「トンネル掘削土に有害重金属が含まれている」…町民に広く知れ渡る

八雲町の立岩トンネル工事現場・撮影:2016年5月23日
八雲町の立岩トンネル工事現場・撮影:2016年5月23日
120mほど掘り進んだと言われる立岩トンネル。酪農の町、八雲町の顔でもある牧場を分断して建設が進められている。撮影:2016年05月23日
120mほど掘り進んだと言われる立岩トンネル。近年、「八雲牛」としてブランド化に熱心な八雲町。放牧された牛たちの前を牧場を分断して掘削は進む。撮影:2016年5月23日

北海道新幹線・函館↔札幌間の立岩工区(八雲町)で、トンネル掘削から出る有害重金属を含む土砂の扱いについて、新しい事実が出てきた。

3年前、独法・鉄道建設運輸施設整備支援機構(以後、機構)は、トンネル工事の掘削土の有効利用を八雲町に働きかけていたが、その際、機構は八雲町に「有害重金属が含まれている」ことを知らせていなかった。そこで、八雲町は、掘削土の受入先を町の広報誌で募集し、数件の応募を得た。

有害重金属を含むという記載はない。むき出しておくのではなく、地中に埋め込み、見えないようにすることが指示されている。八雲町広報誌「やくも」2013年7月号
有害重金属を含むという記載はない。むき出しておくのではなく、地中に埋め込み、見えないようにすることが指示されている。八雲町広報誌「やくも」2013年7月号

ところが、今年(2016年)の3月15日に開催された町民説明会で、機構は、掘削土に「自然由来の環境基準を超える有害重金属が含まれている」ことを明らかにしたのである。掘削土の受入先には、町が誇る自然も資源も豊富な遊楽部川沿いであることも明らかにした。

機構は、「遮水シート無しで敷地に盛土しても、有害重金属は浸透途中で土壌に吸着されて、環境基準値以下にまで希釈され、地下水へ排出されるので安全ですよ」と説明したのである。この発言は、有害重金属であっても自然界にもともと存在する「自然由来」のものなので、あたかも何の問題もないかのように判断を錯誤させる巧みな言い回しを使っていることに、機構への不誠実さ、不信感を否めない。

判断を誤ってはいけない。

誤魔化されてはいけない。

騙されてはいけない。

「有害重金属」そのもの以外の何物でもないのだ。

町民説明会後、井戸水への影響を心配する住民の声や、水産業への影響を懸念する漁業者からの声が上がり、「トンネル掘削土に有害重金属が含まれている」ことが、町民に広く知れ渡ることになった。

機構は、これまで有害重金属を含む掘削土は、遮水シートを敷き詰めた管理型置き場をつくり、そこに盛土し、常に浸透水をモニタリングしながら、適切に対応・管理していくと説明していたのだが、管理型置き場の話は、いつの間にか消えていた。いや、この話はもともと理想理念であり、現実には無かったかのようだ。はなから有害重金属の置き場を、どこにも造っていなかった機構は、町民を騙すことに失敗し、掘削土を持ち出すことが出来なくなってしまった。その結果、写真のように立岩トンネル工事現場の敷地内にどんどん山積みせざるを得なくなっている。

持ち出すこともできず、積み上げ続けられる有害重金属含有の掘削土:撮影:2016年5月23日
工事現場から持ち出すことも出来ず、積み上げ続けられる有害重金属含有の掘削土・撮影:2016年5月23日

有害重金属「フッ素」や「鉛」を含む掘削土から、土壌浸透しないように、「遮水シート」ではなく「防水シート」を敷いていると説明しているが、その実態は、呆れたものだ。

防水シートとは化繊の織物だ。かつ、すき間だらけに置いただけのものだ。有害重金属土壌浸透ダダ漏れだろう。横に流れた水は溝から土壌浸透するし、溢れ出したら、牧草地を汚染する。呆れるばかりだ。
防水シートとは化繊の織物で、すき間だらけのシートであり、これでは有害重金属は、土壌浸透し、地下水を汚染する。牧草地は汚染する一方である。撮影:2016年5月29日
有害重金属含有の掘削土のずさんさが見える。こんな管理をしていたのでは、有害重金属が水に溶出、土壌汚染、さらには地下水汚染へと広がるばかりだ。
いかに新幹線トンネル工事の掘削土処理のずさんさが判る。撮影:2016年5月29日
有害重金属含有の掘削土のずさんな管理をよく見ていただきたい。遮水シートも防水シートもないところに置いている。
有害重金属含有の掘削土のずさんな管理をよく見ていただきたい。遮水も防水シートもない。「適正な管理をします」と言って、見えなければ、こんなずさんな管理しかしない訳だ。撮影:2016年5月29日

土壌汚染、地下水汚染、河川水汚染、沿岸海域汚染へと広がっていき、その影響はとめどもなく大きなものになるだろう。当初の説明通りに、管理型の有害重金属置き場を設置して、次の世代に対して禍根を残さないよう、機構は責任を持って管理と対策をするべきだ。

風の強い日に現場を見て、ぞっとした。ここまで意識が欠けているのかと怒りすら感じる。八雲町の基幹産業である酪農業への配慮すらも微塵もない。

有害重金属が風に煽られて砂塵となって牧草地に降り注がれている。
有害重金属が風に煽られ砂塵となって牧草地にばらまかれる。撮影:2016年5月28日
有害重金属の砂塵がばらまかれる脇の牧草地で牧草を食む乳牛。機構さん、乳牛たちへの影響はないの…?
有害重金属の砂塵がばらまかれる牧草地で牧草を食む乳牛。 撮影:2016年5月28日

新函館農業協同組合八雲基幹支店はこうした事実は知っているのだろうか?機構と各団体とは協議しているから大丈夫という八雲町役場の立場だが、機構は都合の悪い真実は話さない。己の目で、現場を確認するしかないのだ。

有害重金属の粉塵が国道277号線にばらまかれ、汚染が拡大するばかりとなっている。あまりにもずさんな工事現場だ。
有害重金属を含んだ粉塵は、国道277号線にも飛散している。通行車は、窓を開けない方が賢明だ。

機構も、建設会社も有害重金属の扱いの意識が薄く、目に余るずさんな工事現場である。

立岩トンネル工事現場に掲げられた看板。撮影:2016年5月1日

工事施工者:戸田建設㈱が、現場代理を担っている。

機構は、新幹線は国策だから北海道の田舎者なんて、適当にあしらっておけば良いんだとでも思っていたのだろうか?国の天下り企業が、これ程ずさんな計画しか手がないまま、ひたすらトンネルを掘っている様が、滑稽に見えてくる。

独法・鉄道建設運輸施設整備支援機構は、北海道に新幹線を延伸させることに、闇雲に猛進する前に、この地で暮らす北海道民も、食や観光を支える資源の恩恵を受けている、その北海道の自然環境も大事な財産であることを忘れてはならない。これこそに損失を招きかねない事態を及ぼせば、新幹線を「経済の活性化」などと盛り上がる北海道を欺くことになる。さぁ、どんどん掘って、どんどん溜まるこの残土、一体、どこへどのようにして管理するのか?私たちは、真実のみが知りたい。