親から独立した”あどけない子グマ”との遭遇

2022年10月20日、当会外部スタッフの釣り雑誌フリーランス・ライター&カメラマンの浦壮一郎氏と、北海道南部のスリット化した砂防ダムを視察した際、この年に親から独立した若いヒグマに遭遇した。ヒグマはエゾタヌキを追い回し、襲うというよりも、無邪気にじゃれ合っているようだった。エゾタヌキには迷惑この上なく、身を守ることに必死の形相だった。遊び相手を探していたのだろうヒグマは、私たちのいる川に出て来た。
エゾタヌキを追いかけて子グマが私たちのいる川原に出てきた。エゾタヌキを襲うという様子ではなく、遊び相手になってほしくて、エゾタヌキを追い回していたように見えた。
子グマに追い詰められたエゾタヌキはめいっぱいに反撃していた。
子グマとエゾタヌキのことの顛末を見届けるのもいいが、スリット化した砂防ダムを見に来る人も多い川なので、人前に出て来るようになったら困ると考え、仲裁に入り、子グマを追い払った。その経緯を浦氏がビデオ撮影しており、「つり人社」からyoutube版で公開している。
実録!ヒグマが至近距離に……その時どうする?:https://www.youtube.com/watch?v=BdpAG5kYZ30
私は子グマを追い払った。私の追い払いに対して、子グマは尚も纏わりつき、近づくことを繰り返した。個体により性格は様々だが、この個体はよほど好奇心が強いようだった。私の追い払い動画は、こうやれば、子グマがどう反応して、どう行動するのかが分かっていただけると思う。
コメントには、手出しをした事への批判があったが、この子グマの将来を考えれば、人前に出て来ないように学習させることが必要と考えて対処した。この個体は、親から独立し、まだ何も知らないあどけない子グマと分かったので、こうした対応ができた訳だ。しかし、既に経験を積んだ成獣では、動きも俊敏で、力もあり、性格もいろいろで、どのような行動を取るのか判らないから、姿を見たら、関わることなく、入域を断念して引き返す判断が必要だ。動画からヒグマとの不意の遭遇や、執拗に纏いつかれる事もあることを知っていただき、身を守る装備や方法を今一度、考えていただければと思う。フイールドでは、フォイッスルや声かけなど、人の存在を前もってヒグマに知らせるように意識して入域して欲しい。
2023年の3月に、この子グマと同じような、あどけない子グマが札幌市南区の小金湯付近に出没し、新聞、テレビで報道され、騒ぎになった。警察、専門家も含め行政は、この子グマを前にして、何もしないで遠巻きに眺めているだけで、追い払うようなことは行わず放置し続けた。その結果、この子グマは人がいても自分の身に危険は無いと学習したのであろう、人馴れしてしまい、人を見ても逃げなくなり、その結末…危険になったという理由で、4月に鉄砲で撃ち殺された。
北海道のヒグマ対策は、ヒグマの専門家によって40年以上も前から取り組まれてきている。それなのに、目の前にいる、あどけない子グマすら、追い払いをしない。遭遇対処の経験が無いから出来ないのだろう。これまでのヒグマ対策は、すべてが追い払いを行っておらず、徘徊を放置したままにし、その結果、ほとんどの事例が、檻罠で捕獲して鉄砲で撃ち殺すことをしている。
一方、知床半島の番屋ではヒグマの専門家でも無い漁業者が、ヒグマの行動を実に詳しく観察しており、出没ヒグマの追い払いを実践している。その結果、その地区では、ヒグマとの共存が確立されている。こうした事例があるのだから、北海道のヒグマ対策は、捕獲して殺すのではなく、出没した際のヒグマの追い払い方法をこそ確立してほしいことを切に願う。