新幹線トンネル工事の排水問題。その3

独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構は、これまで「濁水に含まれた有害物質は、完全に処理をした上で十分に配慮して排水する」と言ってきた。ところが、記事(その2)のように、放流水槽での不適切な排水どころか、それとは別に「未処理のまま、排水をする」排水管を備えていたことが新たに発覚したのである。

「2本の送水管(白い管)で、PAC処理して放流水槽を経由し、川に排水する」これが、表向きのもの。しかし、その手前の藪の中に、樹脂製のホースと鋼鉄管が別に引かれていたのである。

施工責任者は、「2つの沈澱池が満水になったときに、処理することが出来ないので、そのまま川に排水するために設置した」と言う。ヒ素やセレンなどの有害重金属が混入した濁水を、未処理のまま川に流す行為は犯罪に等しい。追及すると、担当者は慌てて、「まだ流していない…流していない、沈澱池も満水になったことはない…」と、言葉に窮したのである。

排水した先には浄水場があり、直径4m✕深さ6mの井戸から浸透水を汲み上げている。この水を八雲町黒岩地区の住民が、水道水として利用している。

工事敷地内建屋の裏で、沈澱池に溜めきれない濁水を未処理のままルコツ川に排水する送水管口が見える。

排水する場所と浄水場の位置関係を下の写真で示す。

浄水場の脇にある排水口よりも上流から、川は濁っている。赤円はルコツ川からの堆積物。

正規の排水管口よりも、上流から白濁していることが分かる。工事現場があるルコツ川と濁りの無いロコツ川との合流地点では、堆積物が溜まっている。撮影時には、「何故、こんなことが起きているのか?」不思議だったのだが、トンネル工事現場内に「隠し排水管」があった訳である。これまで真摯に対応を行ってきた独法・鉄道建設・運輸施設整備支援機構のルコツ工区担当所長が、この「隠し排水管」で、未処理の排水行為を把握していたとは、よもや信じられない。信じたくはない。

何より、工事を請負う施工業者は、「沈澱池が小さくて溜めきれない」と自らが証明したのだ。「現状の沈澱池の規模では処理しきれない」と言っているのだ。この「隠し排水管」は、発覚した直後に撤去している。では、沈澱池が越水した場合、ヒ素とセレンが含まれる濁水はどうなるのか?更に「放流水槽」に溜まる処理しきれない沈殿物は、あろうことか撹拌して排水しているのである。今の沈殿池規模のままでは、こんな恐ろしい愚行が何年も続くことになる。鉄道運輸機構は、沈殿物をあえて撹拌して排水するような誤魔化しを即刻に中止し、容量不足の沈澱池の拡大増設と、処理施設の能力不足を改善するようにしていただきたい。

北海道新幹線トンネル工事で掘削された有害重金属や排水について、道民の関心は非常に大きい。これまで、私たちのような団体や町民、議員、新聞記者、様々な立場の人たちが現場へ視察に訪れている。誰もが、完璧な処理を行っていると信じてきたのである。そのすべての人々を欺いたのである。道民を、北海道を甚だしく舐めている。

このルコツ工区ひとつでも、このような重大な問題が起きる。北海道新幹線の長大なトンネルの掘削は、トンネル本坑距離の約5km毎に横坑を掘って、本坑に接続して掘り進めている。この横坑だけでも、1km前後もある規模の大きなものなので、有害重金属含有の掘削土は、横坑の分量と本坑の分量を合算した膨大な量になる。例えば、小樽-札幌間の札樽トンネル(約26km)であれば、工区は6工区になり、本坑だけではなく横坑の分量も含めた有害重金属掘削土が産出される。危険な土砂が発生することを事前に分かっていながら、処分の方法も処分場も決まらない。曖昧なままに着手された北海道新幹線札幌延伸工事は、大規模な環境破壊を孕んだ事業であることが分かる。

既に着手された横坑も、これから始まる全ての工区で、有害な重金属を含んだ掘削土が、どのように扱われ処分されるのか?ルコツ工区で露呈した隠し排水管が何を示唆しているのか?道民の皆さんの関心こそが、「北海道の豊かな自然や資源を壊さない新幹線にする」ことが出来るのです。