前の橋は、上流から流れてきた流木で塞がって、橋の取り付け部が流されたと思われる。この橋の下流に災害復旧工事中の芽室川3号砂防えん堤が見える。さらに、3号砂防えん堤の下流は流路が狭まっているのがよく分かる。川底が深く侵食されていると分かる。撮影:2018年7月3日。
休工中の芽室川3号砂防えん堤の災害復旧工事現場。撮影:2018年7月3日。
芽室川3号砂防えん堤直下では川底が細く堀下がっているのが分かる。また、左右両岸を大規模に掘削して、掘り下げている様子もよく分かる。撮影:2018年7月3日。

芽室川3号砂防えん堤の上流では膨大な堆砂が溜まっており、上流へ上流へとさらに溜まり続け、川幅が平に広がり、平になった堆砂面を流路(澪筋)が左右に蛇行しているのが見られた。流路(澪筋)がぶつかった川岸がそれぞれに浸食されている。こうして、この3号砂防えん堤の堆砂域で発生した土砂や流木が橋に押し寄せて、橋の間口を塞ぎ、流水が橋の取り付け部へ流れ出し、橋の取り付け部の道路を流したと思われる。一方、堤体にも流木や土砂が大量に押し寄せているが、堆砂域の立木に土砂や流木が止められ、堆積している。つまり、上流から流れてきた土砂と流木は、えん堤の堆砂域で大半が止まり、堤体から下流へ流れ出した土砂・流木はそう多くは無かったことを物語っている。その証拠が堤体直下から見られる「川底が(侵食されて)深く堀下がった姿」だ。即ち、3号砂防えん堤の下流側に大量の土砂が堆積していたとは考えられない。仮に3号砂防えん堤から膨大な土砂が流れ下ったとすれば、堤体の下流側は土砂で埋まっていなければならないからだ。

3号砂防えん堤のずっと上流には堤高3mの2基の「床固工」があり、上流から流れてきた大量の土砂で埋まっている。

上流から流れてきた大量の土砂と流木で堤高3mの芽室川2号床固工は、埋まっている。撮影:2018年7月3日。
その更に上流には堤高3mの芽室川1号床固工があるが、ここも上流から流れてきた土砂・流木で埋まっていた。撮影:2018年7月3日。

以上のことから、上流から流れてきた土砂・流木の多くは流速が弱められる芽室川3号砂防えん堤で止められた結果、堤体の下流では土砂供給が少ないため、河床低下が急速に進み、堤体直下の叩き台や魚道の基礎が抜かれて、グシャグシャに崩壊したと思われるのだ。3号砂防えん堤の下流域へ到達したという土砂・流木は、3号砂防えん堤の下流で進行している河床低下によって両岸が崩壊した結果、そこから発生した土砂・流木が押し寄せたものと言えよう。

一方、NHK「北海道クローズアップ」の報道は、河床に大量に堆積した土砂が災害の原因としている。だから、河床に堆積した土砂が今後も流れ出すだろうから、この土砂が下流に流れてこないように、土砂を止めるダムを更に建設する必要がある…と、結論づけている。芽室川3号砂防えん堤が、河床低下を促進させ、このことが土砂・流木を発生させて災害を引き起こしたという本質とは異なるものとなっている。3号砂防えん堤前後の特徴ある状況を自らの目でしっかりと観察し、疑問を投げかけて、そこから読み解く正確な検証を行って報道をしていただきたい。