注釈:市町村名は伏せています。
「嫌だと言ったんだけど…」おばあさんが呟いた。
北海道南部A町N地区:(注)の住民が暮らす家のすぐ裏に、北海道新幹線トンネル工事で掘られた残土が盛土された。沢地だった景色は、膨大な残土で盛り上がって変貌した。
北海道新幹線トンネル工事で掘り出される残土で、溶出量が国の環境基準を超えるヒ素やセレンなど有害な重金属が含まれているものを、鉄道運輸機構は、あたかも危険性が無いかのように「対策土」と呼び、環境基準以下のものを「無対策土」と称している。
この「対策」「無対策」の区分けは、畳50畳敷きにも相当するトンネル掘削面に、口径66㎜のボーリング穴をたった1本穿って、くり抜いたサンプル岩石を分析して区分けしたものである。
こんなずさんな岩石区分で、ヒ素やセレンの有無を判別することが、国の事業として認められるものだと驚く。しかも、”科学者”や”専門家”と肩書きのある大学教授たちで構成して設置された「第三者委員会」で、こうした区分けの手法を大学教授たちの委員が認めているのである。
処分地は高原状の平地、農地、湿地、川の源流部の「谷」などが、有害残土盛土地として、選定されている。
独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構が行う「谷」を残土で埋める方式は、骨材となるコンクリート擁壁などの工作物は無い。直に谷に残土を放り込んで日本道路協会の「道路土工・盛土工指針」に準じて”締め固め”して、谷を埋めている。
2024年1月1日の能登半島で発生した地震では「道路土工・盛土工指針」の道路があちらこちらで崩壊した。熱海の「土石流災害」でも、残土の盛土が崩壊し甚大な被害を起こした。つまりは、地震で揺すられ液状化した場合、残土は崩壊して流れ出しても、それを食い止める仕組みは存在しないのだが、第三者委員会は、この処分方式も認めている。機構はこの場所の残土は「無対策土」としているが、有害・無害の判別の不確かな残土である。
小さな谷を残土で埋めて、盛土した。その直下に人が暮らしている住宅がある。しかも、住宅の背後に迫る盛土には骨材となるコンクリート擁壁は無い。
第三者委員会の大学教授たちは、この地で暮らす住民の営みと住民の生命の安全をどう考えているのだろうか…?
水田用の「溜め池」に流入する水は、谷の沢水だ。その谷を掘削残土で埋めているが、水田の水源として水質の安全は科学的に保証されているのか…?この状況で水田農家は水稲栽培を続けることが出来るというのだろうか?この町の「お米」からヒ素が検出されはしないのだろうか?第三者委員会の大学教授たちは、こうした現場を承知した上で、水田の「溜め池」の水源への残土投棄を容認しているのだろうか…?
普通に暮らし、こつこつと水稲栽培を築き上げてきた地域の住民にとってはまさに寝耳に水だろう。
同じこのA町:(注)では、分水嶺となる源流部から谷沢へ、有害重金属を含む「対策土」が投棄されている。この分水嶺から流れる水を利用するU地区もT地区も:(注)米どころである。
水が流れる谷を埋めれば、残土の盛土から水が浸み出す。また降雨は土中に染み込み、粉塵で目詰まりを起こして土中のどこかで滞水することになる。つまり、残土は水潤んだ状態になる。ここから流域一帯は、汚染されることになる。そして地震が発生すれば、間違いなく液状化し崩壊する。骨材となるコンクリートの擁壁は無いのだから。専門家であれば、容易に想像できる筈だ。
沢は、捨てやすい。上から下に投げれば楽だからだ。よく目にする橋の下に捨てられたテレビや冷蔵庫など粗大ゴミは回収が可能だが、有害重金属含有の「対策土」はそうはいかない。私たちの命に不可欠な水は、すべて源流からはじまり、谷川を流れ沢水や湧き水を貯水して利用しているが、水資源そのものを失い、流域一帯を汚染させ続けることになる。
暮らしも営農も脅かされても何も言えない弱者につけこんだ愚行である。
鉄道運輸機構と第三者委員会の残土投棄場所の選定・手法に携わった人たち、行政の残土受け入れに携わった人たちに尋ねたい。
「もし、あなたの家のすぐ裏に、残土を捨てさせてくださいと言われたら、了承しますか?」
「もし、あなたのご両親の家の裏に膨大な残土が盛土されたら、崩れはしないか、大丈夫だろうかと心配になりませんか?」
「もし、あなたが農業者なら作物への影響が心配になりませんか?」