「伝えられない二つの真実。南富良野町幾寅の水害」:(2016年10月10日の当HP記載)甚大な水害から2年を経た。南富良野町幾寅の空知川では堤防が強化された。河畔林を皆伐し、川底の石は大小ともに取り除かれ、河道は大幅に広げられた。
この改修で、気がかりなことがある。確かに川幅を広げると効率よく水が集められ、下流へと送られる。しかし、その先に水を貯める金山ダム湖があり、今よりも一層速く貯水面が上昇するからだ。洪水時にダムは下流の水害防止のために貯水する。貯水面は確実に上昇し、市街地へと迫っていくことになる。北海道開発局では下記のような資料を公表している。
図示されているように、金山ダムが洪水を貯め込めば貯め込むほど貯水面が上昇し、幾寅市街地へ迫っていくことが分かる。
水害当時の金山ダム湖の貯水と放流のグラフを見てほしい。
平成29年2月27日に公表されたこのグラフから、8月31日の午前0時過ぎに流入量がピークに達し、貯水量は急激に増加していることが分かる。住民の話では、午前1時30分過ぎには濁水が市街地に流れ込み、押し寄せてきた洪水から逃げたと言う。つまり、午前1時30分にはすでに破堤していたことが伺える。しかし、開発局は破堤した時刻を午前4時40分としており、住民の声とのズレがある。洪水で水位が上昇していた空知川は、金山ダムの貯水面の上昇に伴って水位が一層押し上げられていたと言える。加えて、破堤した場所は右カーブした左岸で、元々そこにあった河畔林は2007年6月に皆伐している。ここから下流側の左岸にある河畔林に夥しい流木が押し寄せ、水位をせり上げたことは間違いない。こうした状況が競合して水位が急上昇し、堤防から溢水したといえる。上の読売新聞社が撮影した濁流写真は、破堤してから8時間後の写真だ。金山ダムの貯水面が、かなり下がってからの写真であることに留意していただきたい。
これに対し、北海道開発局札幌開発建設部は「平成28年度・平成28年台風大10号による南富良野町幾寅築堤の被災状況とその特性・6.被災メカニズム(下流決壊箇所)の(3)ダム貯水位の影響」で、「金山ダムの最高貯水位と幾寅市街地の地盤高の差は4~5m程度あり、かつ、空知川は急勾配であるため、金山ダムの貯水位は幾寅市街地までは及ばない」とし、「堤防の決壊を確認した直後に、大平橋下流で射流が発生していた」という理由で、射流の写真(8月31日AM5時ごろ撮影)を添えて、それを説明している。だが、金山ダム湖の最高貯水位(345m)は市街地に水が押し寄せた8月31日1:30のデータではなく、何故か水が引いた後、約20時間後の21:00のデータを使っている。その上、金山ダム湖の水位データが、遠く離れた流入部のデータと同じであるはずもなく、おかしなデータなのである。
午前1時30分、金山ダムは下流の洪水被害を防止するために貯め込めるだけ洪水を貯め込んでいた時間だ。洪水調節のための放流は、金山ダムへの流入量がピークを超えた午前5時40分から始めたという。実際は、破堤時刻の午前1時30分には貯め込んでいた金山ダムの貯水面は上昇の一途にあり、幾寅市街地へ迫っていた筈だ。また、「射流」があったという説明も辻褄が合わない。実際に破堤した時刻から約5時間も経過し、貯水面の水位が既に下がっている午前5時頃の確認となっているのである。市街地の冠水や破堤時に貯水面が影響していないという説明に整合性がない。
もう一つ、腑に落ちないことがある。北海道開発局は冠水した幾寅市街地をドローン映像で公表しているが、金山ダムの貯水面が写っている映像・写真は一切ない。金山ダムの貯水面と幾寅市街地が冠水した関連性に関わる映像は、公開できないということだろうか。下流域の水害防止を目的に放流を我慢した。そのためにダムの貯水面の水位が上昇。破堤を誘引し、幾寅市街を水没させ、甚大な被害を発生させたことは拭えない。今後、このような水害を起こさないために、隠すことなく正確な検証が必要である。