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治山ダムが生んだ日勝峠の崩壊とペケレベツ川の荒廃

2018年4月~5月に開通した国道274号線で日勝峠を越えた。

山腹の崩壊が見られる。
崩壊した国道は補修されていたが、こうした谷は橋梁構造に出来ないのだろうか。

降った雨は山の斜面を流れる。山の斜面には起伏があり雨水は谷に集まる。この雨水の通り道に建設された国道は、川のようになった水が法面を浸蝕させ、道路もろとも崩落。谷を埋めて道路にした区間では、排水管が塞がり水が溢れ出して崩壊…。こうした場面はこれまでも何度も見てきた。雨水対策の甘さを感じる。谷は大きく跨ぐ「橋梁構造」にする対策を選択しないのは何故なのか? 管理者である同じ開発局には、山を削らず、谷を塞がず、橋で大きく跨ぐ構造にしている事例がある。それが下の写真にある知床半島のウトロから浦臼を繋ぐ国道334号線である。

知床半島の付け根、知床峠を経由してウトロと羅臼を繋ぐ国道334号線では道路が崩壊するのを避けるように山を削らず、谷を埋めず、橋梁構造にしている。こうすれば日勝峠の道路崩壊は免れただろう。撮影:2018年7月1日

峠の清水町側で目にしたのは、ペケレベツ川の荒廃だった。川の両岸が崩れ、川幅は広がっていた。川の荒廃の始まりは国道274号線からも始まっていた。十勝川水系ペケレベツ川(清水町)は、2016年8月30~31日の台風10号の豪雨で土砂・流木が市街地に押し寄せる災害が発生。家屋が流され、橋の取り付け部が流されて車が転落する犠牲者が出た。

今回、この国道の崩壊箇所と、甚大な災害があったペケレベツ川の荒廃地点が重なることについて考えてみたい。

国道274号線直下を覗き込むと、ペケレベツ川の崩壊の始まりが見られる。
両岸の崩壊が見られるペケレベツ川。

両岸が崩壊して川幅が広がったペケレベツ川には新たな砂防ダムが2基、建設されていた。

両岸が崩壊し川幅が広がった。そこに砂防ダムが2基、建設された。

このずっと下流には底が抜けた1号砂防ダムがある。すでに底が抜けているので、その直下に堤長200m規模の砂防ダムを新たに建設中である。

底抜け下1号砂防ダムと新設された堤長200m規模の砂防ダム・撮影:2018年4月29日

この豪雨で壊れた1号砂防ダムを見ていただきたい。底抜けしているから魚道もグシャグシャだ。ダムの下流は河床が下がる。この1号砂防ダムから下流全域も例外なく河床が下がっていた。増水は川岸を砂山崩しのように容易に崩壊し、川幅を広げ被災を大きくする。ダムの下流で起こる河床低下が崩壊を誘引し土砂災害を起こす。それでも尚、堤長200mクラスの大規模なダムを新たに建設するという乱暴なやり方だ。

底抜けした1号砂防ダム・ダム直下から砂利不足になるので、当然の帰結なのだ。しかし、また新たに砂防ダムを建設…自作自演の河川事業だ。撮影:2018年4月29日
底抜けした1号砂防ダムのすぐ直下に堤長200mクラスの巨大な砂防ダムを新設。撮影:2018年4月29日

ドローンで見る「ダム下流では何が起きているのか?」

ダム直下から川底が下がる。そこへ増水が押し寄せれば、「砂山くずし」状態でバタバタと川岸が崩れ、山が崩れるのが道理なのだ。その結果、川幅が2倍、3倍に広がるわけだ。撮影2018年4月29日

山が大規模に崩壊して川幅が異常に広がっていることが判る。この下流には堤長278mの巨大な2号砂防ダムまであり、この堆砂は上流へ向かって広い平らな面をつくっている。その平らな面を水が流れ、溝筋が蛇行して左右の岸を崩壊させ、山崩れを発生させている。崩壊する前の川の状態はGoogle Earthで見ることができる。川筋は鬱蒼とした樹林に覆われて見えない。ダムがなければ、増水しても樹林の中に水が入り込むだけで、川岸や山を崩壊させたりするようなことは無い。2号砂防ダムの堆砂域では川岸の樹林が川岸もろともごっそりと崩れていることが分かる。

では、「ダム上流では何が起きているのか?」

ダムが溜めている堆砂域を見ていただきたい。ダムは砂で埋まり、V字谷が広く平らな面になっている。その上を洪水が流れ、澪筋が暴れて、崩壊させていることがお分かりだろう。

底抜けした1号砂防ダムの上流は堆砂で平になっている。平らな面を水は蛇行して流れる。この蛇行の流れが川岸を浸食し、山の斜面を崩壊させる。つまり、ダムが河岸を崩壊させ山崩れを誘引していることが読み取れる。撮影:2018年4月29日
ペケレベツ川2号砂防ダムの堆砂域。V字谷だったところがだだっ広い平らな面になっている。その上を澪筋が蛇行して流れている。両岸は崩壊している。

つまり砂防ダムは、ダム下流でもダム上流でも両岸を浸蝕し、山をも崩壊させる。「砂防」という名を付けられていても、実は土砂・流木災害を生み出す危険な構造物なのである。「百害あって一利無し」の災害誘発構造物(災害製造機)といったところだ。