国際自然保護連合(IUCN)は、知床世界自然遺産地のルシャ川にあるダムによって壊れた川の改善を強く指導した。その後、ルシャ川で「河床路」建設の報道がされた。この「河床路」建設は、新たに人工構造物を作ることになるので、むしろ、良好な自然環境を損なうことになると当会は指摘している。
以下の資料を見れば、ルシャ川の自然の仕組みを損なうことが判る。IUCNの勧告を無視して、自然の仕組みを壊す工作物の建設を、なぜ、行政が容認しているのだろうか?
「知床ルシャ川における河床路に関する検討」2019 6/27 応用生態工学 安田陽一
河床は大小の多様な粒径の砂利で構成されており、時々の増水によって河床の砂利が下流へ押し流され、かつ、上流から流れてきた砂利で補充され、河床の砂利は、こうして、砂利が入れ変わる絶妙な仕組みがあり、砂利の移動はなかなかにして複雑な動きをしており、河床の砂利は維持されている。河床の砂利は、表層の砂利だけが動いているのではなくて、その下の層の砂利も一緒に動いているようだ。河床の砂利はある程度の「厚み」をもって移動していると考えると、大きな段差が生じる理由が見えてくる。
だが、現場では、基礎水理学や河川環境工学が専門の安田教授が検討された人工物の河床路建設に着手した。その後、ルシャ川の河床路はどうなったのだろうか…?
自然石を組み合わせた河床路では石がばらけて崩れ、うまくいかず、とうとう、力尽くで石を押しつける「モルタルで石を固める」手法に転じていた。出来上がった河床路は、見た目は自然石をコンクリートに埋め込んだまさに人工物そのものの「コンクリート舗装道路」となっていた。

河床路とは名ばかりで、透水性のある河床をコンクリート盤で覆うようなものになっていた。コンクリートに石を練り込んだコンクリート舗装道路を川に作ったようなものだ。
この場所は、カラフトマスやサケの産卵する河床となる場所だ。
カラフトマスやサケが産卵する場所を、コンクリート盤で覆うことはIUCNの勧告に反しているのではないのか?
河川を横断するコンクリート舗装道路は案の定、砂利の移動を妨げ、下流側の河床を低下させ、段差を生じ、かつ、コンクリート盤の下部の砂利が抜かれ、自然石を塗り込んだコンクリート舗装道路の河床路は脆くも道路の半分ほどが崩れ落ちていた。




写真を見れば分かるように、この河床路は川底を覆っているので、カラフトマスやサケは産卵できず、再生産の場を失わせることになる。こんなことは、世界自然遺産の理念として許されることではない筈だ。

石を塗り込んだ河床路というコンクリート舗装道路は、脆くも崩れ落ちている。
段差が生じ、水が滝のように流れ落ちているその下では、産卵のために海から遡上してきたサケが10尾前後、上流へ上れずに右往左往していた。


その後、段差が生じたところに、コルゲート管を敷設し、サケが上流へ遡上できるようにしたというが、この河床路の場所そのものがカラフトマスやサケ、サクラマスやカジカなどの多様な魚類の産卵場となる場所だ。その産卵場の機能を失わせる河床路建設は、どう考えても無理がある。IUCNの勧告に反するというよりも、川の多様な生きものたちの繁殖場を奪ってまでも河床路建設にこだわる科学者としての姿勢に疑問を感じざるを得ない。
自然界の仕組みを本当に理解された上で、河床路作りを手がけられてたのだろうか…?
最近、話題にされる科学倫理という言葉があるが、まさに、こんな時に問われるのではないだろうか。川のこと、魚のこと、現場をよく知り、よく観察されてから智恵を発揮していただきたい。
「サケがいない」ことを温暖化という前に、川の仕組みを壊して再生産が出来ない環境にしていることが、そもそも重大な話だろう。
この現場の上流には堤長が長大な治山ダムが連続してあり、間口の広いスリット化を行うなど、ルシャ川を蘇らせる取り組みがされている。今後、堆砂の流れ出しや立木の倒れ込みで、流路の攪乱が発生することを考慮して土砂や流木被害を受けないように、間口の大きい橋梁にすれば良いだろう。この工事が齎した失態を真摯に受け止め反省し、生物多様性保全に寄与した河床変動に耐えられる橋梁建設にすべきである。


遥か昔から遡上するサケマスを糧に生きてきたヒグマ、そこで共存した漁師の暮らし…知床ルシャは、世界に誇れるかけがえのない場所だ。世界自然遺産・知床ルシャ川を早急に蘇らせて欲しいと切に願う。
