知床・フンベ川の「自然石で飾られた魚道」のその後…

知床半島のウトロ近く、オホーツク海へ注ぐフンベ(噴辺)川。河口から少し上流に、2基ある治山ダムの下流側で河床低下が進行し、川に面した山の斜面が崩壊しており、水理学専門の安田陽一教授が、自分が考案したという魚道を敷設したことが、新聞で報道されてから3年が経過した。

ダムを温存させた「魚道」では魚は増えない

この魚道が設置されてから4年後、2025年10月1日に現地を再び取材した。

国道334号線橋の下流側はオホーツク海。河口には根っこ付きの流木が転がっている。今なお、崩壊が発生していることを示唆している。

フンベ(噴辺)川の河口には、根っこ付きの流木が転がっていた。崩壊が続いていることが分かる。国道334号線の直ぐ上流側でも山の斜面が崩壊している。

【写真①】・治山ダムの少し下流、国道334号線橋のすぐ上手でも山の斜面が崩壊しているのが見られる。崩壊面の下部がむき出しになり、水流で少しずつ浸食されているので、今後更に崩壊が拡大することになる。

河口から上流へ進むと、工事用の仮設の橋があった。橋のすぐ上手に2基の治山ダムのうちの下側のダムが見える。そこに新聞で報道されたモルタルで自然石を埋め込んだ魚道があった。この魚道の下端に、自然石で作られた河川横断工作物が階段状に設置されていた。

工事用の仮設橋。橋の前後には自然石を使用した帯工が複数設置されている。
仮設橋の直ぐ横に、自然石をモルタルで埋め込んだ魚道があった。その下流には、自然石を利用した帯工が複数設置されていた。

この仮設橋の下流側は、河床低下に伴う崩壊が見られている。前回に取材した時よりも、崩壊は拡大していた。

【写真②】・仮設橋の下流側では、河床低下に伴い、山の裾が崩壊しているのが見られる。
【写真②】川底が下がれば、山裾が水流で浸食されて、「砂山くずし」と同じ原理で、山が崩れ落ちる。河床低下は危険な現象なのだ。

このように治山ダムの下流では、崩壊が拡大し続けている。魚道を設置してもダムを温存させたままなので、川は壊れ続けているのだ。

さらに上流では、魚道の上端と治山ダムの提体左岸側の山が崩壊していた。

【写真③】・下の治山ダムの前後で、山が大きく崩れている。ダムの影響で今後も崩壊は拡大していく。
【写真③】・魚道が取り付けられた治山ダム。ダムの提体横の山が崩壊している。

さらに進むと、上流側の治山ダムの脇で、新たな魚道作りが行われていた。

治山ダムを温存しての魚道作り。
コンクリートの魚道に自然石をモルタルで埋め込んでいた。魚道の外側にも自然石がモルタルで埋め込んで飾られていた。
【写真④】・対岸(左岸)の山が崩壊している。

治山ダムに取り付けられた魚道。ここは自然の川なのに…まるで遊園地のアトラクションのようだ。

【写真④】・魚道が取り付けられた治山ダムの脇の山は崩壊が拡大している。

魚道は、コンクリートをすべて覆うようにモルタルで自然石が埋め込まれ、てんこ盛りに飾られ化けていた。

この治山ダム提体の左岸側の山は、大きく崩壊している。崩壊の原因はこの治山ダムにある。魚が上れないのは川が壊れているからであり、そのダムを温存させたまま、魚道で放置していれば、川はいつまでも壊れ続け、再生産の仕組みが失われ、やがて上る魚もいなくなることだろう。

2基の治山ダムと魚道作りの現場の全景。フンベ川河口からドローン撮影。

単純な川だが、奥は深い。上流には町道があり、橋が架けられている。この橋の基礎部はコンクリートで固められた河川横断工作物になっているので、砂利の流れ出しに差分が生じ、下流側で河床低下が進行して山の斜面が崩れている。崩壊によって生産された土砂が下流の治山ダムに溜まり、上流へ、上流へと向かって堆積し続けていく。やがて、V字谷は平な川になり、自然の摂理に反した川が出来あがるのである。

上流には農地が見える。

下2枚の写真は、治山ダムと崩壊地の位置を示している。治山ダムの影響で①~④が崩壊している。

崩壊地を示す。2基の治山ダムの脇でそれぞれに崩壊が見られ、下流では河床低下に伴う崩壊が見られている。
国道334号線の橋の直ぐ上でも、山が崩壊しているのが見られる。
山が崩れたら、当然、泥水となって海に流れ出す。泥水の影響は甚大だ。ダムの影響をしっかりと考えなければならない。

今後、フンベ(噴辺)川は、治山ダムから上流は堆砂が溜まり続けてV字谷が平らな川になるだろう。そうなれば澪筋は蛇行するようになり、新たに山裾の各所で浸食されて「砂山くずし」のように、山が崩壊するようになる。このまま放置すれば崩壊箇所は増え続けて規模は拡大していくことになる。そして、崩壊によって発生した土砂が泥水となって川から海に流れ出し、河床や海底に砂やシルトをまき散らし、川では魚類・水生生物が減少し、海底では岩礁が泥を被ることになり、海藻の遊走子の付着が阻害されるようになり、磯焼けが広がって行くことになる。

河口から治山ダムの間やダムの堆砂域では、魚たちは産卵できなくなり、カラフトマスやサケ、サクラマスの資源が激減した。治山ダムの影響を温存したまま、魚道を設置したところで、所詮はその場しのぎである。治山ダムの堆砂域、及び、ダムの下流側で損なわれた産卵環境は蘇えらないから、魚が増える訳は無い。魚道作りは、そもそもが自然界の仕組みに深刻な打撃を与えるダムの作用(影響)を温存させての事業であり、改善を先送りさせる見せかけに過ぎない。

河口から上流までカラフトマス、サケ、サクラマス、オショロコマなどの多くの魚種や多様な水生生物が世代交代できる安定した川に蘇らせるために、2基の治山ダムは早急に撤去するべきである。