「函館↔札幌間トンネル掘削土の処理方法の危うさ」    サケ・サクラマスの母川回帰に影響はないのか…?

2016年3月26日に華々しく新幹線が北海道へ上陸。ただ華々しかったのは、開業日だけ。それでも乗車率は61%だった。現在、平日は最低で17%、開業から16日間の平均は27%。この先、年間赤字が約48億円と見込まれ乍ら、函館から札幌まで7割以上がトンネルという「もぐら新幹線」工事が始まっている。

問題なのは、北海道の山々を掘り起こし、土中で眠る有害重金属を放出させた後の処理の危うさである。八雲町立岩トンネル工事ではフッ素・鉛が含まれる掘削土が工事現場に山積みされ、どこか?へ運び出されている。

2016-04-07・加工済・立岩トンネル掘削工事入口・KAZ_0078
八雲町・立岩トンネル工事現場
2016-04-07・加工済・北海道新幹線・立岩トンネル工事現場・右の灰色の盛土がフッ素含む掘削土・KAZ_0077
右の灰色の盛土がトンネル内から掘り出された”自然由来の”フッ素・鉛など有害重金属が含まれるトンネル掘削土。

トンネル工事ではフッ素・鉛・セレンなどの有害重金属を含む掘削土が大量に排出される。この処理について、独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構に説明を求めると、「遮水シートを敷いた管理型保管施設で浸透水を確認しながら適切に管理していく」と回答していた。ところが、この掘削土を、地元農家へ土地の地盤材への利用を勧めて募っていたことが発覚した。(住民説明会・2016年3月15日)しかも野生サケが遡上する遊楽部川に隣接する敷地に保管することが決まり、一部でに投棄が始まった。八雲町は酪農と漁業が主幹産業である。

2016-03-15・北海道新幹線・立岩トンネル説明資料
立岩トンネル工区の有害重金属が含まれる地層図。2016年3月15日・八雲町住民説明会で配布された資料(提供・独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

機構は、「”自然由来の”有害重金属だから、遮水シート無しでも土壌に浸透させて吸着させるので、敷地から外へ流れ出しても環境基準内に収まるから影響は無いと考えている」と説明している。

北海道の水産業はサケ・サクラマス漁に支えられている。サケ・サクラマスは、母川回帰の習性があり、生まれた川に戻ってくる。この習性が北海道の水産業を支えている。母なる川の水のニオイを嗅ぎ分ける能力を持っているからだ。その能力をつかさどる器官が嗅細胞だ。北大水産学部の時代からサケの母川回帰の習性に着目し、ニオイを感知する嗅細胞の研究に取り組まれてきた北海道大学・上田宏特任教授は、重金属の銅がサケの嗅細胞数を減少させると報告している(2006年)。フッ素、鉛、セレン…その他の有害重金属ではどうなのだろうか。ところが、どのように影響を与えるのかについては現段階では誰も調べていないことが分かった。これらの有害重金属が嗅細胞に影響を与え、母川回帰の能力が失われるようなことがあれば、北海道の水産業は大打撃を被る。

機構の行為は大問題を孕んでいるのだ。

まさか、有害重金属を遮水シート無しで投棄するようなことなど誰も想定していなかっただろう。トンネル工事で発生する有害重金属土について機構は、土壌汚染対策法の規制外と説明し、自主的に対策をしているとの立場だ。(2016年4月5日)

独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構からの回答

有害重金属が含まれるトンネル掘削土は規制の対象外ということが露見した。また、フッ素・鉛・セレンなどの有害重金属が含まれた濁水はPAC(神経毒を含む)で添加処理され、処理後の水は遊楽部川へ放流されている。

2016-03-27・加工済・濁水処理水の放水口・立岩トンネル工事現場・KAZ_0283
トンネル内で発生したフッ素・鉛・セレンなどの有害重金属が含まれた濁水はPACによって濁水処理されて、遊楽部川へ流されている。
2016-03-27・加工済・濁水処理水の放水口・立岩トンネル工事現場・KAZ_0287
フッ素や鉛が含まれ、白濁し、泡立っている。
2016-03-27・加工済・PAC濁水処理水は遊楽部川へ排水される・KAZ_0327
フッ素や鉛の濁水がPACで処理された後、サケ・サクラマスなどの母川回帰する魚が棲む川へ放出されている。ホタテのラーバへの影響も未確認のままの放出だ。
2016-03-27・加工済・濁水処理水の放水口・立岩トンネル工事現場・KAZ_0345
フッ素・鉛の有害重金属が含まれる濁水処理後の水は灰色をしている。フッ素や鉛の影響が母川回帰へ影響を与えたらどうなるのだろうか。また、ホタテのラーバ(幼生)への影響についても機構は答えない。重大な危険性を孕んでいるのに不誠実な対応がされている。

独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構がトンネル工事を始めてから、北海道の自然、資源や暮らしに危機と不安が膨らむ。函館から札幌まで現在、19ものトンネルが掘削中である。

八雲町では、この掘削土を投棄する周辺で、井戸水を利用している農家がある。ところが、機構はそれを把握していなかった。「井戸水を使用している農家に、いつ、どう説明するのか?」と聞くと、「投棄が決まってから知らせる」と言う。 ………あなたの町で行われているトンネル工事による掘削土の処理方法や濁水処理に使用される薬品について、十分な検証と説明を受けていますか?怪しい自然由来と基準内という免罪符つきの有害重金属の汚染を、「環境基準内」という言葉で済ませて大丈夫ですか? (水は?水産資源は?イトウは大丈夫ですか?)重金属含有の残土の保管も、神経毒含有の薬品添加の濁水放出も、環境に影響を与えない対策は出来るのです。それには、事業者任せにしないで、疑問は声にし、正しいことを求める。私たちが関心を示す姿勢こそが大事なのです。

農林水産省、環境省や国土交通省、厚生労働省は、実際の現場での処理の在り方が、こうした機構の自主的な対策、(しかも、ずさんな)でしかないものであることを知っているのだろうか…?新幹線が国策だと言うなら、しっかりと監督・指導をしていただきたい。